生徒会長の恋 足踏み編
午前中、櫻は生徒会の事を頭の隅に置きつつ、久しぶりにクラスの活動に精を出した。ちなみに、櫻(勇人や紫たちも一緒)のクラスの出し物は喫茶店だ。
もっとも、勇人や紫、真理奈に櫻といったメンバーがメニューやらなんやらを色々取り仕切っているおかげで、かなり本格的になってはいたが。
そして12時半前、生徒会の警備の仕事の引継ぎを行なうために、彼女は生徒会室へと向かった。ちなみに、今回一緒に仕事する予定なのは美沙であった。
「じゃあ、私先に言ってるね!」
美沙が何時もどおり、いやそれよりも明るいニコニコ顔で櫻に声を掛けた。
「うん、私も直ぐに行くから。」
先に手が空いた美沙が教室から出て行き、1分ほど送れて櫻も切りの良い所で仕事を終えて、美沙が待っているはずの生徒会室へと向かった。しかし、そこで待っていたのは。
「あら、朴先輩?どうしてここにいるんですか?確か朴先輩の担当は1時半からじゃ?それに、美沙が着いているはずじゃ!?」
彼女が目にしたのは、1つ前のローテーションで警備をしていた生徒会役員から引継ぎをしていた朴であった。予定表ではこれから櫻と一緒に警備を行なうのは美沙の予定である。櫻は今ここで彼と鉢合わせするなんて夢にも思っていなかった。
「いや、瀬川が手を離せないからローテーションを変わって欲しいって言ってきたから。」
「え!けど、美沙は私より先に教室から出たはず・・・」
と、そこで櫻は頭を回転させた。今回の突然の警備のタイムテーブル変更は紫が伝えてきたものだったが、勇人や美沙と言ったその他の生徒会のメンバーはほとんど混乱無くそれを受け入れていた。むしろ、承知しているといった顔ばかりであった。
さらに、美沙はつい先ほどまで朴に言ったような事情があるようには見えなかった。おまけに、その笑顔がいつにも増して笑っていた気がした。つまり、これは美沙が故意に仕掛けた事だから・・・
「謀られた!!」
思わず櫻は叫んでしまった。目の前には朴がいると言うのに。
「は!?」
その事に気付いた櫻。
「あ、す、すいません。いきなり大声出して。」
櫻は朴に向かって頭を下げた。しかし、朴はいつもの表情で言う。
「いや、俺もだいたいわかったから良いよ。全く、瀬川だけじゃないな、多分勇人や紫もグルだろう。あいつらそんなに俺とお前にくっ付いて欲しいのか!?」
彼が呆れる相手は、大声を上げた櫻よりも、背後で色々と謀略を行なっていた生徒会の面々であった。もっとも、実際には朴が予想している以上の人間、すなわち理事長のヒナギクや生徒会OBであるハヤテ達も大きく噛んでいたのだが。
とにかく、朴はバカなことに頭が回る後輩連中の強かさにただただ呆れるだけだった。
一方、櫻のほうは確かに少しは呆れたが、実際の所は少し嬉しさ交じりだった。彼女はそんな事を考えているのは億尾にも出さず、話題を変えた。
「まあ、もう良いじゃないですか。とにかく、仕事をしましょうよ先輩。」
「そうだな。生徒会の仕事を俺たちがサボるわけにもいかないからな。じゃあ行くか。」
「ええ。」
そう言って彼らは、腕に生徒会の腕章を巻くと、生徒会室を降りて、学院際で盛り上がっている校内を一周する形で警備の仕事に就いた。
仕事は至って簡単、というか退屈な物だった。なにせ、白皇学院には私設SPがいるのだ。万が一妨害を企ててやってくる不届きな輩が来た所で、水際でボコにされ阻止されるのが慣例だった。だから、学院内部で起こる問題などない。良い所迷子か落し物ぐらいだ。
しかし、もちろんだからといって2人が手抜きして良いわけがない。
いつもどおり真面目に仕事に就いた2人であった。ところがしばらくするとそんな2人に背後から突き刺さる視線を幾つも感じた。もちろん、母親同様剣道で五感を鍛えている櫻と、これまでに多くの困難を乗り越えて生きてきて、勇人以上の体力を持っている朴の2人は直ぐにその視線に気付いた。
「どうします?」
櫻が後ろにわからないよう、小声で朴に話し掛けた。すると、すぐに朴が返事を返した。
「相手はだいたいわかってる。次の角を曲がったら撒こう。相手の死角に入ったところで、全速でダッシュだ。いいか?」
朴が言うと、櫻が軽くウインクした。
「了解。」
5ヶ月以上生徒会で働いてきたおかげが、はたまたここの所喫茶ドングリで一緒に仕事をしているおかげかわからないが、2人はお互いのことをしっかり理解しあっていた。
2人は全く変な素振りを見せないまま角を曲がった。そしてその途端、猛然とダッシュを開始した。それはもう凄いスピードだった。目撃者の言を借りるなら、「いきなり角を曲がった少女と少年が消えたんです!本当なんです!」というぐらい見事な逃走だった。
もっとも、追っている相手もいくらか予想していたのか。その5秒後にはその角に辿り着いた。しかし、その時には2人の姿は影も形もなかった。もちろん音も、さらには気配さえ残していなかった。
「ハア・・・ハア・・・いない。ハア・・・ハア・・・さすがにやるわね。・・・あの2人。」
いきなり走ったために息切れしてしまった由希。喋る言葉が途切れ途切れになっている。その手には2人の恋愛を記録するためのビデオカメラが握られていた。そんな彼女の隣には、眼鏡の美少年が全力ダッシュしたというのに汗1つかかずに立っていた。
「見事に撒かれちゃったね。なるほど、母さんの言っていた通りだね、白皇学院の生徒会って言うのは。体力が半端ないや。」
笑いながら肩を軽く竦めてそう言うのは、サエキだった。彼の場合、両親譲りの化け物級の体力で充分2人を追えたのだが、母親の遺伝のせいかマラソンが不得意な由希を気遣って先走るようなことはしなかった。
「うう、甘かった。まさかああも簡単に気付かれるなんて。」
由希はがっくりと肩を落とした。そんな彼女に、サエキが慰めの声を掛ける。
「そんなに落ち込むことないよ。あの2人が異常なんだって。2人とも後ろに目がついているんじゃないかな?」(サエキ自身こんなことを言える立場ではない。)
「かもしれないわね。・・・それにしても、喉渇いちゃったわね。」
「だったら、近くの売店でジュースでも買う?」
「そうしましょう。」
2人は仲良く並んで歩き出した。
この2人、案外雰囲気良かったりする。
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