第6話:青春
前回まで
俺と彼女は恋人じゃない。なら何故彼女は、今日をOKしたのだろうか。
彼女の背中を追いつつ、俺は川の流れる音がしだいに大きくなっていくのを聞いた。
蝉が鳴き、鳥も鳴く。
風と俺はぶつかり、足音が走り、息が吐き出される。
雑草も青々と生い茂り、さらには、頭上に小さな飛行機まで飛んでいる。夏というステージで各々が主張をし合っているかのようだ。田舎は色も音も濃い。腕に草がペチペチと当たって痒い。彼女が草を掻き分けて走った道は、俺には細かった。
走ったのは久しぶりだ。部活を辞めてからずいぶん経っていて、しかも木が日光を遮ってはいるが蒸し暑く、頭がクラクラする。でも気持ちがいい。
早く、川に入りたい。
俺がそう思った途端に、彼女は立ち止まった。肩を上下させている。
薄っぺらい靴だから、大きな石を踏むと痛い。俺が最後の草を払うと、足元にはそんな石が幾つも転がっていた。
俺は彼女に追い付いた。
また世界が変わった。
涼しい。
そして彼女一人だけが、人間として風景に立っている。
こういうの…何て表現するんだったか。
「うっ……はぁ、つかれたぁ〜!」
彼女は伸びをした。よく見ると彼女の白いシャツは今や透明で、背中にぴったり張り付いている。肌もビキニの紐もくっきり見える。
触れてみたくなった。彼女の味を確かめてみたい。
彼女の膝の裏からくるぶしに汗がしゅると滴り、俺はドキリとした。
いつのまにか彼女は裾を膝の上まで上げていたのだ。
世界一エッチな処女だと、俺は思った。昨日までの暗い考えなど、とうに吹っ飛んだ。
俺は変なことを考えてしまったと思い、白いバッグを適当な大きさの白い石の上に置いて、背負った鞄をそばに降ろして、川に近寄った。
透き通った水が右から左に流れていく、気がする。時々揺れる波が、流れているのだと知らせてくれていた。しばらく俺は、泡が作る白い筋や底にあるキラキラ光る石に見入っていた。
すると尻に衝撃を感じ、のめり、頭から川へ突っ込んだ。実際、体勢がどうだったのかわからないが、とにかく突っ込んだ。
急激に体が冷えていく。俺は立って振り返った。
「ばっ、なにすんだ!」
俺は彼女のビキニ姿に面食らった。彼女は綺麗だ。
「いいじゃん! 先に入れてあげたんだしっ」
彼女は恐る恐る水に足を入れた。
「つめたー ふあぁ、ぁ…」
彼女は風呂に浸かるようにした。
「…ったく」
俺は川から上がり靴と靴下を脱いだ。石が熱い。
彼女がいると、川の水も温く感じてしまう。
「ねぇ早く! 競争しよ〜」
もうかなり遠くにいる彼女が、手を振って言った。
服はびしょ濡れだし、もういいや。
俺はジャージを掃いたまま川に入って、潜った。
彼女がいたのはこの辺りのはずだ。だが、ぼやけてよく見えない。
誰かの腕が俺の首に絡まった。俺は少し水を飲んだ。幽霊かとも思った。腕はそのまま俺を引き上げた。
「はいっ 捕まえたっ!」
狙っているのか知らないが、柔らかな胸が背中に当たっている。今度はさっきの逆だ。
「……どこまで?」
「あの高い木まで!」
彼女は遠くに見える枯れ木を指差した。夏なのに、葉が一枚も無い。 「よしいくぞ!」
俺は足と腕に力を込めた。
「よ〜いっ…」
彼女はそう言って、フライングした。
「は?」
完全に出遅れた。しかも彼女は速い。どんどん離されていく。
「負けたら、勝った方の言うことを聞く!」
彼女がとぎれとぎれに叫んだ。
ということは、勝てば彼女を好きにできる?
俺は泳ぎ出した。
でも、彼女はもうゴール目前にいる。
あの木は俺みたいだ。
死んでいるのに、そこに立っている。きっと中身も詰まってない。
だけど彼女が向かってる。近づいてる。
確かこれって、青春っていうんだっけ。
心の中で微笑して、川の流れに身を預けてみた。何か大きな力を感じた。 |