家族旅行 到着編
「何をやっているんですか?勇気さん。」
勇人がそう声をかけた瞬間、その人物はビクッと震えた。そして、変装のつもりだったのか、掛けていた眼鏡と深く被っていた帽子を外した。その下から現れた顔は、サキの息子の勇気であった。
「なんだ。もうばれちゃったんですか?」
予想外の事態に直面したような表情をする勇気。
「あたりまえですよ。こんなことぐらい気配でわかります。僕をお金持ちの坊やと思って舐めちゃいけませんよ。」
今まで数々の暗殺者に狙われてきた勇人にとって、勇気のような人間が尾行しているのを察知する事など簡単なことである。
「まったく、相変わらずすごいですね君は。」
「それにしても、どうして僕達を見張っていたりしたんです?父さんか誰かに頼まれたんですか?」
勇人のその言葉に、勇気は笑った。
「いや、君のお父さんたちは関係ないですよ。母さんから君たちのボディーガードをするように頼まれたんです。特に光くんと澄香さんは。」
差し金はサキだった。と、ここで勇人はあることに気付いた。
「え?けど光は優と一緒にバスですし、澄香は僕たちの後の列車でここにはいませんよ。」
だが、勇気は表情一つ変えずに言った。
「それなら大丈夫です。あちらには雫と夕子がついていますから。」
その言葉に、勇人は納得した。雫は高校2年生、夕子は中3の勇気の妹たちだ。
「なるほど。3人とも本当にご苦労様です。」
勇人が労いの言葉を掛ける。
「いいえ。それにこれは橘家と鷺ノ宮家のSPのみなさんからも要請されていることなんです。目立つ自分たちが出て行くわけにはいかないから、代わりに見守ってくれって。ちょうど大学の夏休みで暇でしたし、手間賃も出るから軽いアルバイトのつもりで引き受けましたよ。」
そう言ってワハハハと笑う勇気だが、そんな軽い気持ちでもしかしたら暗殺者と出会うかもしれない危険な仕事に就いたのかと勇人は言いたくなったが、口に出す前に飲み込んだ。その意味はいずれわかる。
「ま、とりあえず、僕たちの所に来ませんか?ジュースとお菓子ぐらいは出しますよ?」
勇人は自分たちの席に来るよう促した。しかし、勇気はきっぱりと断った。
「提案ありがとうございます。けど、それじゃあ意味ないんで。また伊豆で会いましょう。」
「そうですか。じゃあ。」
こうして勇人は勇気との会話を終えて席へと戻った。この後、特に列車やバスが遅延するようなことも、そしてナギの時のように暗殺者に狙われる事も、途中で知り合いにバッタリと会う事もなく、子供たち全員が無事に伊豆に到着した。
「伊豆か、久しぶりだな。」
勇人がしみじみと言った。
「そうだね。明日はお婆さんのお墓参りしないとね。」
紫が言う。彼女の言うお婆さんとは、ナギの母親である紫子のことだ。
「さ、別荘へ行こうぜ。」
子供たちが今回泊まるのは、全員三千院家の別荘だ。橘家の光と澄香は本来は鷺ノ宮家の別荘を使っているし、愛沢家の一哉も本来は愛沢家の別荘に泊まる。しかし今回は全員で旅行を楽しむということから全員が一箇所に集まる事となった。ちなみに親たちは夕食時を除いてそれぞれ自分の別荘に泊まる。さらに付け加えると、サキの子供たち3人は鷺ノ宮家の旅館に泊まる。
「じゃあ部屋割りね。」
練馬の本家ほどではないが、この別荘も大きい。そして一年中いつでも使えるようしっかり整理してあるので、子供たちが全員泊まることなど造作も無い事だ。一人一部屋使っても十分お釣りがくるほどの部屋があるのだから。
お嬢様ではない美沙はずっと驚きっぱなしであった。
全員荷物を部屋に置くと、今度は食堂に集合した。ちなみに親たちは庭に椅子を出してお喋りをする。子供たちの邪魔をしないためだ。
そして子供たちはこれから何をするのか話し合うのだ。しかしさすがに人数が多いから意見が割れる。
遺伝なのか真理奈と勇人に優、それに桜花と夕貴の姉妹は温泉の行く事を主張した。
それに対して美沙を除く他のメンバーは海へ泳ぎに行く事を主張した。この内紫など勇人達を「爺臭い」とこき下ろした。
まあどちらともお互いに無理強いするようなことはせず、結局二手にわかれて行動する事となった。
勇人に美沙、真理奈達5人は温泉へ。その他のメンバーは泳ぎに海へ向かう事となった。
ところが、ここで勇人は意外な人物に出合うことになった。それは彼が入った温泉旅館で起きた。そこでフロントに立っていた人物を見て、勇人は声を上げた。
「ああ!!朴先輩、ここで何をやってるんですか? |