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三人の神父
作:坂田火魯志



第七章


「この教会に」
「そうなのですか」
 アレクセイの声がそれに応えてきた。
「この教会に」
「私の言っている意味がおわかりになられていると思います」
 ベネヴィクトはまた言った。
「アレクセイ神父、貴方にかわって」
「我々はここに来たのです」
「はい」
 アレクセイはその言葉に頷いてきた。それでも姿は見えない。二人はそれを確かめてより警戒の念を強めた。それはまるで獲物に狙われている動物のようであった。
「そうですか。遂に」
「宜しければ姿を見せて頂けますか?」
 またグレゴリオが申し出てきた。
「私達の前に」
「私の姿をですか」
「見せられる筈だと思いますが?」
 グレゴリオはあえてこう言った。まるで彼を挑発し、誘うように。
「ですから。さあ」
 また呼ぶ。
「こちらにまで。おいで下さい」
「わかりました」
 神父の声が彼の言葉に頷いてきた。これでそれがわかる。
「それでは。驚かれることのないよう」
「ええ」
 グレゴリオは応えながらちらりとベネヴィクトに顔をやってきた。そのうえで彼に囁く。
「いいですね」
「はい」
 ベネヴィクトも小声でそれに頷いてきた。頷くその顔はこれまでよりもさらに緊張して強張ったものであった。まるで戦場にいるかのように。
「来ますよ」
「十字架ですね」
「そう、そして聖書です」
 彼はまた言う。
「その二つと確かな心があれば」
「払えると」
「若し何かがあれば」
 グレゴリオはまた強張った顔で囁く。彼もまた緊張を頂点まで高めていた。
「すぐにでも」
「はい、それでは」
 二人はアレクセイを待ち受けていた。そうしてそのアレクセイが姿を現わす。彼は二人の予想通り、老婆の言葉通り生者ではなくなっていた。透き通った姿で今礼拝堂の中央、左右に席が並んだ木造の廊下の部分に姿を現わしたのであった。
「むっ」
「やはりっ」
 二人はすぐにそれを見て手に持っている十字架を突き出してきた。そうして左手に聖書を持ってすぐにその中にある神の言葉を唱えはじめたのであった。
 しかしアレクセイには何の変化もなかった。ただにこやかに、静かに笑ってそこに立っているだけであった。年老いた気品のある外見の神父がそこにいた。その姿を見ていると落ち着くものがある。既にその身体はなくなってしまっているというのにだ。
「御安心下さい」
 アレクセイはにこやかに笑って二人に言ってきた。
「私は。人に害を加えるつもりはありません」
「まさか」
 ベネヴィクトはそれを聞いてまずは目を顰めさせた。
「私は確かに今は死んだ身です」
 穏やかな笑みでそれは認める。その笑みは生きている時と変わらないものであろうと思われた。
「しかし。心はそのままなのです」
「心はですか」
「そうです」
 そう二人に語る。
「私は。生きている時と同じ心を持っているのです」
「まさか」
 ベネヴィクトはその言葉を否定してきた。
「貴方は死んでいます。それに」
「それに?」
「街の家々の扉にあったあの大蒜は。貴方への為のものではないのですか!?」
「あれは誤解です」
 答えるその言葉が悲しい音色になっていた。
「あれが何を意味しているのかは私も知っています」
「吸血鬼」
「そう、吸血鬼へのものです」
 そうベネヴィクトに答える。
「ここにいて暫く経っていましたから。それはわかっていました」
「わかっておられたのですか」
「はい。そして貴方達の御考えを」
 そう述べてきた。
「貴方達は私を吸血鬼と思っておられるのですね」
「はい」
 ベネヴィクトがアレクセイの言葉に頷いてきた。
「違うのですか?」
「確かに私は死にました」
 自分でもそれは認める。
「ですが。吸血鬼ではないのです」
「違うのですか」
「はい」
 穏やかな笑みで頷く。
「私は。肉体がありませんから」
「肉体はないと」
「そうです」
 また答える。
「吸血鬼は肉体があり、そこに邪な霊となって宿るものです。今の私は」
「確かにそうですね」
 グレゴリオは今のアレクセイを述べてまた言ってきた。
「貴方に肉体はない。そして」
「私は。生きていた頃と同じ心を持っています」
 また二人に述べる。
「それを務めて守ってきました」
「あの」
 ベネヴィクトはここで首を傾げてばかりだった。アレクセイの言葉にわからない部分が見られるからだ。彼はあくまでカトリックでありスラブの考えに疎かったのだ。







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