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MURDER ROUND
作:DEG



「報酬」


シンシアはかつてその男に呪われた。





彼女はその男に縛られた。


彼女はその男に犯された。


彼女はその男に打たれた。


彼女はその男に奪われた。


彼女はその男に壊された。



シンシアはその男を呪っていた。



「何があったか知らんが、戻って来たことは懸命だな。ここじゃなけりゃお前は命を失ってた。」


ネイロは煙草の煙を空に向けて吐き出した。


その片手には鋭い刃のナイフが握られている。



シンシアは死んだように俯いていた。


彼女の両手は解放されていたが、彼女の恐怖がそうさせていたのか、彼女は何も抵抗していなかった。



突然シンシアの肌が焼かれた。


ネイロは煙草を彼女の脚に押し付けていた。


「っぅ…………」


しかしシンシアは僅かに呻いただけだった。


彼女の身体には既に焼け爛れた跡がいくつもあった。


このような暴力は彼女にとってはもはや普通であった。



ネイロは、なお煙草を押さえ付けながら喋る。


「これだけやってもお前は逃げた。偉いよ。よくやったよ。」


そしてぐりぐりとさらに煙草を押し付ける。

シンシアはそれでもほとんど無表情だった。



ネイロはその顔を眺めた。


そして、いきなり片手のナイフをシンシアのもう片方の太腿に突き刺した。



「……!!ッ!ぃや゛ァ゛アあ゛ァ゛っぅ…!!!!」


シンシアは一瞬の感覚の間を置いて、大きく悲鳴をあげた。


ネイロはそこでにやにや笑い出した。


「これだったら逃げられないか?ん?どうだ?」


さらに突き刺したナイフを縦に揺らし、シンシアの肉を裂いていく。


「ッ……ぃッ…!…ぅぅ…」


シンシアは気を失いそうになりながらも、涙を流して未だに俯いていた。


それはまるで、自身で憎しみを溜めようとしているようであった。



しかしネイロはそれが気に食わないのか、ナイフを手放してシンシアの髪を掴み、無理矢理顔を自分に近づけた。


「おぃ…………」


苦痛に歯を食いしばり、涙が伝う顔。


そこに底知れぬ憎悪をシンシアは表していた。


彼女の赤い目は、殺意と怨念を持ってネイロを捉えていた。



ネイロは一瞬恐ろしくなった。

が、突然衝動に駆られたように彼女の頬を殴った。



シンシアは倒れ込んだ。

ネイロは少し息を切らせて彼女を見た。


シンシアは一言も発しなかった。





その時、部屋の扉が静かに開いた。





「………楽しそうだね。」


ネイロが扉の方を見ると、そこに血まみれの大きな男が立っていた。


「君程えげつなくはないよジェーン。」


その後ろから、とても小さな少年が現れる。


ニンマリと、読み取れない笑いのまま話している。



「誰だ?今取り込み中だ、出ていけ。」


ネイロはまた恐ろしくなった。

しかし弱い人間が誰でもそうするように、ネイロは腰から小銃を取り出して二人の男を威嚇した。



するとジェーンは再び不気味に笑った。


「フフッ……みんなアレだね。そんなに痛いのが好きなの……?」

「仕方ないよ、ああいう人間はいつもああするしか知らないんだもの。」


全く警戒するそぶりすら見せない二人に、今度はネイロは問い詰めた。


「お前らこの女を助けにでも来たってのか?」


「まぁ、助けにってわけでもないけど。君に殺させるわけにもいかないからそうなるのかもね。」


テイラーが含みのある答えを返す。



ネイロは目の前の二人の得体が知れなかった。



「…あんたを……殺しに、来た…のよ……」


その時シンシアが、唸るように囁いた。


「あ?」


ネイロは倒れたままやはり自身を睨む女性を下目に見た。

が、もう一人の動きに再び目線を上げた。



ジェーンがネイロに歩み寄った。


「まぁ…そういうことなんだ。」


その男の放つ異様な雰囲気に圧されてか。


ネイロは思わず引き金を引いた。



……一発の銃声が鳴り終わり。



「……フ……フフッ…」


一瞬足を止め、ジェーンは笑い出した。

新たな血を流しながら、彼は再びネイロに歩み寄っていく。



「ぁ……!?!」


ネイロはさらに恐ろしくなった。


最初にジェーンを見た時に感じた感覚が、彼の一歩毎にはっきりしていく。



ネイロはさらに引き金を何度も引いた。


その度にジェーンの足は一瞬止まり、そしてまたネイロに近づいていった。


そしてネイロの手から
「カチッ」という音が聞こえたとき。



「それ……痛いよ…?すごく…痛いんだよ?……」


笑う怪物はネイロの眼前に迫っていた。


血の臭いがネイロの鼻元へ流れた。


ネイロは身動きが取れなかった。

目の前の現実を理解出来ず、ただ血まみれの怪物を見上げていた。



と、ネイロの身体が宙に浮いた。


