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名探偵・明智耕助

密室殺人の謎

作者: 寝る犬

 私の名前は明智耕助。

 東京で私立探偵を営んでいる。


 今日は以前ある殺人事件を解決した時に知り合った二流の刑事、西山警部に呼ばれて、この殺人現場にやってきた。


「……どうして万雪まゆきさんも一緒にいるのかね?」

 会ってそうそう、西山警部はそう質問してきた。


「恋人だからです! ねっ? こうちゃん!」

 現役アイドルとして有名なまゆきは、私の腕に絡みつき、頬を擦り付ける。

 私も「そうです」と頷いた。


「……まぁいい、今日は忙しいんだ、一つ目の密室殺人現場へ向かうぞ」


「一つ目?」

 私の質問を無視して、西山警部はパトカーの後部座席を開く。

 私たちは仕方なくそこに乗り込んだ。




―――――――

『第一の密室』


「ここが一つ目の密室殺人の現場だ」

 パトカーから降りた私たちの眼の前に建っているのは、ありふれたマンション。


 無理やりドアを壊して入ったらしいその部屋は、ドアにも窓にも内側から板が釘で打ち付けてあり、確かに密室のようだった。


「被害者は十日前から何かに怯え、部屋に引きこもってしまったようだ。その間、外に出た形跡はない」


 西山警部の説明を聞き、私は遺体を確認した。


「なるほど」

 思わず口に出してしまった私のつぶやきに、西山警部が早速突っかかってくる。


「何かわかったかのか?」


 私は腕を組み、L字に伸ばした指をあご先に当てる。


「……餓死……ですね」


「こうちゃんすごい!」


 まゆきがグリグリと顔を擦り付けてくるのを、笑って頭をなでてやりながら、私は一つ目の密室殺人トリックを見事に解き明かした。



―――――――

『第二の密室』


 西山警部がヨレヨレのトレンチコートを翻して案内してくれたのは、銀座のど真ん中に建つ大きなビルの地下だった。


「被害者は大手金庫メーカーの社長だ。昨夜遅く、金庫の技術を利用した個人用シェルターの開発に成功したという連絡を受け、2時間後に集まった社員がシェルターのフタを開けると、社長は亡くなっていたのだ」


 西山警部が遺体に手を合わせる。

 遺体は自らの首を押さえ、苦悶の表情を浮かべていた。


「このシェルター、社長が自分で作ったんですか?」

 私は第一発見者だという社員の一人に質問をする。


「はい。社長は腕の立つ金庫職人でも有りますから。今回のシェルターは、対火耐熱耐衝撃に加え、津波が来ても水漏れもせず、毒ガスが周囲に充満しても中には全く影響しないという自信作だったようです」


 人一人がやっと入れるほどの小さなシェルターを指さして、第一発見者は少し得意気にそう言った。


「なるほど」

 毒ガスも遮断する、密閉された個人シェルター。確かに密室だ。


「さすがに今度ばかりはお前にも分かるまい」

 これまた何故か得意気に、西山警部が胸を張る。


「……酸欠……窒息死ですね」


「わわ! こうちゃんすごい!」

 ぐぬぬと唸る西山警部に「次に行きましょう」とだけ告げると、私たちはまたパトカーに乗り込んだ。




―――――――

『第三の密室』


「この密室殺人には、二つの謎があるんだ」

 西山警部がまたもやドヤ顔で説明を始める。


「一つは密室トリックだとして、もう一つは?」

 脇の下から顔を出し、抱きつくまゆきの頭を撫でながら私は一応聞いてやった。


「遺体が発見されていないのだ」


「えー? すごい謎ー!」

 西山警部に相槌を打つまゆきの顔を見る。本気ですごい謎だと思っているようだ。

 かわいいやつだと思いながら、さらに頭を撫でる。


「なるほど」

 私は帽子のつばの位置を直し、西山警部へ向き直った。


「殺人は……無かった」


「おおー! 逆転の発想! さすがこうちゃん!」

 逆になぜ密室殺人が起こったと思ったのか、私は知りたい。

 私たちは、ただの密室を後にすると、最後の密室殺人現場へと向かった。



―――――――

『最後の密室』


「ここが最後の密室殺人現場だ」

 西山警部が両手を大きく広げて見せたのは20m四方もある真っ白な部屋だった。


 足元には背中にナイフを刺された遺体。

 壁には窓一つ見当たらず、凹凸すら無かった。


「ここは出口も入り口もない完全な密室で、被害者は餓死するほどの期間ここに居たわけでもない。見ての通り空気もたっぷりあるし、もちろん、他殺体もちゃんとある。どうだ?! 完璧な密室殺人だろう?!」


 西山警部のドヤ顔、ここに極まれり。

 私は少しイラッとした。


「すごーい。密室だー」

 まゆきが壁を触ってまわるが、やはり出入口すら無いようだった。


「……どうしても一つ分からないことがあるんですがね」

 腕組みをしながら、私は首をひねる。


「お? 降参か?」

 何故か嬉しそうな西山警部を真っ直ぐ見て、私は頷いた。


「ええ、降参です。どうしても分からない。……私たちはどうやってこの部屋に入ったんですかね?」

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