2ノ第13話: 悪魔の水(中編):猛獣警報
嫌な予感はしていたんだ。
だからおとなしくしていたのに……。
◇
「お酒はどこ?」
出されたお酒を飲み干したロリエット姫。
気分良さそうに酔っぱらい、もっと飲みたそうにしている。
そしてロイドじっちゃんは絡まれたのである。
まあ、当然そうなるであろうとは思っていました。
そういう俺はというと、高みの見物である。フフッ
「もうおわりじゃよ」
「もっと飲みたい。飲みたい。」
「お酒は高価なんじゃ、これ以上貰うわけにはいかんじゃろ」
「お金お金お金って、これだから人間って嫌だわ」
「お金にも酒にも罪は無いのじゃ……。あれれ。それじゃやっぱり人間が悪いことになってしまうの~、こりゃ一本取られたわい。オホホホ」
どうやらお酒の魅力に取り憑かれたようです。
ロイドじっちゃんは駄々をこねるロリエット姫の相手をしている。
なんとか言い聞かせようとがんばるロイドじっちゃん。
まるで親子のようである。
「ブゥ~~」 姫は膨れ顔である。
「そこの、おまえ!」 姫は睨んでいるのである。
俺だった……。
傍観者を決め込んでいたが、目があってしまった――のが運の尽き。
見なかったフリしてそっぽ向いてみたがダメだ――。
――振り向くと音も立てずに女豹で忍び寄るロリっ子エルフは、もう目の前まで来ていた。
前にもこんな事があったような……。
「あんた、見たわよね」
「何のことでしょう……?」
思い当たるフシがありすぎてわからん。
とりあえず逃げようと後退りするも後ろは壁で、逃げ場なし。
距離を詰めてくるロリエット姫。ち、近いです。
何されるんだろう……。パンチですか?ビンタですか?いやこれは張り手だ。
強烈な張り手が俺の頬をかすめた。
そして『壁ドン』
これ――女子の壁ドンですよ。
逆、壁ドンじゃないですか!!
噂には聞いていたが、壁ドンって、ドキドキするね。
『恐怖でね……』
◇
「あんたには貸しがあったわよね?」
貸しというのはクマさんのパンツ見たことですか?
イヤ温泉のほうだよな。
あれは不可抗力だったのだ……。
ちょっぴりスケベ心があったのは確かだが、温泉の壁を壊してまで覗こうなんてつもりは全然なかったんです……。
「まぁ、わたしにも貸しがあるけど……」
そうそう、俺はエルフの森を救ったらしい。
ということでチャラにしてもらえないでしょうかね?
「でもわたしは1回、あなたは、1、2、3、――たくさんあるわ」
どうやら俺はロリエット姫にだいぶ貸しを作ってしまったらしい。
1回の重みってのがあってもいい気がしますが、パンツを見た重みはエルフの森を救った重みと一緒なのでしょうか?
逆に言えば、ロリエット姫のパンツを見ることは、エルフの森を焼くに等しい罪だという事なのですね。
「あの時は変装の為なんだからね。いい?勘違いしないでよね」
何を言っているのかわからなかったが。
おそらく俺がロリエット姫のクマさんパンツを見たことが一番の問題らしい。
変装のために稚そうなパンツを履いているとか言い訳しているが、意味がわかりません。そもそも変装になってません。
明らかに個人的趣味で履いていたとしか思えません。
エルフの成人年齢なんてわからないが、かなり大人を意識していることだけは理解した。
「ということで、私のお願い聞いてもらうからね」
ノータイムで「はい」って言ってしまったよ。
Noと言えない日本人みたいになっているではないか!
だって逆らうと怖そうなんだ。仕方ないだろう。
俺に出来ることならば良いのだが……。
「わたしも働くわ! お金頂戴――じゃなくて、仕事頂戴!」
お金よこせと恐喝が来るのかと思いきや、仕事くれと言いだした。
「わたしはもう立派な大人よ! 人間は大人になったら働くんでしょ」
「そりゃまあ――」
そういう俺は、働かない生活を夢見て冒険してるがな。
働いたら負けなのだよ!
自慢じゃないが、俺はただ冒険したいだけのニートさ。
もとい、引き篭もりじゃないニートだぜ!
「わたし聞いたわ。最初はただの運び屋かと思ったけど、あなたってやり手の若き実業家だったのね!」
「えっ?」
えらい誤解ですよ……。そもそも運び屋でもないし……。
「何でもするわ、運び屋でもあなたの付き人でも。――あなたが裏社会に精通していることだって知ってるんだから! 危ない仕事でもなんでもするわ! 研究所の時の仕事だってこなしたんだから! ――だから私に仕事を頂戴!!」
おいおい、更に違う方向へ向かっているよ。
裏社会って何だよ!!
「何か誤解してるようですが、俺はただ冒険がしたいだけなんです。そういうことならロイドさんに頼んだほうがいいんじゃないかな?」
「だめよ! ロイドは酒と女しか頭に無いんだから」
ロイドのじっちゃんはそんな風に思われているのか!?
実際のところは知らんが……、じっちゃん、苦労してるな。
親近感が湧くぜ。
見かねたアンリエットさんが姫様を引っ張ってゆく。
そして、俺の危機は去った――かにおもわれた、が……。
◇
「リュージ!」
二匹目の女豹が忍び寄っていた。
「ミリア、酔っぱらってるだろ!」
距離を詰めてくるミリア。ち、近いです。
何されるんだろう……。パンチですか?ビンタですか?
いやこれはまた張り手だ。
強烈な張り手が俺の頬をかすめた。
『壁ドンx2』
「あんた、いい御身分ね」
「な、何のことでしょう……」
嫌味たっぷりな声で脅してきた。
「ずいぶん仲良さそうじゃない?」
「ロリエット姫のことですか?」
あれのどこが仲いいように見えるんだよ!
一方的に脅されてるだけだよ。
「あんたね。ちょっと強くなったぐらいで、いい気にならないでよね」
完全に酔ってる。
確かに俺はちょっと強くなった。急成長である。
だがミリアはそれが気に入らないらしい。
相当俺にライバル心燃やしているようである。
普段から手がつけられないやつだが、酒飲んだらもっとやばい。
俺は首を振って「いいえ」と訴えた。
「あんたなんか、まだまだ私の足元にもおよばないんだからね!」
「お姉さま。リュージさん困ってますよ」
マリアちゃんの助けもあり、俺は救われた。
悪魔の水とはよく言ったものだ。
あながち間違っていない。
そう感じたよ。
ほんとタダ酒なんて、ろくなもんじゃない。
そういうのは必ず何か良くないことが起こるのだ。
てか、奥で俺を手招きしているおっさんなんだんだ?
あれは隣の酒場のオーナーさんだな。
知らんぷりは出来ないよな。
酒貰っちゃってるし……。
だが、これはチャンスだ!
こんな猛獣だらけの座敷を脱出する理由を作れたぜ!
ということで、俺は猛獣の住む座敷をあとにした。