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MURDER ROUND
作:DEG



「仕事・弐」


ビルの最上階の一室。


広い部屋にはただ一人、善人とは掛け離れたところの
「力」を持った男が煙草をくわえているだけである。





部屋に、機械的な電話の音が鳴り響いた。


男は口から白い煙を怠そうに吐き出し、乱暴に高価そうな受話器を取り上げる。



男が何も言わずとも、音がその一端からもれる。



『社長……シンシアです。』


「!!」



受話器から聞こえた言葉に、男は少なからず動揺した。


が、すぐに男は、その世界に住む人間らしい醜悪な笑みを浮かべて受話器に言葉を返す。



「持ってこい。今度は逃げんようにしろ。」


『わかりました。』








エレベーターが彼女の前に到着する。


彼女の横にいる黒いスーツの男は、乱暴にその中に彼女を押し込む。


彼女の両手は血が滲む程に堅く、鎖で縛られていた。



最上階を目指すエレベーター内で男はこの上ない罵りの目で彼女に言葉を浴びせる。



「感謝するんだな。本来なら殺されている筈のお前が二度も」

「……ふふっ……」



彼女はその状況で笑っていた。


彼女は恐怖を感じていなかった。


彼女が笑ったのは、自分をゴミ同然に扱うその男の数分後の末路を想像したためであった。



男には何故かその笑いが不気味に感じられた。


「…お前…何か企んでるのか?」


それを隠して、男は威すように彼女に問い詰める。


それでも彼女は答える事なく笑う。



男にはその様子が、まるで自分が臆病であることを見透かして笑っているように見え、いきり立って彼女の胸倉を掴んだ。



「笑うんじゃねぇ…てめぇ今ここで犯してやろうか?」


彼女は全く抵抗のそぶりを見せなかった。


ただ、彼女は笑うのを止めた。



男は彼女に唾を吐き、エレベーターの壁にたたき付けた。


それでも彼女は、慣れているからなのかそれとも他の理由からか、顔を歪ませることすらしなかった。



エレベーターの扉が開き、彼女は目の前の一本の廊下へ放り出された。


エレベーターに残った男は、両手を縛られ倒れている彼女に言い放った。


「もう逃げられると思うな。せいぜいネイロの機嫌をとって死なねぇようにするんだな。」


彼女はゆっくりと起き上がる。



そして、再びわらって男に向かって短い声を出した。



「…さようなら。」


「…ぁ…?……」



男にはその意味を汲み取ることは出来なかった。



そして問い詰める前に、男の視界はエレベーターの扉に閉じられた。








再び、男の視界にビル内の様子が映った。



だがそれは先刻に男が見ていた風景ではなかった。



男は思わず息を飲み込んだ。



「……?!……ッッ!?」



男の視界の先は、全てが血の色だった。



コンクリートの壁と床は赤黒く染まっており、特に色の濃い場所には男の仲間の体の
「断片」がいくつも散乱していた。



男は思わず後退りをしながら、腰から抜いた小銃を構えた。



緊張し、細かく息をするたびに異様な臭いも勝手に鼻に入っていく。



暗黒世界に生きているその男ですら、その臭いには吐き気と恐怖を齎された。





男は歯を食いしばりながら周囲を見回し、何かが動けば弾丸を放つ構えをとっていた。





「あ、そういえばこいつの事忘れてた。」



不意に少年の声が聞こえた。


男は咄嗟に声の方向に向けて引き金を引こうとした。



が、男が振り向いた視線の先には何もなかった。



「ねぇ、シンシアは殺してないよね?」



同じ声が目の前でする。


男は目線を下に下げた。



するとそこには、男と実に50cmの身長差はあろうかというほどに小柄な少年が立っていた。



直ぐさま男は銃口を彼に向けた。



「ねぇ殺してないよね?」



少年はもう一度口にした。


しかし男はそれには答えずに少年に問い詰めた。



「テメェなにもんだ…何をしやがった…!」



少年は笑ったような、しかし無表情な顔で口走る。


「僕はただの請負人さ。これ僕がやったんじゃないよ。」


「あ……!?何言っ……」



恐怖に捕われた男が引き金を引きかけたその瞬間。



男は引き金を引けなくなっていた。



男の人差し指は無くなっていた。



「テイラーにそんなもの向けないでよ……僕の愉しみが失くなるじゃないか……」



男の耳元で不気味な声が響いた。



「…!…?ァアッ!……」


男の意識はようやく自分の手に異常を認めた。


同時に恐怖が彼を覆った。


彼の首筋には、細い何かが当てられていた。



「…シンシアは殺してないよね……?」


男の耳元で、再び低い声が囁いた。



先程とはまるで違う、明らかに殺意の篭った声であった。



まるで悪魔に囁かれたように男は感じた。


「こ、殺してない……」


男は血の溢れる自分の指を抑えながら、必死に声を絞り出した。


すると囁く声が突然穏やかになる。


「……ならいいんだ。あれ、僕のだからね。」


男の首から、当てられていた何かが離された。


男はしかし全く安堵しなかった。



自分の後ろにいる人間に未だに命を握られている感覚がしていた。



「どっちにせよ早く行かなきゃ、シンシア死んじゃうかも知れないよ。」


男の目の前では少年が不気味なほど平然と喋っている。


まるで、この状況が日常茶飯事であるかのように。


「そうだね…もう行かなきゃね。」


男の後ろで、少年の声に応える主を彼は確かめようとした。



大きな体。血の赤黒い服。



指から血を流し続ける男は、考えることもままならずに言った。


「おまえ……なんだ……」


「誰か」とは男の口は言わなかった。



その男を見た瞬間、
「人」と掛け離れた存在を感じたからだった。



血の色を体中にこびりつけたその大きな男は、彼に答えた。



全てを凍り付かせるように笑って。



「『殺し屋』だよ……♪」



「パチン」と指の音が鳴る。



すると男は違和感を覚えた。



「お……?…っ…」



男の視界は何故か落ちていった。


そして最後に男が聴いたのは、
「ゴトッ」という音で、最後に見えたのは自身の身体であった。



跡には新しい血の海に沈む、男の首と体が転がっていた。














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