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お待たせしました27話!それではどうぞ!

メール上の彼女
作:荒木ヒロ



第27話:単純複雑の心


「はい……」
俺は電話に出る。衣子と話すのは久しぶりだ。

「今いい?」
後ろで騒がしくテレビが鳴っている。消せよ。

「良いよべつに」

「あのさー……もしよかったら、今度の日曜どっかいかない?」

「行かない。めんどくさいから。てか行けないし。勉強ある……大体こんなド田舎に出かけて遊ぶようなところあんのか?」
俺は男友達を断るように言った。美成のこともある。
俺が休日も勉強してるってことくらい、今までの流れでわかるだろう。

「ヒド」
そう。こいつはいつもいつもふざけたような軽い感じで言う。
だから人の心を動かせないんだ。勘違いには追い込むが。
それに質問にも答えてない。それに何がヒドいのかわからない。
色々むかつく。俺はこいつに左右されるのはもう嫌だ。

俺は聞いたことを自分で飲み込んで、自分で解決した。
こんなド田舎に遊ぶところはない。
そして多分、ヒドいってのは俺が誘いを断ったからだろう。めんどくさいという理由で。

「ヒドくねーよっつーか受験生に……大体受験生を誘う奴があるか。それどころじゃねーってことくらい、脳みそのないお前にだってわかるだろーが」

電話はこういう感じで聞こえる。
「いいじゃんうるせーせっかくさそってあげたのに、うるさいねぇうるいこうよ。……やだ。なんで?」
ふと思う……何でだろう。別に衣子を避けてるわけじゃないけど、何となく俺は美成に気を遣ってるのかな。それか勉強しなければならないから。それとも行く理由と目的がはっきりしないから。本当にめんどくさいから。とにかく断るにはそれなりの理由がいるのかな。
はっきりした立場じゃないと衣子と同じだ。
じゃ、それを作るための判断材料を聞きだそう。
「何で行きたいと思ったんだ?」

「何で行きたくないと思ったんだ?」とまねする衣子。

……マジでむかつく。多分俺と衣子は永遠にかみ合わないだろう。

「……めんどくさいから」
ちゃんとした理由だよな。十分、断るに足る。
俺は衣子の答えを待つ。
「あ?声小さい。行っておかなきゃいけない?なんで?……今だから?なにそれ。意味わかんねーよ……あのな!俺には勉強があるんだぞ?なくてもいかねーよ!」
お前となんか。もうどこにも行きたくない。俺はもうお前に左右されるのは嫌だ。


「あの空が呼んでるの!」
なんだこいつ?俺みたいなこと言うな。
「嘘だー……どの空?真っ暗だぞ?」
俺はとりあえず乗っておく。条件反射みたいなもんだ。
でも本当に窓から空を見てみる。
黒の中にちょこっと三日月があるだけで、そのどちらも俺に話しかけては来ない。

「……おい。自分からかけといて黙るなよ」
……なんか変だなこいつ。
「……ケチ」
ん。泣いてる、のか?
俺はあわてて言う。結論を急がされる。
「おい、ちょっと待てよ。ケチとかそういうんじゃねぇんだって!ちゃんとした理由があるんだって!勉強も確かに大事だけど、俺には行けない理由がある……まぁ、もう隠す必要もねーか……俺美成とつきあってるから、無理。もう結婚式したし」

