第1話:微妙な心情
衣子とのメールのやりとりは、高一の時からほぼ毎日続いていた。今年受験生になった俺だが、寝る間を惜しんで勉強してきたわけでもないから、それはこれからも続くだろう。
衣子は俺と同じクラスの女の子だ。彼女は中学からずっとテニスをやっていた。目立った成績を残さないまま(団体でなら輝かしい成績を残した)六月に引退した。そうは言っても、バスケ部を中退した俺よりは遥かにウマイし偉いのだろうが。
彼女とは小学校の頃からの付き合いだが、お互いにその存在を意識し合ったことはなく、普通のお友達として育った。年賀状すら出さない時期もあった。今のようになったのは、メールを始めた高一くらいからである。衣子は顔立ちも調っているし、スタイルもそこそこイイ。しかし、俺にとってはさほど重要なことではない。衣子とはメールさえ出来れば、なんとなく充実した気分になれるからだ。触れ合わなくても、彼女を十分に感じれる。
だから、衣子にメールで時間割を聞くのが俺の日課となった。より楽しむために、そこから雑談に発展させたりもする。時には彼女が寝ていて、返事が返ってこなかったりすると不安になるが、そのあとのメール上の彼女は、俺に対して少し優しい。そんな単純なことで、俺は安心してしまう。彼女は自分の将来について話したり(あるいは俺や、俺達の将来について)、俺の頭でっかちな自己主張に理解できる範囲で応えてくれたりする。
俺みたいな人間にとってはすごく心地がいい。だからつい、自分が彼女に恋心を持っているのではないかと錯覚し、実際にその答えを求めてしまったことも何度かある。彼女は笑ってごまかした。俺達の仲はいいと俺は思う。だから淡い恋の期待から抜け出せないでいるのだ。だが彼女には彼氏がいて、これまた仲のいいカップルに見える。でも俺は気にしないことにしている。たった一人の男の為に、俺の行動範囲を狭めてやる必要はない。
そりゃあ俺と衣子が微妙な関係だって、ニブイ俺でもわかってる。メールでは、小説を二人で書いたり、写真をとりあって、(主に彼女が)これなーんだ? と問題を出して遊んだりもするからだ。ものすごく近くにいるのに、薄皮一枚挟んで触れられないのはもどかしい。俺がどんなに仕掛けても、彼女は気付かないのだ。いや違う……本当は彼女は何とも思ってないのだろう。
とにかく、そんな微妙な関係が続いていた。
ある日いつものようにメールを送り、彼女にしてみれば特に意味もない話をした。関係が凍った俺達だって、時には熱を求めてエッチな話しをすることだってある。そんな話をしながら夜中の12時を過ぎたころ、彼女と俺は(少なくとも俺は)自分達を隔てている薄皮に爪を立てた。 |