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メール上の彼女
作:荒木ヒロ



第7話:まだ本能


前回まで
川に来て、彼女と競争することになった。彼女のズルイ手は俺に勝負を諦めさせた。


首を水から出し、クラゲの様に彼女を追う。底に足は着かず、水かさは2メートルくらいだろうか、浮遊感を味わえる。

ふと、俺は真っ暗な足元を見て、生物らしきものがいないか確認した。誰かに足を掴まれたらどうする。5〜6メートルのどでかい魚に噛まれたらどうする。前者は夏によく聞く話だ。

無駄に恐くなって彼女を見ると、浸食によってできた土の壁から飛び出る根っこに捕まっていた。彼女が指差した、枯れ木の真下である。
彼女は濡れた髪を撫でて、俺に手を振った。

「遅いっ!」
俺がゆっくり近寄ると、彼女は笑いながら俺の頬をつねった。俺は流されないように、彼女が捕まっている根を掴んだが、彼女を抱くような恰好になってしまった。

「ふぃふぇえ ……っ」頬は痛いが、彼女の親指と人差し指は湿っていて心地よかった。冷やかな風が吹いて、彼女がくしゃみをした。

俺は彼女のつねる手首を握って、頬から離した。彼女の細い手首から体温が伝わる。

「なにさ?」
彼女は申し訳ないという顔をした。

「別に」
俺は手を放した。彼女に見つめられると、キスしたくなる。

それは本能か、はたまた愛故に、か。どっちにしても、信じられない俺だ。

「さてと……」
彼女の目が鈍く光った。

そらきたぞ。

俺は彼女に背を向け、川の流れに逆らって逃げた。勝った方が負けた方を好きにできるから、何させられるかわかったものじゃない。

「あっ! まちなって!」
俺は何か叫んでいる彼女を尻目に泳いだ。奴隷くんや裸盆踊りやその他の類いは、人権侵害に値するほど厄介だ。それでも、温い関係の俺達にはいい薬になるかもしれないが、面倒なのは嫌だ。

「まちなって〜!」彼女は追い掛けてくるが、力は俺の方が強いはずだし、流れになど負けるか。負けるとヤバイ。

弁当が置いてある辺りまであと15メートル。
ついに足首を掴まれた。全身が硬直し、寒くなる。悪霊であろうその手は、まだ人の体温を保っていた。
一応抵抗するが、そのまま引っ張られて溺れかける。

「ぼご」
ついにきたか。あの世でもどこでも連れていけ。

抵抗をやめた俺は、水中で(多分だが)悪霊に抱き付かれた。そいつは細い足も絡めてくる。

……ん? 柔らかいぞ?

背中に当たる感触は、さっき感じた彼女の胸に似ている、というかそれだ。
「ぷはっ! ……衣子?」
俺は恐る恐る聞いた。

「逃げないで……」
この後彼女が何を言うのか知らないが、この密着がずっと続けばいいと思っているのは俺だけか。それともそれは、本能に都合のいい理由をつけただけの嘘か。

脳みそが考えることをやめる前に、離れた方がいい。
……遅かった。
次の瞬間、俺は彼女を正面から抱き直してキスしていた。


やっぱり「川」でどうこうというのは書きづらいんですかねぇ。もっと修業せねば…











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