メール上の彼女(8/31)縦書き表示RDF


遅くなりました。第8話です〜
メール上の彼女
作:荒木ヒロ



第8話:エロ?


前回まで
彼女にキスしてしまった。思いっきり抱きしめて。しかも、ただのファーストキスではない。

 今は二人とも川から上がっている。彼女が何を考えているのかはわからないが、しばらくただひたすらに沈黙、沈黙、沈黙。
 俺は引きこもり生活で養われた白い肌を焼きながら、彼女のしっとりした髪を見つめている。風がひやひやと俺たちを撫でていき、体温は下がるのに、頭は日光に照らされて熱を持っているのがわかる。彼女の肌はすでにほんのり焼けていた。テニス部でバリバリやっていたから、と言うより、元々少し肌が黒いのかもしれない。でなければ、背中まで焼けているはずがない。裸でテニスなんて最高だろう。

 さっき、このハリのある肌が俺に張り付いたのだ。ふっくらとしている唇が、俺のとくっついたのだ。
ふと、俺はサンドイッチが腐らないかなんてどうでもいいことを考えた。同時に腹が鳴りそうなのを我慢した。

 俺が朝から噛んでいたガムは彼女がさらった。ただのキスじゃない。俺からじゃない。彼女は舌を使ってきた。

 それでも、論理的思考が戻ってくると、彼女の濡れた体との抱擁や、舌と舌が触れ合うザラザラが心地良かったのは、彼女が彼女だからではなく、女の子の柔らかいそれだったからだと思う。つまりあのキスは感情的なものではなくて、本能からくる欲求だった……って、なんで分析してるんだ。大体、そんなことを期待して川に来たわけじゃなかったはず。ただ誘ってみたら、何となくオッケー、みたいな感じだったはずだ。なのに俺から求めてしまうなんてどういう事だ。何が起こった? 彼女がこんなに積極的になるなんて、何があった?

「お弁当食べようか?」彼女が(俺の噛んでいた)ガムを飲んで、声をひねり出した。俺も唾を飲んだ。

「うん」

「はぁやっぱり、自信ないなぁ」取り出したタッパーの中身は俺のために作ってくれた物だ。俺には絶対作れないから、彼女はすごいと思う。彼女が蓋を開けた。俺は一つ彼女から受け取った。

「あー、見られてると、食べづらいんだけど……なんだかんだ言って期待してるんでしょ?」俺はコンビニで見るような単純なものではないサンドイッチを、一口で半分まで食べた。ハムとチーズと卵とトマトと少しの辛み、マヨネーズの酸味。まぁ一口でそんなに色々わかるわけ無い。俺はもう少し口に入れた。

「どぉ?」彼女は嬉しいような悲しいような、どちらとも取れない表情で聞いた。

「うむい」うまいとしか言いようがない。
 
 涙が出そうになった。ちなみに、クラスで俺は絶対泣かないヤツとして位置づけられている。それほど彼女の気持ちが嬉しかった。
 
「良かった……」彼女も一口食べた。満足そうな顔だ。

 俺たちは黙々と食べた。
「やっぱりうまかったんじゃないか」最後のサンドイッチは二人で分けた。それでも、俺の方が多く食べていた。

「だって、女なのに料理も出来ないのかって思われたらヤじゃん!」時折、彼女はその見かけからは想像も付かないようなことを言う。若い女性が大嫌いな男女差別発言を、自分の口から言い放つのだ。

「そんなことねぇよ」彼女の顔が綻ぶ。彼女はその顔を太陽の方に向けて、ありがとうと言った。

 どうでもいいようなことを話していると、太陽はずっと遠くの川に沈み始めた。俺たちはもう服を着ていた。

「たのしかったね!」夕日に赤く照らされて、彼女の横顔はもっと綺麗になっている。
 忘れてはならないのは、彼女に彼氏が居ると言うことだ。彼女はこの横顔をすでに彼に見せてしまっているのかもしれないし、もっと悲しいことをしてしまっているのかもしれないのだ。でももうどうでもいい。彼女を俺だけの彼女にしてやる。奴に絶望を与えてやる。生きる意味を、人生の欠片を、俺が奪ってやる。憎みたいなら憎め。憎しみは人の為にある。

 そうは思っても、俺はチキンだ。

「じゃそろそろ帰るか?」
 
「待って、今日どうする?」

「今日って?」

「あ、ぇっと……今日両親が居ないの、それで……どうする?」

「えっ?」

 彼女の家にはミニチュアダックスが居るらしい。俺は犬は嫌いだ。
 だがしかし、彼女が俺と一番近くなるそういうのって、多分大好きだ。

「泊まりに来てもいいよ……」彼女は処女だ。

 ウェルカムトゥマイホーム。












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