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HTML殺人事件
作:ame*



第2話


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 ルネは女とベッドの上にいる。その女は少女のようでもあり成熟した女性のようでもある。
  彼女はPoem Villageで見かけるネット詩人の誰かなのかもしれない。希羅々だろうか。そうかもしれないし、違うかもしれない。ルネは、オフで彼女たちに会ったことはないから、サイトに写真を掲載している数人のほかは、どんな容姿なのかわからない。
 いや、それを明確なものとして伝えられないだけで、彼女が誰かをルネはわかっている。でも、実際の彼女は、たぶん、今見ているような顔やヘアや身体のラインではないだろう。

 そこには流れがあった。川のような、あるいは海流のような微温の液体の流れ。彼女は、その流れの中のひとつの波だ。波はルネを捉えようとしている。そして、流れが彼を取り込もうとしている。

 精液が波に吸い込まれ、そして、流れに吸収されていく。流れの中で薄められ、やがて、まったくそこにあるのを認識できなくなり、精液は完全に、そのアイデンティティーを失う。

 それが至福よ、あなたを悦ばせてあげるわ。彼女の表情の中に支配の優越感が読み取れる。彼女は母に変化する。ルネの現実の母親ではない。ユングのいうグレートマザーのような母だ。でも、このグレートマザーは醜く、生臭さを伴っている。ルネは母をきわめて冷静に忌避する。

 もう、そこには、あの大河や海のような膨大な量の液体はなく、流れも波も存在しない。足元にあるのは土だ。まだ沼地のように湿っているが、しだいに乾いていくだろう。母は死んだのだ。死んで土になる。それを止めてはいけない。それは、この世界の生成と変化の過程で推し進められなくてはならないものだ。

 そして、固まった大地の向こうに父親が現れる。彼もルネのリアルな父親ではなくシンボルとしての父だ。もっともルネには、父親の記憶は幼児期のおぼろげなものしかない。

 その大地に立っている父は殺されなければならない。ルネに殺されるのだ。父親を殺す時。それが神話の世界の始まりと終わりと、そして、すべてだ。
 さあ、彼を殺しなさい。

 ――それが神話の世界の始まりと終わりと、そして、すべてだ。――

   ********

 ハイネケンの缶をひとつ飲んだだけだったが、しばらく眠ってしまったらしい。目を開くとルネは、ソファの上で横になっていて、室内も窓の外も暗くなっている。
 この部屋は西日が当たるので午後は暖かく、まだ、その温もりが残っている。だから、しばらく眠ってしまったけれど風邪はひかなかったようだ。
 眠りはPCでいえばメンテナンスにあたるもののような気がする。ルネは病弱だった幼児期を過ぎてからは、ほとんど医者のお世話になっていない健康体なので、発熱や腹痛などは少し眠れば治ってしまう。それから、眠りは鬱状態にも有効だ。
 スキャンディスクやデフラグの時、PCは夢を見ているのだろうか?

   ********

 誰かが書き込んでいた通り、来訪者が増える夜の時間帯に入ったちゃんねる・ぜろでは、タツヒコの死を扱ったスレッドが祭りになった。
 投稿のペースがひじょうに速い。新しいものを読み終わってリロードすると、またかなりの数が書き込まれていて、読んでいくのが追いつかないくらいだ。

 だが、これといって注目するような情報にはなかなか出会わなかった。相変わらず常識人たちの神経を逆なでするようなジャンクな書き込みが続いている。

 それでも、ずっと流し読みしていくと、こんなものに巡り会った。

    ・
    ・
    ・

468:私も匿名さん
 私は「HP小僧」のコメントスタッフに応募して、採用されたことがあります。
 でも内情は、ひどいものでした。まず、何ヶ月分も掲載依頼が溜まっていたんです。
 そして、それに古いものから順にコメントをつけるわけなのですが、
 あそこの編集システムというのは、ログインして、すぐに編集の個所に行けないんです。
 20サイトの情報(URL、タイトル、管理人の宣伝文などがあるので、相当長い)
 があるページをスクロールして、いちばん下にあるボタンを押し、その前のページに行く。
 それを何十回も繰り返して、奥にある編集個所に行かなければなりません。
 私はcgiとか詳しくないんですが、こういうの、何とか出来るはずですよね。
 けっこう有名なところなのに、その程度のスキルもないのかと疑問に思いました

 ギャラも微々たるものだったし、こんな状態では、仕事をしても支払われず、
 踏み倒されるかもしれないと考え、すぐに辞めました(笑)

469:私も匿名さん
 タツヒコって、ITブームの頃、テレビの取材を受けたりしてたね。
 ベンチャーの星って感じで。

470:私も匿名さん
 >>468
 なんだよ、そのシステム。初心者以下のレベルじゃん。
 それ、HP小僧の初めの頃?

