第3話:好きか嫌いか
前回まで…
俺と友達の衣子は微妙な関係にあったはずなのに、彼女を川へ誘うとあっさりOK。しかも、衣子から電話まで掛かってきた…
「もしもし」
聞き慣れた彼女の声が耳元で響くと、俺は体の芯が熱くなるのを感じた。電話で話すのは初めてだ。表情が見えないと、逆になんだか恥ずかしい。
「なんだよ?」
俺の心のどこかでは一秒でも引き延ばせと言ってる。もとよりそのつもりだと、俺は自分に言い聞かせた。
「別に〜何してるのかなって思っただけです〜」
彼女はクスクスと笑った。吐息が耳にかかるようで、むずかゆい。
「何もしてねぇよ……」
「ふ〜ん……」
彼女はしばらく黙った。
「なんだよ?」
「言いたいことあったけど、やっぱりいい……」
彼女の声は落胆している。
「は?」
「もういいのっおやすみ」
電話は、俺がちょっとと言う前に切れた。後には、間の抜けたツーツーという音だけが聞こえた。
次の日……
今日は講習が休みだ。
「お前、女と電話したことある?」
俺は彼女の意図を探るため、遊びにきた友達に意見を求めることにした。
「別にねぇよそんなもん」
友達はゲームをしながら答えた。
「じゃあ、川に行ったことは?」
俺が少し待つと、友達は振り返って言った。
「何、お前行くのか?」
俺が頷くと、友達は訝った。
「何だよ? ……とにかく明後日行くんだよなぁ……」俺は呟くように言った。
「マジで? 誘ったの?」
友達は携帯に夢中だ。度々メールを返信するために、ゲームが中断される。
「そうだよ、じゃないと行けないだろうが……冗談のつもりだったのに、すぐいいよって言われた、その後電話したんだよ」
友達は、今度はメールを中断して考え込んでいる。
「何て言ってた?」
また素早くメールを打ち始めた。
「何かいいたいことあるっつって結局いわないで切られた……」
「好きです……とかだったりして」
友達は机に携帯を置き、いたづらっぽく笑って、ゲームに戻った。
「そりゃないわ、今までが今までだったし」
友達の一言に、俺の胸の奥深くで燻っていた彼女への気持ちが、一瞬燃え上がってまた消えた。
もしそうだとしたら何でいわねぇんだよ。
俺は自分を棚に上げて彼女に腹を立てた。
「それでお前、キスくらい済ませたらいんじゃね?」友達は軽い口調でとんでもないことを言った。
「無理だよ」
でたよ俺の否定癖。
「もったいねぇの」
友達は首を傾げて携帯に集中した。また誰かからメールがきたのである。
「それ誰? 誰とやってんの? ウチの学校?」
俺はこころにも興味もないことを聞いた。
「さぁな」
友達はにやけて、画面が俺に見えないように傾けた。
「ふん、まどうでもいいや」
俺は本音を言った。
「だろ……」
友達にも友達の恋が、もしくは愛があるのかとおもうと、俺は無性にやめておけと言いたくなる。信じるだけエッチができるだけだろ。
結局、その日はメールを送れなかった。友達が帰った後も悩んだが、何を言えばいいのかわからないのだ。もし仮に、俺が彼女のことを好きだと思っているのなら、俺はそれを伝えるべきだろうが、もしダメで気持ちが離れてしまったときのあの虚無感にも似たやるせなさと、自分のバカさが身に重くのしかかるのが、たまらなく嫌だ。
きっと俺が愛を信じられなくなったのは彼女のせいだ。彼女のことが好きなのに、それを伝えられなくなったのは彼女のせいだ。
『人間は性欲を満たしたり、種の保存をしなくてはならない。そのためには、顔の好みや性癖、その他いろいろな人間の付加価値が必要なのだ。つまり人間は自分自身に思いこまされている。恋や愛が本当は欺瞞なのに、さも愛しているから等と勝手な理由をつけて本能を肯定するのだ。』
今日も講習がないので、俺はソファーに寝転がりテレビを見ていた。彼女と川へいく日は明日だ。
さすが学者は雄弁と語る。
俺もはっきり言って同感だ。愛なんか嘘だ……信じるもんか……
だってそう思わせたのは、彼女自身である。 |