現代寓話的思考
むかしむかし、といっても、魚が二足歩行していた頃だから、そんなに昔ではないけれど。
ある町に暮らす大地主の家に、それはそれは美しい娘が一人おりました。娘が歩けば咲き誇る花でさえ恥じ入って道を譲ると噂されるほどの美人でした。
ある時、大地主は二番目の妻を迎えました。この妻にも娘がいて、十人並みの器量よしでしたが、継子には遠く及びませんでした。
さて、新しく妻になった女は、その日から継子である美しい娘を憎み、苛めて、辛い仕事を押し付けるようになり……というのが物語では常套ですが、そうではありませんでした。彼女は実の子である娘に家の仕事をこなすよう言い付け、継子となった姉娘には一切家事をさせず、好きなことを好きなだけさせました。朝から晩まで母親に厳しく叱られながら仕事をする妹娘の手はたちまちあかぎれだらけになりましたが、母親は意に介さず、反対に姉娘には高価な香油やクリームを買い与え、丁寧に肌の手入れをさせました。姉娘は毎日好きな読書に励むだけで、何一つ自分でしようとはしませんでした。
「かあさんは、私がかわいくなくなったんだわ。ねえさんが余りにも綺麗だから。綺麗なものはいつだって、この世で大切にされるんだわ」
と、妹はいつも嘆いていました。
それから数年の後、不作が続いた所為であれほど裕福だった地主の家は取り潰され、姉妹は家を追われることになりました。
町へ働きに出た二人はお城の料理番の元へ行き、仕事をくれるよう懇願しました。料理番はちょうど雑用が欲しかったところだと、二人を雇い入れてくれました。
冷たい水で皿を洗ったり、重い鉈で薪を割ったりする作業は、それまで部屋の中だけで過ごしてきた姉には大変な重労働でした。赤ん坊のような掌には血が滲み、仕事でもそそうばかりしましたので、すぐに料理番が目を吊り上げて怒鳴りました。
「苦労知らずな綺麗な手をして、それで働いているつもりかい。いくら顔かたちが美しくたって、ここじゃなんの役にも立たないよ。お前みたいなそこつ者とあたしらが同じ賃金なんて、割に合わないったらありゃしない。さっさと出てお行き!!」
泣いて取りすがる姉を、料理番は冷たく追い出してしまいました。
対照的なのは妹娘。皿洗いも薪割りも火おこしも、いつも家でやっていたからちっとも苦ではありませんし、ちょっとくらい怒られたってそれも慣れっこだったから、なんてことありません。料理番は働き者な娘をすぐに気に入って、とても良くしてくれました。やがて娘は城に仕える将来有望な騎士と恋仲になり、結婚して幸せな家庭を築きました。
一方追い出された姉娘の行方はというと、働くところもなく路頭でのたれ死んでしまいましたとさ?
いえいえ、そうではないのです。
仕事を失った姉娘が、行くところもなく途方に暮れて城の庭先で泣いていると、ちょうどそこへ散歩をしていたこの国の王子さまが通りかかりました。王子さまは娘の美しさに驚き、どうしたのかと尋ねました。話をすればするほど、教養深く気品のある娘に惹かれ、王子さまは彼女を愛するようになりました。
娘は寵姫の位を賜り、子供にも恵まれて一生楽しい日々を送りました。
さて、この姉妹のお母さん、結局のところ二人のうち、どちらを愛していたのでしょう?
それは、彼女が育てていた鉢植えのお花と、神さまだけが知っているのです。




