第25話:ジーニアス
美成は受験生の俺に国語(現代文)の勉強をやめろと言ってきた。
そりゃないでしょう。
ただでさえ点数が取れなくて困っているのに。
俺は困惑しながらメールを送信。
:そんなんで、本当に俺の現代文不調が解決するのか?
美成の返信
:大丈夫大丈夫!端的に言っちゃえば、もし国語が解けなくっても、2次で挽回すればいいんだし、他の教科全部満点取って補えば良いんだし!んじゃから国語は取れないままでOK〜笑
俺はバカにされたようで腹が立つ。
俺の返信
:なあっ!!確かにそうかもしれないけどさぁ!!そんなに簡単に言うなよ!そりゃお前なら簡単にできるだろうけどよ!俺は美成だったらなぁ、効果的な問題の解き方とか、効率の良い勉強法とか教えてくれると思ってたんだぞ?勉強するなってどういうことだ?何か理由があるんだろうな?
送った後で、自分はなんて勝手なんだと思う。
罪悪感から謝るタイミングを計る。
美成の返信
:もう冗談だってば!落ち着いてってのー。
まぁ頼りにしてくれたのは嬉しいし、ちょっと私もやりすぎたね。
うん。ごめんなさい。でもさー、そんなに余裕なくて冷静に問題が解けるの?私が敢えて軽ぅく言ったのは、君が自分の取った点数にどれだけ動揺して、どれだけ悩んでるのか知りたかったから。なるほど今の君はかなり焦ってるね。
話からすると、前の君だったらすごい自信満々に問題を解いてたんじゃない?
でも今は問題を解く前から問題に負けちゃってる。悪い点数取ったらどおしよー、ってかんじの不安を抱え込んでる。そんなんじゃずっと点数取れないままだよ?
焦ってるから、少しの間現代文を忘れちゃいなさい。一ヶ月くらい。
それにね?
難しい問題にぶち当たると、普通の人はこう考えるの。大学に受かるためにはこの問題もあってなきゃいけない。次の問題もあってなきゃいけない。そしてそのためには余裕を持って早く解かなきゃいけないって。それは勉強も同じこと。良い点取るにはあれこれやらなきゃって思っちゃう。でもそれは自分で自分に枷をはめているだけ。以前の力を取り戻そうとする今の君にも当てはまることだよ?
あとテスト中で
みんな緊張したり、焦ってくると、落ち着け落ち着けって心の中で言う。でも落ち付けって言うってことは、その人は落ち着いてないんだよ。自分は焦ってますよーってわざわざ確認してどうするの?
君は勉強量を増やすって形でスランプを自覚しちゃってるから、焦るの。まぁ完全に無視する訳じゃなくて、こんなんもあるなぁ程度でいいんじゃない?
話は逸れるけど、本当に集中してる人はね、常に中立で平静。そこにはありとあらゆる負の感情がない。言ってしまえば、その人は問題を解きながらにして無の世界にいる。私はセンター試験の英語で満点を取った人に話を聞いたことがあるんだけど、その人は学校の卒業生なんだけどね?
途中から、なんだか気持ちよかった。
変な世界に入り込んだ。リミットが解除された。周りの音なんてもちろん聞こえない。
あるのは自分だけ。
その自分の体の動き一つすら、完全なものに思えた。って。なんだか訳のわからないこと言ってたんだけど、多分それはその人が集中を超えたからそう感じたんだと思う。
集中を超えると、色んなことがその人にとってどうでもよくなる。
そしてその人はただそこにある問題を解き続ける。
問題を解くことの喜びと気分の高揚を感じる。
気がついたら問題が全て終わってる。
後は終了の合図を待つのみとなる。
君がこれをマスターできれば、あるいは国語も解けるようになるかもね。
長くなっちゃった。ごめん。余計なことだったかな?
俺は圧倒され美成のメールに引き込まれる。黒いもやが俺の胸の中で渦巻く。
というわけで、君は今焦っちゃってるから、現代文だけ休憩したらどう?
俺は画面をぼうっと見る。
:ああ
俺は試験中の無の世界についてもっと聞きたいと思う。
今こそ俺はこの世の全てを忘れているが、それにも気づかない。
すぐに送る。
俺の返信
:なぁ。集中を超えた無の世界って何だ?
美成の返信
:うーん。それは今の君のことじゃないかな?
俺はそれを見てはっとする。意識的に息をする。そして体が動くか確かめる。
俺の返信
:なんで……?
色んなことがわからないまま美成の返事を待つ。返事はすぐに来る。
美成の返信
:勉強やめろって言われてすぐ納得する人はいないでしょ。それに心ここにあらずって感じだったしね。どお?集中を超えるっていうのを少しは体験できたんじゃない?
俺の返信
:なぁ美成。美成ってほんとに天才だよなぁ……
俺は水がじっくり浸みていくように思う。その思いを正直に送る。
美成の返信
:私は天才じゃないよ。
軽い文字。
俺の返信
:でも天才って無自覚なものだろ?画家のゴッホだって、私は想像を形に出来るだけだって言ってたけど、それが常人にすればどれだけ難しいことなのかはわかってないんだし。
俺は美成に天才だと認めさせたいのか?いや、自分の考えを率直に伝えてるだけか。
美成の返信
:うん。でも私は天才じゃない。記憶力と想像力と理解力があるだけ。
俺の返信
:それが俺からしたら天才なんだよ。美成は天才って言われても嬉しくないの?
美成の返信
:私にとって、それは当たり前のことだから。別に君たちと隔たりがあるわけじゃない。普通の人間だよ。
そうか。わかったぞ。俺もある意味では想像力が豊かだ。
だから文字に冷気を感じるのか。
俺の返信
:美成。もしかしてお前天才って言われるの、すごく嫌いだったりする?
送信30分後、俺は失敗したなと後悔する。
謝ってみたがメールはそれっきり返ってこなかった。 |