第20話:高校から大学へ
俺は美成に少し意地悪してやろうと思って言った。
「なあ美成、お前さ、俺とエッチするのも想像したのか?じゃないと、エッチできないんだろ?美成は……」
夜。俺は美成とつながった。俺は美成の中の波に乗った。それは快感という波である。衣子の時にはこれがなかった。寄せて、返り、来て、戻る。その繰り返しが、俺の心をもいかせた。それを何度か繰り返して、俺は今、美成の横に座っている。二人とも裸だ。でも恥ずかしくない。このほうがより自然な気がする。
美成は行動の前に、それをまず頭の中で想像する。ということは、一度エッチを想像しなきゃ、エッチができないってことだ。
「あたりまえでしょ?昨日寝るときに、オナニーしながら想像したよ」
美成は少ししてから、普通のことだ、と言う。俺は笑う。こいつには一生かなわないと思う。美成はそういう人間なんだ。性を生の一部分としてとらえているだけなんだ。確かに公の前じゃないし、今は深夜だし、別に良いか。
俺は美成と色んな話をした。そしてとろとろと眠たくなった。
「ふあああ。なぁ、そろそろ寝ないか?明日は俺、講習だしさ。数学は朝早くからあるんだよ。俺、一応受験生だし……」
俺は長いこと机に向かっていない気がして、ふとこのまま勉強せずにセンター試験を受けることを想像する。わからない。これもわからない。どうすることも出来ないまま、時間だけは過ぎていく。焦る。問題を解けないことが問題になる。そして、俺は大学に落ちる。レベルの低い私立に行く。俺はしかたないとあきらめる。そこから人間としての転落が始まる。
俺は夜の部屋に戻る。美成が隣にいる。そして思う。俺はそうなりたくない。
美成がすり寄る。腕を組む。腕に美成の胸と乳首が当たる。
「うん、でも、もうちょっと話していたいな」
「しょうがないな……あと少し、(俺は時計を見る。時計は1時半を過ぎている)だぞ?2時までな?」
「うん……」
「ね、君大学行くんでしょ?どこにしようと思ってるの?」
少しして、美成の声が現れる。遠くから聞いているような気分だ。部屋は静かだ。明かりは電気スタンドの頼りないものである。俺の部屋に二人だけ。いや、この世界には俺達二人だけしかいないのかなと、夜は思わせる。しかし、ときどき天窓のカーテンに木の影が映る。車のヘッドライトに照らし出されたものである。それは幽霊のように現れて、車の音と共に伸びて消える。そうして俺は他の人たちのことを思い出す。
「多分、筑波大学にすると思う。一般入試でね。俺推薦は嫌いなんだ。でもこんな田舎じゃ、一般入試って言っても絶対無理だよ。実は色んな人に受かるはず無いって言われてるんだ。あたりまえなんだよ。普通より圧倒的に時間がないんだ。今は単位制でどこの進学校もそのためのカリキュラムが組まれてるから、一年生のうちから受験対策が始まるんだけど、こっちはセンターに必要な教科、受験の教科、になると、二年生になってからの選択になっちゃうんだよ。しかも、やる時間は週2とかで圧倒的に少ないし、進度も半分程度で終わっちゃうからね。そのくせどうでもいい必修教科がやたら多いのさ。まだ体育を週三でやってる……本当、無意味だよ。でもまぁ、俺は部活を三年生になるときにやめたから、まだ良い方だよ。一月からずっと集中して出来たからね。部活やってる連中は、この学校じゃ夏休みから始まるようなもんだから、その前から準備してる奴じゃないと六ヶ月程度じゃ間に合わないと思う。やりようにもよるけどね。でも、予備校みたいにそんなの教えてくれる人はいない。自分で見つけないといけないんだ。センターのコツをつかんだり、勉強のコツをつかんだりするのには、それなりに時間がかかる。だから六ヶ月じゃ無理なんだよ……」
俺は以前この話を衣子にしたことがある。あいつにはあまり関係の無い話だ。それにどうせ聞いてたってわからないんだろうけど。あいつは三年で卒業の専門学校に行くと言っていた。俺はそれを馬鹿にした。おもいきりだ。
俺にそんな権利と義務がないと知っていながら、俺は衣子を激しく批難した。
確かに、大学に行けば輝かしい将来が必ず手に入るかと言えば、そうじゃない。でも、俺は思う。やれる人間はどこにいこうが何をしようが、それなりに大成する。しかし、衣子のような受け身人間にはそれが出来ない。だから無理矢理にでも厳しい環境に身を置かないと、やつのような人間はダメになる。
と俺は衣子に言った。衣子にしてみれば大きなお世話だ。
「そうなんだ……色々大変なんだね。私の通ってるところは、知ってるよね?進学校なんだ。だからもう受験考えてる人が私の友達にもいっぱいいるよ。二年生から文系理系クラスに分かれちゃって、担任もクラスもみんな変わる。夏休みだって、君以上にびっちり講習が入ってる。それこそ朝から夜までずっと勉強。今は三日間の休みで家に帰ってきてるけど、まだ三年生でもないのに……そんなに勉強してどうするのかな?そんなに、大学に入ることは大事なことなの?」
俺は三年生になってからじゃ遅いんだよ。と言おうかどうか考える。そもそも進学校と田舎高校には違いがあるなと思う。そして俺は言わないことにする。そして俺は元気づけることを考える。美成なら勉強する必要なさそうだけどね、と言おうかどうか考える。しかし、それもはっとしてやめる。美成がしょんぼりしているからだ。いつものあっけらかんとした美成じゃない。俺の肩に顔を力なく委ねる。俺は慎重に一つ一つの言葉を選びながら言う。
「そうだな……多分良い大学に入らないと、質の良い授業が受けられないんだ。質の良い授業が受けられないと、就職に失敗するんだ。就職に失敗すると、生涯で稼ぐお金の総量が少なくなる。生涯に稼ぐお金が少ないと、生きていくのが大変になる。やっぱりみんな楽して暮らしたいからね。それはわかるでしょ?ま、一般論だけどね。俺みたいに、テストで点数とるのが好きって言う変態もいるからわからないもんだけど……」
美成は黙っている。俺は続ける。
「それに良い大学に入ると、それなりにその人の価値が上がるんだ。つまり発言に説得力を持たすことが出来る。この人はある程度の大学を出ているから、その発言も聞くに値する、信用できる、それっぽいこと言ってるんだなって思われるんだ。それは人間としてやっていくには、かなり大切なことだと俺は思う。だから俺は大学に行くんだけど……こんなこと美成には言わなくてもわかるか。ごめん、変なこと言って」
「ううん。大事なことなんだね……ごめん、わたしこそ。私は大学、どうしようかな……」
そう言って、美成は黙り込む。
「美成なら、どこの大学だって入れるよ」
俺はもう寝ようと言う。そして美成を抱いて眠る。
そして大学に落ちる夢を見た。 |