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三人の神父
作:坂田火魯志



第六章


 教会が誰もいない道に見えてきた。ここでベネヴィクトは言ってきた。
「まさか今まで街に誰もいなかったのは」
「そうです」
 グレゴリオはその問いに答える。
「吸血鬼となってしまったアレクセイ神父を恐れてのことでしょう。ほら」
 ここで側の家の扉を指差す。
「御覧下さい、あれを」
「あれは」
 ベネヴィクトはここで扉にかけられているものを見た。それを見て目を顰めさせる。
「大蒜、ですね」
 見ればその通りだった。大蒜が数個束ねて吊り下げられていた。ベネヴィクトの目には実に奇怪なものに映った。何故大蒜がかけられているのかわからなかったのだ。
「何故かけられているのですか?」
「それです」
 グレゴリオはそこに言及してきた。
「大蒜がかけられているのはそれです。吸血鬼を避ける為です」
「御守りでしょうか」
「吸血鬼は大蒜を嫌いますので」
「それでですか」
「はい、おわかりになられましたね」
「ええ、それでしたら」
 ここまで聞いてようやくわかった。見ればどの家の扉にも大蒜が束になってかけられている。それを見ているとこの街の人々がどれだけ吸血鬼という存在を恐れているのか、それがグレゴリオにもわかったのであった。
「そういうことだったのですか」
「私もあの御老人のお話を聞くまでは考えが到りませんでした」
 グレゴリオは言う。
「しかし間違いないようです。それなら」
「払うのですね」
「アレクセイ神父は立派な方だったと聞いてはいます」
 だから正直吸血鬼のような忌まわしい存在になったとは思いたくはないのである。しかし扉にかけられている大蒜や老婆の話を聞いているとそうとしか思えないのであった。グレゴリオは悲しみながらも覚悟を決めていたのである。
「ですが」
「それでも、ですね」
「立派な方だったからこそというのもあります」
 グレゴリオは言う。
「是非。邪念を払いたいのです。宜しいですね」
「はい」
 ベネヴィクトも真摯な顔で応える。
「それでは私も。参りましょう」
「感謝します。それでは」
 教会の前に来た。古ぼけた教会である。少し見ただけでは廃墟に見えてしまうようなものだ。二人は今その教会の扉の前に立っていた。
「ここですね、その教会は」
「そうです。ただ」
 ここでグレゴリオは言ってきた。怪訝な顔で。
「感じませんね」
「確かに」
 ベネヴィクトもそれに頷く。彼も身構えていたがそれだけに感じるものは感じる筈であった。ところが彼もグレゴリオも今はそれを感じていなかったのだ。
「ただ。妙ですね」
「ええ」
 グレゴリオはベネヴィクトのその言葉に頷く。
「何か。何一つとして邪悪なものを感じません」
「そうですね。むしろ」
 ベネヴィクトは言う。
「普通の教会よりも穏やかなものを感じませんか。入り口だけだというのに」
「そうですね。こんなことは今までありませんでした」
 グレゴリオはそう述べる。
「私もそれなりに色々な教会を巡ってきましたが」
「罠でしょうか」
 ベネヴィクトはふと言ってきた。
「これは若しかすると」
「アレクセイ神父の」
「有り得えるのでは。悪魔はその牙も爪も隠すものですから」
「それではこれこそがアレクセイ神父が死して尚生きている証」
 彼等はそう思った。
「ならば。ベネヴィクトさん」
「ええ」
 二人は顔を見合わせて頷き合う。
「用心して参りましょう」
「それでは二人で」
 肩を寄せ合うようにして先に進み扉をゆっくりと開ける。そうして扉の中を覗き込むとそこは薄暗い礼拝堂であった。ステンドガラスと十字架、礼拝堂が奥に見える。十字架の上にいる主は何も語らずにそこにかけられているだけだった。
「ようこそ」
 二人が扉を開けたその時に声がした。
「教会に来られました。何の御用件でしょうか」
「アレクセイ神父でしょうか」
 グレゴリオが最初に入り彼に問うた。
「おられますか?」
 すぐにベネヴィクトが横に来て二人並ぶ。扉に完全に背をつけて左右をそれぞれ見る。彼等は本能的に死角を見せないようにしていたのである。
「おられたら返事を御願いします」
「私がベネヴィクトです」
 声だけがした。しかし姿は見えない。
「何の御用でしょうか」
「私達はローマから派遣されてきました」
 今度はベネヴィクトが言ってきた。やはり隙は見せてはいない。彼は格闘技の類は一切知らない学究の徒であるがここでも本能的にそうしていたのだ。これは無意識のうちでの動きであった。







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