夏の恋 中
雨はやみ、丁度2人の周りに人影はない。都会には珍しいシーンとした空気が2人を包んでいた。
夕立の後で、すごくムシムシと暑かったが、それにあわせるように美沙の心の中の温度は急激に熱くなっていた。
(なんだろう!?とてもドキドキする・・・これってもしかして・・・私本当に勇人君に恋しているってこと!?)
美沙は勇人と会って以来、彼の事が好きであった。ただし、それはまだ漠然とした物で恋と思えるものではなかった。だが、今回のこんな事を感じるのは今までで初めてだった。
「あ、雨止んだね。」
勇人は傘を畳んだ。そして気付いた、美沙が顔を真っ赤にして俯いてしまっているのを。
「美沙さん?大丈夫?」
勇人は彼女の顔を覗き込むように言った。
「ふぇ!!」
勇人に声を掛けられ、我に帰る美沙。
「あ!ごめん。大丈夫、なんでもないよ。」
美沙はそう言って誤魔化した。
「本当に?顔が随分赤いみたいだけど、熱でもあるんじゃない?」
相手が多少なりと惹かれている少女とはいえ、さすがに病気であったら大変である。彼の中で、先ほどまでの少し浮ついていた気持ちから一転して、彼女を心配する気持ちが大きくなる。
そこで彼はある行動に出た。
彼女のおでこを手で触ったのだ。しかも顔をかなり近づけて。
相手が風邪であるかもしれないなら、誰でもやる行為である。
しかし、この時の美沙の心は平常心を失っていた。
(え!え!!ちょ、ちょっと!??)
彼女の心の中の緊張と興奮の針が一気にレッドゾーンに突入した。そして、その針はついに振り切れてしまった。
「うーん・・・熱はないみたいだね。けど調子悪いならどこかで休む?」
「・・・」
美沙は何も言えず固まってしまっていた。
「美沙さん?」
「・・・」
彼が声をかけても何も言わない。そして。
バタン!!という音を上げて彼女は倒れてしまった。
「み、美沙さん!!」
興奮と緊張のあまり、ついに彼女は気絶してしまったのだ。
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
勇人が体を揺さぶってみるが何の反応もない。
「ど、どうしよう?」
目の前で倒れてしまった少女を見つめながら、彼は呟いた。
「うーん・・・」
美沙が目を覚ますと、そこは見慣れない部屋だった。
「こ、ここはどこ?」
彼女は自分の記憶を整理してみる。
(えっと・・・確か勇人君が私のおでこに手を当てて・・・それで私すごく緊張して・・・それで・・・どうしたんだっけ?)
そこから先の記憶は全くない。
「私いったいどうしちゃったんだっけ?」
とりあえず自分が今どういう状況に置かれているか確認する。
やたら広い部屋だ。そこに置かれた大きなベッドの上に今自分はいる。まるでホテルのようだ。
美沙はベッドから出る。
そしてその時になって気付いた。今着ている服が制服ではないと。
「え!?」
いつのまに着替えさせられたのか、彼女が着ているのは真新しいパジャマだった。
「一体どういうこと?」
ますます訳がわからなくなってきた。
彼女が少し混乱していた時、部屋の扉が開いた。
入ってきたのはメイド姿の女性だった。
「あら、お目覚めになったんですね。」
「え!?あ、あのここは?」
「心配する必要はありません。三千院家の屋敷です。待ってて下さい。今勇人君を呼んでくるので。」
そう言うと、メイドは外へと出て行ってしまった。
美沙は今の短い会話から状況を整理する。
(え、ええと。じゃあここは勇人君の家!!??)
大正解。
そして1分後、今度は扉がノックされた。
「ど、どうぞ。」
扉を開けて入ってきたのは勇人と紫であった。
「勇人君に紫ちゃん!!私一体どうしちゃったの?」
「美沙さんは気絶したんだよ。」
まず勇人が言った。
「そう。そこに私が通り掛って、すぐに屋敷の人に電話してここまで運んでもらったわけ。けど驚いたよ、本屋の帰りみち、歩いていたら勇人が倒れた女の子の側にいたんだから。けどよかったなんともなくて。」
「まったくだよ。いきなり倒れて・・・すごい焦ったよ。」
「そうだったんだ・・・迷惑掛けちゃったね。」
「何言ってるの、困った時はお互い様。」
「紫の言うとおりだよ。けどいきなり気絶するなんて・・・さっき診てもらった医者はなんともないって言ってたけど、本当はどうだったの?」
「え!?」
まさかいきなり、あなたのことにドキドキして緊張してしまい倒れましたなんて言えない。
「ええと・・・」
美沙は口ごもってしまった。その目はチラチラと勇人を見る。その顔は先ほどではないが、少し赤い。
それを見た紫は言った。
「勇人、少し部屋から出てろ。」
「え!?なんで?」
「いいから!!」
紫の気迫に押されて、しぶしぶ彼は部屋から出た。
「まったく、勇人は・・・ごめんね美沙。鈍感な兄で。」
「わかったの?」
「もちろん。勇人のことが好きなんでしょ?」
|