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想いの続き
作:山口多聞



生徒会長の恋 始動編


 9月も2週目に入ると、白皇学院内の空気は大分騒がしい物となる。10月の1週目に行なわれる学院祭の目前であるからだ。

 白皇学院は小等部、中等部、高等部とあるが、この内小等部と中等部の学院祭はやることが演劇や合唱などと固定されている。しかし、高等部からはクラス企画、部・サークル企画、有志企画など様々な企画が催される。

 また、教師の手から離れて生徒独自で様々な企画を自主的に執り行っていくのも大きな違いである。

 夏休み前には学院祭の実行委員会が立ち上げられ、彼らが多くの規則を決め取り仕切るが、実際の所様々な裁可を下すのはその上部組織である生徒会だ。

 そう言うわけで、生徒各々が学院祭への準備や練習を行ない、胸躍らせている時、生徒会の面々は様々な場所から上げられる報告書に目を通し、裁可の印を押し、さらにそれを教師に渡すという事務仕事に追われていた。

 とりわけ、会長である桂櫻は多忙の域を通り越して、完全なオーバーワーク状態だった。

「生徒会長!野球部より最終企画書が来ました。裁可お願いします!」

「生徒会長!学生担当の大下先生から、当日のタイムテーブル表の最終案を出せと督促が来てます!」

放課後、生徒会室にある生徒会長席には、書類の提出や判を求める生徒、さらには教師からの連絡役を仰せつかった生徒らでごった返していた。

 櫻は迅速にそれらの仕事をさばいていくが、1人で出来る事にはやはり限界がある。

「もう、どうにかして!!」

 サービス残業のサラリーマンじゃあるまいしと思いつつも、これが非情な現実であった。

 もっとも、何も彼女のみがこのような状態に置かれているわけではなかった。他の生徒会役員も似たり寄ったりの状況だった。皆自分の仕事で精一杯という状況の者ばかりだった。

 ただし、努力はしているが仕事の能率が非常に悪いという生徒会役員も多かった。今年の生徒会役員は1年生の比率が比較的高かったというのがその理由だった。

 去年生徒会役員をしていた2年生は、大概この学院祭での地獄を嫌ってやめていたのだ。

 そういうわけで、新米生徒会役員は慣れない大量の事務仕事に悪戦苦闘し、悲鳴を上げているのが実情だった。

 そんな中で、驚異的に効率の良い仕事をしているのは、勇人と紫の三千院(綾崎)兄妹と朴副会長の3人だ。

 もともと勇人と紫は英才教育を受け、さらにハヤテから様々なことを学んでいたからこういうことにも対処できた。ただし、その分他人から頼りにされるので櫻を手伝う余裕はなかった。

 一方、朴は数少ない2年生の生徒会経験者であるから仕事を効率よくそつなくこなす事が出来た。また、他人からも頼りにされるがそれさえも手早く彼は片付けた。

 そう言うわけで、苦境に陥る生徒会長を助けられるのは朴だけだった。

「がんばるんだ生徒会長!こんな所でへばっていたら、学院祭当日なんかとても体がもたないぞ!」

 手が空くと、彼は率先して櫻の仕事を手伝う。

 朴に励まされ、櫻も仕事を再開する。

 生徒会就任前は会長職に何度も押された朴だったが、彼自身それを辞退して副会長の職に就いている。しかも、会長は本来中3であるはずの女子が就任という状況でだ。

 朴が言う所では、「俺は会長に納まるような人間じゃありませんよ。むしろ補佐役として人を支える方が好きなんです。」ということらしい。

 ただし、実際の所彼は副会長としてよく櫻を補佐し、生徒会を纏め上げていた。実際の所補佐役が適任というのは嘘ではなかった。

 夏休み前は仕事もまだ少なく、その能力を発揮する機会がなかったが、今になってそれを如何なく朴は発揮していた。

 そう言うわけで、櫻の朴を見る目は次第に変わりつつあった。最初は尊敬であったものが、あこがれや頼りにするという感じに。

 そしてこの日も、地獄の事務仕事を終わらせた生徒会役員の面々は三々五々下校の途につく。

「櫻お疲れ。」

「櫻ちゃんお疲れ様。」

 帰り際櫻に声を掛けてくる人間。それは大体決まっていた。

「ああ、勇人君に美沙さん、紫さん。」

 この3人と一緒に帰るのが、ここの所櫻の日課となっていた。

 勇人と美沙はすでにカップルとなっているから、最近は一緒にいる事が多い。最初こそ初恋が実らなかったことにショックを受けた櫻であったが、それを長く引きずるほど彼女は柔ではなかった。

「今日も大変だったね。」

 美沙が労いの言葉を掛ける。

「ええ。お互いに今は大変よ。」

「けど櫻も本当によくやるよね。同じ1年生だけど、本来は中3なのにな。」

 勇人が感心の眼差しで彼女を見る。すると、謙遜とばかりに櫻は手を軽く振って答えた。

「いえいえ、これも朴先輩が私をしっかり助けてくれるからです。あの人がいなかったら今ごろ私はオーバーヒートして倒れてましたよ。」

「そういえば、その朴先輩はいつもいないけど、どうしてだろう?」

 紫が辺りを見回しながら言う。下校時、いの一番で姿が見えなくなるのは朴だ。すると、勇人が軽い感じで答えた。

「朴先輩ならアルバイトだよ。」

 勇人の言葉に、櫻と紫が驚く。

「「ええ!?」」

 これは櫻と紫には寝耳に水のことだった。

「あれ、2人とも知らなかったっけ?」

 直に話を聞いている勇人、間接的に勇人から聞いていた美沙は既に彼がアルバイトをしていることや、出生のこと、今までの生い立ちのことを知っていた。

 しかし、朴はこの事を2人以外には口外していないから櫻と紫が知っているわけが無かった。一応伊豆ではアルバイトをしているのを見たが、あくまで一時的なこととしか考えていなかった。

「ぜんぜん、知らないわよ。勇人、一体どういうことか教えてよ?」

 紫の問いに、勇人は他人にはなるべく言わないという条件付で朴のことを話した。

 彼が北朝鮮の出身である事。日本への移住の際、弟と妹を失った事。いじめなどを乗り越え、奨学金をもらって白皇に入学した事。今でも家計を助けるためにアルバイトをしていること。

 勇人が話をし終えると、2人とも言葉なく、ただ呆然として驚いていた。


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