家族旅行・・・海岸編
一方、温泉ではなく海へ出かけた御一行様(紫、優、櫻、澄香、光、一哉)はというと。さっそく水着に着替え、海岸にビーチパラソルを立ててはしゃいでいた。
泳いだり、ボールを膨らませてビーチバレーをしたり、お決まりのスイカ割をしたりして思う存分夏の海を楽しむメンバー。そんな中で、優だけは一応バレーやスイカ割りといった海岸で出来るゲームしかせず、なぜか海にも入ろうともしないで、ジッとパラソルの下で休んでいた。
「なあ優。どうして泳がないんだ?気持ちいいぜ?」
光が少し心配になって声を掛けてみた。別に優の気を引きたいとかそういうつもりは一切なく、純粋に心配になって声をかけたのだ。
「いえ・・・私は別に良いです。」
「なんで?」
彼女が元ドッペルゲンガ-とはいえ、泳げない筈がない。光はそう考えていた。すると、優は少し言いにくそうに言った。
「その・・・私・・・実はかなづちなんです・・・」
「へ?かなづち?」
これには光も少しばかり驚いた。かなづち、つまりは全く泳げないという事だ。
「あれ、ナギ小母さんはそんなことなかったよな、どうしてお前がかなづちになるんだ?」
優はなんだかんだ言ってもナギのドッペルゲンガ-である。性格や目つきこそナギと違うが、能力などはほとんどナギのコピーと言って良い筈である。しかし、ナギはかなづちではない。
「私にもわかりません。ただ、どうしても泳げないんです。だから、海へ入る気は起こらなくて・・・」
口篭ってしまう優。その表情からは寂しさが窺い知れる。彼女もやはり皆と一緒に海に入りたいようであった。
どうして優が泳げなくなってしまったかは、彼女を実体化し浄化した光にもわからない。しかし、好きな女の子が海を目の前にして一人寂しそうに座っているのを見過ごすわけにはいかない。そこで。
「だったら、俺がしっかり手を繋いでやるよ。それなら何かあっても大丈夫だろ?」
「え!?そんな、そこまでしてもらわなくても・・・」
「いいじゃん。折角海に来たっていうのに、入らないなんて勿体無いじゃん。冷たくて気持ち良いぜ。さあ。」
ここまで光に言われては、優も断る事など出来なかった。
「ええと・・・じゃあ、お言葉に甘えて。」
優は立ち上がると、歩いていき光と一緒に海へ入る。
「うわ、冷たくて気持ち良い。」
優は嬉しそうにそう言った。彼女が喜んでくれたので、光としても嬉しい事である。
「な、言っただろ。」
こうして、優の好感度をアップした光であった。
一方で、そんな彼を浜辺から羨ましげに見つめる一対の眼があった。
「いいな・・・光のやつ・・・」
もう1人の告白できない少年、一哉である。電車内での紫の言葉もあったせいか、折角海に来ているというのに彼のテンションは限りなく低く、表情は冴えなかった。
そんな彼に近づく1人の影が。
突然、一哉の頬に冷たい物が当たった。
「わ!!・・・て、紫さんか。驚かさないでよ。」
一哉が振り向くと、そこには両手にジュースを持った紫が立っていた。どうやら彼女が手のジュースを一哉の頬に当てたらしい。
「ごめんごめん。ジュース飲む?」
そう言って片方を差し出す紫。
「あ、いただきます。」
一哉はそれを受け取った。
「それにしても、随分と暗い評定しているわね?折角海に来たんだからもっとはじけたらどうなの?」
「す、すいません。」
「別に謝る事じゃないでしょ。」
2人はジュースを飲み始めた。冷たいジュースを飲んで一息つく2人。
しかし、そこで突然紫が言った。
「あの、一哉は私のこと好き?」
その言葉に、一哉は一瞬驚きのあまりジュースを吐きそうになった。
「ええ?あや・・・いああ・・・・・・・・あぼへあ!?」
驚きのあまり言葉になっていない言葉を喋る一哉。その表情は真っ赤である。
「あの、日本語で喋ってくれる?」
「え!あ、ごめんなさい。けど、なんでそんなこと聞くんですか?」
「え!?いや、その・・・ちょっと気になって。」
そう言う彼女の顔も少し赤みを帯びている。
紫は前々から一哉が自分のことが好きであることには周りからの言葉や、彼女自身彼と会って感じていた。しかし、彼の方から告白する気配がない。今日の列車の中でもただ呆然とするだけで何もしようとしない。そこで、彼の本音を聞こうとしたのだ。
「え、ええと・・・その・・・」
一哉は答えに窮した。彼女の事は好きである。しかしそのたった一言が何故か言えない。
そして。
バタン!!
彼は倒れ、そこから先の記憶は飛んでしまった。
彼が意識を取り戻したとき、彼の目の前には紫の顔があった。
「あ、気付いた。」
「あの、僕は一体?」
「あなた緊張して倒れたのよ。」
「そうだったんだ・・・て、あれ?」
一哉は気付いた。頭の部分が地面に寝かされている時の物とは違うと。なんだか少し柔らかいような気がすると。
(もしかして?)
彼は理解した。今自分は紫に膝枕されているのだと。その瞬間彼は起き上がった。
「うわ!!」
その素早い動きに紫が驚きの声を上げた。
「あの、どうして紫さんが・・・その・・・今みたいなことを?」
「だって、目の前で倒れた人をほっとくなんて出来ないじゃない。・・・それに・・・私、あなたのこと・・・その・・・好きだから・・・」
最後の方は消え入りそうな声だったが、確かに一哉には確かに聞こえていた。
そう、実は彼女も一哉に気があったのだ。つまりお互い両想いだったわけだが、単に言い出せなかったのだ。
2人の顔は再び真っ赤である。そして、一哉も口を開いた。
「僕も・・・好きです・・・」
こうして2人は正式にカップルとなった。
ちなみに、このときの様子はバッチリ他のメンバーに見られていたため、後々話の種にされるが、それは別の話だ。2人はただお互いに見詰め合うだけだった。
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