「冗談でしょ?」

「本気」

「嘘だ」

「嘘か……別に嘘でもいいよ。本当は俺がここにいないとしても、美成が俺の作り出した幻であったとしても、俺はかまわね。俺は今愛を肯定できる。それはそれを信じたいのと同じなんだ。傷ついていい。苦しくていい。死んだっていい。愛は相手を信じることだって気づいた。美成と一緒にいたら、俺はごく自然にこうなったんだ。もう一度言う、俺はお前の妹の美成が好きだ。それは妹であって姉じゃない。俺を否定しても美成を否定しても、それは変わらん。人間がそこにいちまってる以上、否定しても無駄なんだ。お前にはわからねーだろうけど、非自己存在性の証明はどれだけ頑張っても、一つのところには永遠に帰結しない。悪魔の証明ってやつだ。愛もそれと同じものだけど、ただそれは信じるか信じないかで決まる。俺は妹の方を信じる。だってこういうやりとりに、美成はついてこれる。俺は美成を尊敬してるし、だから一緒にいたいと思う。でもお前には無理だろ。だから俺と美成は少しだけ高次元なんだ。俺はそれが楽しいから、ずっと続けばいいと思ってる」

俺はどうして衣子にこんな宣言をしている?
最後の部分は俺が自分で言ったとおり、美成なら理解できるだろうが、こいつには無理だぞ?
だったら何でそんな回りくどい言い方したんだ?
衣子の誘いを断るため?そうなのか?
難しそうな言葉を言えばどうでも良くなるはずだと思った?
美成が衣子の妹だから?
自分への確認じゃないか?
俺は衣子が話すまでにこれだけ考える。
俺は確認なんだなと納得する。

「わけ、わかん、ない、よ」
衣子は泣いている。今度ははっきりとわかる。嗚咽が漏れて耳に当たる。

「俺は美成のことが好きだから、遊びに行くとしたら美成と行きたい。そしてそれはお前じゃない。それだけだ」

俺は確かに悪いと思ってる。
衣子のことを処理するまではとか言っといて、美成を好きになってしまったんだから。
だけど美成と俺はそういう次元じゃなかった。芸術みたいなものだ。それはパズルのピースがっぴったりはまる感じだ。
美成は俺を裏切らない。美成は俺に、そう信じさせる。

けど衣子が俺に与えたものは絶望と不安と苛立ちだ。
少しの期待とそれ以上の悲しみ。そして無快感のセックス。
それくらいだ。
確かに俺は遠回りしたけど、これがある種の帰着点なんだと思う。
人間の心は移ろい易いものだろ?
お前だって好きになるってことがどういうことだかわかるべきだ。

最低だな俺。
それらは言わないようにする。


俺は何かを失わないと得られないものもあることを知った。ある意味ではこれがそうだ。

「なぁ。俺達は自然にこうなったんだ。そうだな……光に包まれて一つになるように。それはお前が介在できるような事象じゃないんだ。多分、俺はお前とつきあっていたとしても、美成を愛したと思う。わりいけど……」

「難、しくて、わか、んな、いよ……」
ビチャビチャしてそうだ。

「そうだな。人間が愛を理解するのは元々不可能なんだ。だから、人間はただ信じるしかないんだよ。そして俺は美成を信じてるだけだ!」

少し黙る。テレビの音が耳をつく。

「ねぇ!私彼氏と別れたの!だからお願い……」
別れたのか。と言うことはフリーだ。でもそんなのは、衣子の本質的な価値にはならない。
俺は思う。お願い……なんだよ?
つきあって?好きになって?美成とわかれて?
俺は昔お前にそう言った。お前は拒否しただろう。
怒り以上の憎しみが心に溜まる。
それは呼気として発散された。

そういう物差しで測れないんだ。俺と美成は。
「好きなの……」
しかし俺の心は言葉の鎖で縛られる。
悲痛な顔をしているのが自分でもわかる。胸が痛む。

「わりいけど……無理だ」
どうしようもない。そう言うしかない。

俺は沈黙が嫌で電話を切る。

深呼吸をしながらため息をつき、ベッドに倒れ込む。そして部屋を見る。机にはシャーペンが置いてある。
俺は何となく泣いた。そしてもう一度衣子に謝った。


そのまま目を閉じる。
明日、美成に謝ろう。

俺は眠る。
このように、人は単純と複雑でできているのだ。と俺は思う。


うーん。切りましたねぇ……











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