「お前……ネイロ?」

「ぎ…ぃ!あぁあぁぁ…!」


ジェーンはネイロの顔を掴み上げ、先程とまるで違う口調で言った。


ネイロは顔を潰されるような圧力をかけられ、まともに口をきけなかった。


代わりに背後でまた唸るような声が応えた。



「そいつがッ、ネイロよ…っ…」



声を聞いたジェーンはニヤリと笑った。


そしてネイロを壁に向けて投げ飛ばした。


「ごぅっ!……」

「ホントは僕の痛いのも味わってほしいけど……」


ジェーンはそう言うと、もう片方の手から薄い紙を取り出した。


「…君の仕方はシンシアに任せよう。」


紙をくるりと裏返す。



そこには舌を出した道化師の絵があった。



シンシアはそれを見た。


「さぁシンシア……このカードは君の怨みのカードだ…どうするんだい?」


ジェーンは小さく肩を揺らして笑っていた。



今までのシンシアならそこで一言の口も聞けなかったであろう。


しかし今、彼女はある感情に囚われていた。


だからそれを自分自身の言葉で表す代わりに、こんな言い方をした。



「…貴方が…1番惨いと思えるように……!」



ジェーンはシンシアに振り返った。


そして今までで最も愉快そうな笑みをした。



「…わかったよ………フ……フッフ……フヒヒ……」



ジェーンは肩をさらに小刻みに揺らしながらネイロに近づいていった。


「う…ひ…ぃ…来るな来るな来るな来るなぁあ!!」


ネイロは壁に背を付けながら凄い形相で叫んだ。


もはや恐ろしさのあまりに失禁していた。












シンシアは直視した。


自分を飼い殺しにし、彼女が全ての負をそこに置いた存在が壊されるのを。


そこはこの世である気が彼女はしなかった。


彼女は鬼とも悪魔とも言えるものを見ている気がした。


それが肉塊を喰らう光景すら彼女は目に焼き付けた。


ただ赤と黒の色が脳に映っていた。












「…はい。これで仕事は終わりだね。」


ずっと口を閉ざしていたテイラーが喋った。


ジェーンの運動がようやく停止した時だった。


「これで満足したシンシア?」



シンシアは何も言わなかった。

その時シンシアの意識はともすれば無いとも言えた。



テイラーはそれを眺めた。


ジェーンが二人の方へのそのそと歩いて来た。

血以外のものが多く彼に付着していた。



「………シンシア。」



シンシアはその声に気付いたように目覚めた。


「…フ…っあははははは……!」


そして笑い出した。

その声は純粋なものであった。


「やっと…死んだ…ははっ、あいつあんな……あはははは!!」


他の者が見れば確実的に、彼女は狂っていた。


脚にはまだナイフを刺されたまま彼女は楽しそうにした。



笑い続けるシンシアにテイラーは声をかけた。


「あのさシンシア。」

「ははっ…!何よ?」


シンシアは目を見開いてテイラーを向いた。


「報酬なんだけどね。」

「何そんなこと?それならここに沢山あるのを好きに持って行けばいいじゃない!」


シンシアは高らかに笑った。


「そうだわ…あいつの金であいつは自分で死んだのよ!」



テイラーは、首を傾げた。








「……何言ってんの?」



え?と、シンシアは一瞬停まってテイラーを見た。

その前に彼女の首が何かに掴まれた。


「お゛ぁッ…!!」


彼女は首を掴まれたまま壁に押さえ付けられた。


「あのね、」


テイラーはパタパタ歩いて来た。


シンシアは掴まれた腕からジェーンを見た。


「報酬って君の命だよ。」


そして目を下ろしてテイラーを見た。


ジェーンは手を離した。

シンシアは床に落ちた。


「がはっ……な……何……」

「だって君、人を殺したんだよ?それくらい貰ってもいいでしょ?」


シンシアは震え出した。


ジェーンが、また先程と同じ笑みをしていた。


「い……嫌………」

「嫌?」


テイラーはシンシアに近づいた。


ニンマリと変わらない、不気味な顔を近付けた。



「『どんなことをしても』って言ったよね?」



瞬時にシンシアは悟った。


[殺し屋]の意味。


そして自分の末路を。



ジェーンが、薄い紙を取り出した。


「そのくらい憎かったんだから、望みが叶って良かったじゃない。」


テイラーは言った。


だがシンシアには何も聞き取れなかった。


彼女の身体だけが恐怖に反応していた。



ジェーンはトランプを裏返す。


そこには、彼女の怨みが描いてあった。



テイラーは、はっきりとニンマリした。





「じゃあね。」





彼女の目は見えなくなった。

彼女の耳は聞こえなくなった。

彼女の鼻は効かなくなった。

彼女の脳は動かなくなった。














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