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お待たせしました18話!

メール上の彼女
作:荒木ヒロ



第18話:愛、戻る


前回まで
俺は美成とキスした。

俺はお前とキスした。キスだけで気持ちよかった。
確かに言ってしまえばそれだけ、なんだけど、キスっていう行為はそれだけで片付かないと知った気がするわけなんだよな。キスと言っても、口先っちょが触れるだけのかわいいキスもあるし。ベロが交ざり合って一つになるような、官能的でフレンチなものもあるしね。
その意味と目的だって多種多様だろ?
偶然に、嫌々に、快楽の追求で、儀礼的な、愛情表現の、仲直りの、理由もない、キス自体を目的とした、仕事の……ちょっと考えただけでこれだけのキスがある。
こんなもんなのかな。生きるってさ。遠く、空のあのへんを眺めるような。
それは俺がよく考える、人間が生きていくってのは複雑に絡み合った紐みたいなもんだっていうのと似てるんだよな。しばしば俺はその様を想像するわけ。
そうだな、例えば俺が路傍に捨てられてた缶を拾って、クズカゴに入れる。誰だよこんなところに、って思う。まぁ、俺はそんなに善良な人じゃないけどね。多くは無視するよ。
ふとそこで立ち止まる。俺は思う。俺は考える。
そこに缶があるってことは、それを買って飲んで捨てた人がいるってことじゃないか。
そこに缶があるってことは、自動販売機を設置した人がいるってことじゃないか。
そこに缶があるってことは、自動販売機を作った人がいるってことじゃないか。
もう考えるだけ無駄で、それはあまりにも広すぎる。
そういう感じで、人はつながってるって思う。途方もない因果と、無限の関係性で。
愛ってのもそんな感じでさ、俺たちがそれをいかに理解しよう、把握しようと思っても、無理なんじゃねえのかな?最高の芸術には言葉すらも生まれないように、ただただ口が開くように、愛はそこにあるんじゃないかな。
これっておもしろいよな。最高の芸術家による最高の生産物は、それ自体が生の頂点にありながら、色々なものを殺すんだぞ。
てことは生は死であり、死は生であるって言えるかな?

「うん……そうだね……そうかもしれない……」
美成は俺の家の台所で昼飯を作っている。俺はダイニングテーブルに座って、美成の後ろ姿を見ている。美成は母さんのエプロンを付けている。探すのに苦労した、青い普通のやつだ。付けるとき、俺が後ろを蝶に結んでやった。母さんよりもずっと似合っている。可愛いとさえ思わせる。そして俺はゆっくり話す。美成なら、もしかしたらわかるんじゃないかと思う。俺が普段思っていること、感じていること、考えていることを。
美成は黙って昼飯を作りながら、俺の長くてどうでもいいような話をしっかり聞いてくれる。こういうのの積み重ねが愛なんじゃないかと、新たに思う。それも言いたくなる。でも表現が出来ない。父さんもこんな感じで、いや、誰もがこんな感じで女性を見ているのだろうか。美成は時々横を向く。俺は美成の横顔を見る。美成は何かを考えている。それから細い首を見る。耳に視線を移し、続けて髪を見る。髪は後ろで一つに束ねられている。それがフワフワ揺れる。何かを炒めているから、細い腕がせわしなく動いている。

「お前の姉ちゃんも、愛を理解するのはそもそも無理なんだってことに気づいたら、もっとセックスを楽しめるんじゃないかな?俺の個人的な意見からすると、すごく無味乾燥だったからさ。やつとの初めてのエッチ。俺実を言うと感じなかったんだよな。そりゃ肉体的にはイったけどさ、なんつーのか、心がついてってない感じかな。まぁあん時は色んなことが1日にガンと集約されてて、そこまで考える余裕が俺になかったのも事実だけどね」

俺は美成に多くのことを言う。俺は感じたままに表現する。美成ならそれを受け入れてくれると思う。
そして俺は美成になら俺のすべてを見せても良いと思い始める。俺が深く意味のある人間なのかは俺にもわからない。知りたいと心くすぐられるような人間の魅力を持っているのかもわからない。ただ美成に俺を見てもらいたい。それは空虚な感情だ。俺は俺だよって美成に言うだけのような。


俺は何となく、美成になら裏切られることもないだろうと思う。だから俺を見せることが出来る。それが信じる、信じてる、ということなら、俺は美成を愛しているのかもしれない。
そして俺は言う。
「なぁ、まだ美成に会って一日しか経ってないけど、俺は美成が大好きって、言ってもいいかな?」
「いいよ。もちろん」
声の感じから、美成はほほえんでいると思う。うしろだから表情はわからないが、きっと小さく笑ってる。
俺は美成をそっと抱く。美成は火を止める。そして俺の腕に触れる。チャーハンがフライパンの上でぱちぱち弾ける。俺は美成のほっぺに頬を付ける。やっぱりぬるくて冷たい。

俺は過去を追い払った。追い払えた。美成のおかげで。

「大好きだ。美成……」


俺が愛を取り戻しました。











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