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DRAGNEEL
作:DEG



第七章


赤く燃え上がっている町。



無数の白い竜が町の上を飛びまわる。



その竜を倒さんとして、人間達が果敢に銃弾を放つ。



そこには白い竜の背に乗り、不敵な笑みを浮かべる男がいた。





ル・グェン=ゲイルは満足気な声を上げた。

「ハハハハ…愚かだな…制裁を受ける可き種族が彼等に刃向かうか…」


そういうとゲイルは竜の言葉で何かを呟いた。


するとゲイルを囲む白い竜の一匹が、地上に急降下した。



爆音のような音と共に竜が着地すると、数十人の人間達が竜の鋭い爪の餌食となった。



「ふん…小さいな…全くもって小さい生き物だ我々は…」



ゲイルは蟻のように潰される人間を見下ろしながら、呟いた。


その時――





「!?」



ゲイルの眼に、別の竜が飛び込んできた。


『――許せ……』


次の瞬間、先程よりも凄まじい爆音と共に、地上に急降下した白い竜に、その倍の体の碧い竜が襲い掛かった。


「な………何だと!?」


白い竜は踏み潰され、無惨な肉塊となっていた。


碧い竜は、地上から白い竜の群れを見上げた。

『……いたな。』

碧い竜は飛び上がった。


ゲイルは目の前にやってくる、壮大な碧い竜ノアの姿をじっと見ていた。


そしてその背に乗る小さな人影も確認すると、大きな声をあげて話しかけた。


「……君がまさかあの時契約の指輪を持っていたとは思わなかった!」

「………」


アリューは黙って白い竜の上にいるゲイルを見ていた。



……ゲイルは全部知っている。


契約のことも、封印の事も知っていたんだ。


「だが私は君を敵だとは思っていない!話をしよう!」

「………竜を使って何をするつもりだ!?」


アリューはゲイルに叫び返した。

ゲイルはにやりと笑ってみせる。


「君は竜と人間の歴史を知っているか!?」

「知ってる!竜が人間を滅ぼそうとしたことも、ノアが人間を救ったことも!」

「では私と来い!人間はあの時滅びる可きだったと解るだろう!?」

「嫌だっ!!」


ゲイルは少し意外そうな顔をした。

が、また諭すようにアリューに言った。


「君は世界を知らんのだ!!人間がいかに小さく愚かな種であるかを!」

「知ってるさ!充分に見た!けどだからってあんたが人間を滅ぼしていいわけじゃねぇ!!」

「私が滅ぼすわけではない!制裁を下すのは彼ら竜族だ!彼らこそが人間という種を修正できる、唯一の神なのだよ!」


狂ったようにゲイルは語っていた。


人間を排除するというその思想は、アリューには本当に理解し難いものだった。


アリューはゲイルを睨み付けた。


「……俺もあんたも人間だろうが!!!」

「!!」


ゲイルは意表をつかれたような様子を見せた。



「………残念だ。君は選ばれた人間だったというのに…!」

「俺はそんなんじゃない…!」


アリューが唸ると、ノアも同時に唸り出した。


「俺はただ生きたいんだ!あんたが人間をどう思っても俺は普通に生きたいだけだ!」

『人間自身が生きるかどうかを決めるのは人間自身だ。我々は我々の意志で人間を滅ぼす。余計な事はやめておけ。人間が語る裁きはどうやっても人間に返ってくるぞ。』

「黙れッ!!!!」


ゲイルはとてつもない大声で叫んだ。


その声には怒りが含まれていた。


「自身がよければそれでいいというその愚かさが全てを破滅させるのだ!!」

ゲイルは地上を見ながら叫んだ。

「今この地で死んでいった人間達が此処で何をしていたか、君にはわかるかね!?……戦争だ!」

アリューはふと、地上をかいま見た。


無数の人間の死体の側には、また彼らが用いた無数の武器が散らばっている。


「大地を破壊し、果ては同じ人間同士で殺し合う!かつての滅びの歴史を今また人間は繰り返そうとしているのだ!!」

「…………」


アリューは黙っていた。

ゲイルの言うことが間違っているとは思えなかったのだ。

そして自身も人間だったからだ。



が、その時ノアがゆっくりとゲイルに語りかけた。

『…愚か者め。』

「…!?」

『貴様のやろうとしていることは違うというのか?貴様とて同じ人間を憎み、人間の手で殺しているではないか。』


今度はゲイルの方が黙っていた。


『それが粛清だとでも言うつもりか?竜の力を借りねばならぬ貴様のような人間が本当に世界を変えられると思うのか?下らぬ。』


ノアが語る間もアリューはノアの意思を読み取っていた。


そう、人間が人間を裁けるはずがない。

裁くとすればそれは神。

竜族だ。


