生徒会長の恋 本音編
「なんとか撒いたな。全く、こりんやつらだ。」
自分たちを尾行していた人間にボヤク朴。
「多分今のは画像研究部の由希ですね。ちらっとですけどカメラが見えましたから。」
「皆グルなんだろうな。本当に暇な奴ら。」
後輩たちの行動にほとほと呆れる朴。自然と溜息も出てしまう。一方、櫻はそれを笑いながらたしなめる。
「まあまあ先輩。あの子達だって悪気があってやったわけじゃないでしょうし。それに、昔に比べれば随分と良いですよ。お母さんの話じゃ、昔の動画研究部なんか色々な映像をネット上に流して迷惑掛けまくっていたそうですから。」
その言葉にさらに溜息を出す朴。
「ハハハ・・・上には上がいるのか。この学院では常識を捨てなきゃいけないといつも思うよ。」
自分のことは棚に上げて、そんなセリフを吐く朴。しかしすぐに頭を切り替えた。
「ま、今は仕事しなきゃな。いくぞ桂。」
「はい。」
2人は再び警備の仕事へと戻った。
その後迷子への対応やら落し物への対応やら、危険行為をしているコーナーへの注意をしたりと本来の仕事をしっかり行ない、2人は1時間後、次の担当者に引継ぎを行なった。
「終わったな。」
「ええ。取り合えず、大きなトラブルは何も起きなくて良かったですね。」
「だな。さてと、1時半か。そういえばお昼まだだったよな。何か適当に食うか。」
普段ならこんな時間に食事を摂ることはない。何故なら既に授業が始まっている時間だからだ。もちろん、そんな時間であるから購買も学食も閉まっているのだが、今日は学院祭。出店ならそれこそ腐る程出ている。
「あ、だったら私もまだなんで、御一緒して良いですか?」
「いいのか?誰か友達と一緒に食事したいんじゃないのか?」
「ええ。どうせ皆忙しいはずですし。」
「そうか。」
その後、近くの店で弁当を買い込んだ2人であったが、今度は食べる場所がない。休憩所はどこも人で満席だった。
「参ったな。」
と、そこで櫻が思いついた。
「だったら生徒会室で食べましょう。あそこならお茶のセットもありますし。今なら誰もいないからゆっくり出来ますよ。」
すると、朴が呆れるように言う。
「おいおい。それは公私混同だぞ。」
一応生徒会の副会長として言ったのであろうが、軽い口ぶりからしてあまり厳しく言う気はないようだ。
「大丈夫ですよ。他の人だってたまに使っていますし。私達は生徒会の人間なんだから。」
「わかったよ。じゃあ、行こうか。」
2人はそのまま生徒会室に移動した。そして少し遅い昼食をようやく食べる事が出来た。
「はあ。午前と昼は何事もなく終わったな。夕方からの後夜祭は生徒だけだし、今年も無事に終わってくれそうだな。」
「そうですね。先輩は出ますか?後夜祭。」
後夜祭は文字通り、生徒たちが学院祭の終わったあとの余韻を楽しむお祭りだ。有志の歌やダンス等の出し物もあれば、実行委員会による多人数でやれるような企画もある。そしてこの中で一番人気が、最後に行なわれるダンスの時間である。これは好きなペアで踊る物だがさすがに上流の子供が多い白皇学院であって、結構本格的だ。
「どうしようかな?まだ迷ってる。けど歌とかダンス見るのも興味ないし、最後のダンスもやる相手がいないしな。」
すると、櫻がこんなことを言った。
「私じゃ駄目ですか?」
「え!?」
突然の不意打ちに、朴は間抜けな声をだした。
「あの、べ、別に、好きとかそういうことじゃないんですよ!ただ、日頃お世話になっているから、その、なんて言えば良いんだろう・・・」
櫻が顔を少し赤くする。一方、復活した朴はそんな彼女を愛しそうに見る。
「そうか。レディーのお誘いを断っちゃ悪いよな。だったら、謹んでお相手させてもらうよ。」
「あ、ありがとうございます。」
櫻はここ最近彼に惹かれる自分をしっかり感じ取っていた。だから、先ほどの言葉が意識もしていないのに出てしまった。
「それにしても、お前の方から男を誘うなんて、誘われた自分が言うのもなんだけど、結構すごいことだよな。」
「せ、先輩!」
櫻が顔を真っ赤にして言うが、実際間違ってはいない。母親同様美人(しかも母親よりルックスが良い)である彼女に声を掛けたり、アタックしてくる男子は、月に両手で数えるには足らないほどいる。しかし、彼女がその誘いに乗ったことはない。
彼女曰く「会った事もないような男子からのお誘いを受ける気なんかしない。」であった。そんな彼女が、ダンスの相手に自分から男子を誘うなんて本当に驚天動地の出来事と言って良かった。
「ごめんごめん。」
「もう。・・・あの、先輩?」
「うん、何?」
「先輩は・・・もし私が好きっていったら付き合ってくれますか?」
櫻はかなり大胆な質問である。遠まわし付き合ってくださいと言っているような物だ。
「それは仮定としての答えを言えばいいのかな?」
櫻はコクンと頷いた。
「そうだな・・・嬉しくないって言ったら嘘になるけど、俺自身がお前には釣りあわないと思うな。」
「え!?どういう意味ですか?」
朴の意外な言葉に、櫻は驚きを隠せない。
「確かに俺はお前の事を嫌いじゃない。むしろ好きだ。付き合ってみたいと考えたこともあるよ。けどさ、お前の家はお母さんが白皇の理事長で、お父さんが名門の屋敷の執事兼SP長だろ。別に差別するわけじゃないけど、どちらかというと上流だ。それに比べて、俺は北朝鮮出の難民の子供だ。今だって、ようやくギリギリの線でここに通えている始末だ。とても女の子と付き合える甲斐性なんかない男さ。」
朴はいつものような口調で言ったが、その目にはどこか哀しみが帯びているように櫻には感じられた。
「そんな・・・私はそんなこと気にしませんけど。」
「お前が良くても、そしてこの白皇学院の人間が良くても、日本も狭いようで広いからな。決して全ての人間が俺みたいな人間を受け入れてくれるわけじゃない。それに、さっきも言ったが、俺には今女の子と付き合うだけの力がないんだ。」
朴の言葉には、暗に差別的な物が未だ存在する事をほのめかしていた。これは事実だった、表面的にはなくても、人の心の中に巣づく差別は未だにたくさんあるのだ。外国人差別や部落差別がそれだった。
朴の場合はこちらに来て10年ほどしか経っていないいわゆるニューカマーだ。口には出さないが、それなりの辛酸はなめてきたかもしれない。いや、実際なめたのであろう。
「お誘いありがとな。絶対に行くからな。それじゃあ、俺はクラスのほうに戻るから、また夕方な。」
そう言い残して、朴は1人先に出て行ってしまった。
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