想いの続き(55/59)PDFで表示縦書き表示RDF


原作キャラの今・・・瀬川泉。白皇卒業後に進学した大学で出会った男性と結婚したが、夫は交通事故で急死。現在は娘美沙と二人だけの母子家庭。職業は絵本作家をしている。
想いの続き
作:山口多聞



クラウス爺さん 下


 自殺未遂を起こし、危うい所で助けあげられたクラウスは、勇人たちの手によって屋敷まで連れてこられた。そしてナギたちから叱責を受けていた。

「クラウス!お前一体何を考えているのだ!」

 ナギが目の前に座り込むクラウスに怒鳴る。

「痴呆がひどくなったのならそうだと何故言わない!?言ってくれれば三千院グループの病院で治療させてやるのに!」

 ナギの怒りは大きい。彼女としては例え隠居したとはいえ、同じ家族の一員であるという意識を持っていた。それなのに全く相談もせず、あまつさえ自分勝手に自殺しようとしたのだから、怒れて当然である。

「本当にすいませんお嬢様。しかし、お嬢様やハヤテ。それにマリアたちに余計な心配掛けたくなくて。」

 クラウスが力なく言う。

「だからって自殺なんて考えないでくださいよ!!そっちの方が迷惑ですよ。」

 こう言うのはハヤテだ。

「本当に水臭いですよクラウスさん。言ってくれれば力になりますよ。私達はこの三千院家に住む家族じゃないですか。」

 と天使が手を差し伸べるように言うのはマリアだ。

「とにかく自殺だけはやめてください。後片付けが面倒ですし、なにより皆悲しみます。」

 こう言うのはSP長の健二だ。

「皆もこう言っているんだ。とにかく今後自殺は絶対に許さん。取りあえず病院に行って治療を受けろ。」

「わかりました。」

 まもなく、ナギが指し回した車でクラウスは三千院グループの病院へと向かって行った。そしてナギたちは取りあえずお客様たちに返って頂いて家族揃っての対策会議となった。

「どうするべきだと思う、ハヤテ?」

「やっぱり何かの仕事をしてもらった方がよくありません。人と付き合ったほうが痴呆の防止になるって聞きますし。」

 ナギの質問にハヤテが答える。

「けど仕事って何があるんでしょうかね?体力的にSPや執事の仕事をやらせるのは酷だと思いますが。」

 そう述べるのは健二だ。

「健二君の言う通りですね。クラウスさんは完全に引退しましたから。今空いているポストなんてありませんわね。」

 健二に同調するようにマリアも言う。

「うーん、そうか・・・お前達はどうだ?」

 ナギは子供たちにも意見を聞いてみる事にした。それに対して最初に答えたのは紫だ。

「じゃあ執事には復帰してもらって、体力関係の仕事だけはしてもらわなくて良い事にしたら?」

 しかしこの案はハヤテによって即否定された。

「それはだめだよ。クラウスさんのことだから、余計老いた事を意識してまた思いつめちゃうよ。」

「あ、そうか。」

「次。」

 ナギが今度はとなりに座っていた優に聞く。

「ええと、そうですね。じゃあ新しく何か役職を作ってあげるとか。」

「一体どんな?」

 聞き返したのはハヤテだ。

「例えば人手が足りない所を手伝う仕事とか。」

 優にしてみれば、これでクラウスに仕事が行って、しかも他の使用人たちの仕事が軽減されるという目算があった。しかしこれはマリアによって否定された。

「あのそれって言うなれば雑用ですよね?執事長であったクラウスさんにそんなことやらせて良いものでしょうか?」

「あ!?」

 優が思わぬ指摘に声を上げる。

「そうだよな、クラウスさんは執事長であったことを誇りにしていたもんな。雑用仕事じゃあまりにも落差が大きい気が。」

 そう言うのは健二だ。

「うう・・・」

「それに使用人の手が足りていたらそれこそ何の仕事もないことになっちゃうよ。やっぱり定期的に働ける仕事じゃないと。」

「・・・・」

 ハヤテの言葉に彼女は黙りこんでしまった。

「次。」

 今度は勇人に番が回ってきた。

「うーん・・・何かクラウスさんにしか出来ない仕事があれば良いけど。そんな仕事あるかな?」

 真里奈が頬に人差し指を当てながら考える。

 その後15分ほど皆で話し合った。




 その日の夕方、クラウスが病院から帰ってきた。

「ただいま戻りました。」

 彼をナギが出迎えた。

「おお、クラウス。どうだった?検査の結果は?」

「はい。まだ軽い物だと言われましたが、今後悪化する可能性もあると。とにかく、一応薬は貰えましたが、いよいよ私も年貢の納め時のようです。」

 そういうクラウスの表情は暗い。

「そんなこと言うな。実はハヤテたちと話し合って決めたのだが、お前に仕事をしてもらおうと思う。」

「はい?しかし私は既に70過ぎです。とても以前のように働くことは出来ませんが?」

 クラウスが怪訝な表情をした。

「別に執事をやれと言っているのではない。クラウス。お前がこの屋敷に仕えて何年になる?」

「はい・・・かれこれ50年近くは経ちましたが、それが何か?」

「お前より年上の人間が今この屋敷にいるか?」

「いいえ。」

「そういうわけだ。お前はこの屋敷で一番古株だ。この屋敷は、なんだ。世間の一般から見れば少し広いらしいからな。何年も放置されている建物とか倉庫がある。だから、お前にはそれらの手入れをしてもらいたい。」

 このナギの言葉に、クラウスは大いに驚いた。

「しかし、私はもう役にも立たない老人ですよ?」

「バカ者。お前はこの屋敷で執事長をしていた人間だろう?だったらそれくらいのこと出来るだろ?別にお前自身が片づけるわけではない。力仕事は他人任せでいい。お前は見回りと調査をやってくれれば充分だ。それなら出来るだろ?・・・クラウス。これは子供たちから出た意見なんだ。」

「え!?」

「皆お前のことを心配しているんだ。だから、ぜひ引き受けてくれないか?私からのお願いだ。」

 そしてナギは軽く頭を下げた。

「お嬢様、顔をお上げください。本当に私で宜しいのですか?」

「ああ。」

「でしたら。この倉臼征四郎。老骨に鞭打って、御奉仕させて頂きます。」

 こうしてクラウスは再び現役に復帰することとなった。この言葉を扉越しに聞いていた面々は一様に安堵のため息を漏らした。


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