人間が竜の力を借りても、結局は同じ結果になるんだ。



ゲイルは少しの間アリュー達を睨み続けていたが、ただ一言を口にした。



「…人間に染まったようだな碧き巨竜よ。」



ゲイルは次の言葉を竜の言葉で語った。



『あの碧い竜を殺せ。』



白い竜達は一斉に猛りをあげた。


ノアが戦闘体制をとる。


『……振り落とされるな。』

『…戦うのか?』

『それしかあるまい。人間が生きるためにはな…』


ノアはそう言い残し、大きく羽ばたいた。



一頭の白い竜が突進するように向かってくる。


ノアはそれを迎え撃つように前に飛び、いきなり勢いをつけたまま白い竜の首筋に牙を起てた。


白い竜は大きな悲鳴をあげる。

しかし間もなく他の白い竜が襲い掛かり、四方からノアに牙を向けた。


が、ノアはくわえていた白い竜の体を大きく振り回し、近づく竜を薙ぎ払った。


そして角のついた巨大な尾を振るい、背後からの攻撃を退けていた。



アリューは激しく動くノアの体に、意思を通じながら辛うじてつかまっていた。


白い竜はほぼ際限なく次々と襲い掛かる。


ふと、アリューは突然身体が焼かれるような熱を感じた。


と同時にノアが青白い炎を吐き出した。



前方にいた白い竜達は一斉に赤い炎を吐いたが、青白い炎が全てを飲み込んで白い竜を焼き尽くした。



『―――!!!!!!』



「(すげぇ………)」


アリューはノアの炎の凄まじさを見て、神々しさに似たものを感じていた。


巨大な碧い竜に、改めて畏怖と敬遠の感情を抱いていた。



「グゴアォオッ!!」

「!?」


その時、ノアが悲鳴をあげた。


炎をかい潜り、上から襲ってきた白い竜がノアの尾の付け根に噛み付いたのだ。



ノアは大きく体を振るってそれを振り落とそうとした。

噛み付いた白い竜は辛うじてノアから離れた。



が、ノアが怯んだその一瞬をついて、周囲の白い竜達が一斉に飛び掛かって来た。


『――降りろ!』


ノアがそう叫んだのがアリューには聞こえた。



そして同時にアリューは体が浮くような感触を覚えていた。


ノアは咄嗟に体を急降下させ、可能な限り地上に近づいた。


そしてそれを追った白い竜が自分の体に取り付いた瞬間、体を大きくうねり反転させた。



「―かっ―――!!?」



アリューは余りの反動にノアの背から弾き飛ばされ、地上に落下していった。


そして意識しないほどの時間の後、ドサァッ!という音が地面に響き、アリューは土の上にたたきつけられた。


「ッぐ……ぅ…」


体中が痛みながらもアリューは上空の様子を垣間見た。



ノアは激しいうめき声をあげながら白い竜を振り払い、しかし再び襲い来る白い竜に身体を傷つけられていた。



アリューはそのノアの痛みすらも感じ、同じ様に苦しみ、うめいていた。






―――ダメだ―――





アリューは苦痛の中で絶望した。


やはり世界を救うなどということは出来ない。


自分には荷が重過ぎた。


自分は一人の人間だ。


たった一つの小さな存在なのだ。



そんな考えがアリューの脳裏を掠めた。



「解るだろう…これが人間の力だ。」



その時聞こえた声の方向にアリューは苦しんだ表情のまま振り向いた。


いつの間にかゲイルは白い竜に乗り、アリューの目の前へやってきていた。



「君一人の力では何を変えることも出来ない。人間は弱く、小さく、そして愚かなのだよ。」


ゲイルは哀れみともとれる口調で言った。


「人間が生きてどうなる?君が生きてどうする?君に世界を変えることが出来るか?人間を変えることが出来るというのかね!?」



「……っ……違う……」



アリューは強く口にした。



「人間がどうとか………世界とか………俺は知らない………」



そうだ……



俺はただ生きたかっただけだ。



世界を救いたいなんて考えた訳じゃない。



正直言って、世界なんてどうでもいい。



「俺は……」



生きてやる。



裁きがあっても、何があっても生きて。



家に帰って、レイラと飯を食って。



人間らしく生きてやる。



「俺は…生きるんだ…!」



アリューは体に力を込めた。


意識が混同し、不思議と立ち上がる力が湧いてくる。



ゲイルはアリューから何か強烈な感情を読み取り、焦ったように目を見開いた。


「な……なんだ………」


「邪魔するなァ!!」



アリューは半ば意識が飛びそうな状態で体を起こし、力の限りに叫んだ。


そしてその瞬間、上空からも雄叫びが轟いた。














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