471:私も匿名さん
 HP小僧の投稿システムもひどかったよ。やたら重くてさ。
 まだテレホーダイ全盛の頃だから、11時過ぎの2時間くらいは、とても入れなかった。

472:私も匿名さん
 香具師のスキルは厨房以下。

473:私も匿名さん
 >>470
 468です。
 いいえ、昨年のことですよ。
 同じようなスタッフの人に個人的なメールを出して聞いてみたんですが、
 その人もレスに、初心者としか言えないスキルだと書いてました。

474:私も匿名さん
 >>471
 テレホ。懐かしいね。
 従量制のユーザーも多かったし、
 やたらネットに繋げてると通信費が大変な時代だったから
 HP小僧みたいなので情報を得ると便利だったんだな。
 常時接続が一般的になると、いくらでも自分で検索して見て周れるから
 ああいいうのは必要なくなるね。

472:私も匿名さん
 編集システムは見てないからわからんが、投稿システムは最低だった。
 あれはフリーのcgiをほんのちょっと書き換えただけなんだよな。
 しかも、奴は恥知らずなことに、そんなものに著作権を主張したりしてた(藁
 あの頃はプログラム板でさんざん晒し上げてやったもんだ。

   ********

 リロードすると、その後は、またジャンクな書き込みが続く。興味深い書き込みをしていた連中は、姿を消したようだった。ちょうどTVの人気番組や食事や風呂などでPCを離れる時間だ。これから夜遊びに出かける者もいるだろう。

 ちゃんねる・ぜろを離れ、タツヒコが作ったアクセスパルという会社を検索してみた。IT業界向けに発行されているメルマガのバックナンバーのページがヒットした。一昨年秋の記事だった。

<株式会社アクセスパル(東京都渋谷区 水野達彦代表)は、ふれんどウェブ(株)(東京都港区 中山栄治社長)に全株式を5千万円で譲渡し、今後はふれんどウェブの傘下として活動することとなった。懸賞を通じてさまざまな情報を収集し、販促資料として企業に提供してきたふれんどウェブは、これによって、広告アフィリエイトサービス部門の強化を進めていくと中山社長は述べている。>

 たしか、HP小僧のスタッフ間のやり取りにはフリーのMLを使っていたようだ。takayoの話や、ちゃんねる・ぜろの書き込みでも、素人レベルのシステムを使っているらしい。
 そんな会社に5千万円の価値があるのだろうか。もちろん、一概には言えないが。

 バックボタンで検索のページに戻ると、そのページの少し下に同じメルマガで4年ほど前のバックナンバーもヒットしている。それは有限会社だったアクセスパルが株式会社に移行した時のものだった。役員の顔ぶれにはふれんどウェブ社長の中山氏も見えた。

 食事にするのでPCを終了させようとした時、メールの着信メッセージがあった。希羅々の従妹からのものだと、ルネは直感的に思った。



16 </p>

 
□ □ □ □ □

送信者 Junko Yokoe
 宛先 Rene
 件名 送ります。よろしくお願いします。
――――――――――
ルネ様

こんばんは。
こんなメールが来ています。
あんなことがあった後ですし、恐怖を感じるような言葉や内容もあり
時々、背後に誰かが忍び寄っているような気がして、
心臓がどきどきしたり、そんな不安な日々を送っています。

でも、従姉のお友達の方々が、いろいろ助けてくださるので
何とかやっています。

突然メールを差し上げたので不審に思われるのはもっともです。
ルネさんにメールしたのは、
ある方が、自分はインターネットに詳しくないけれど、
この人なら頼りになるだろうと教えてくださったからです。
その方のお名前を書いていいかわかりませんので
ここではある方ということで、お許し下さい。

この3通のメールは、いずれも、返信しても戻ってきてしまいます。
それと、以前のメールで同じメルアドからのものや
内容の似たものはぜんぜん残っていません。
気分のいいものではないので、従姉が削除してしまったのだと思います。

それでは、お暇な時にでも見て下さって、
何か気づかれた事があったら、アドバイス頂ければ幸いです。




 横江 潤子

――――――――――


 ルネは料理するのが嫌いではない。でも、今夜は、あまり時間をかけたくなかったので近くの中華ファミレスで夕食を済ました。
 比較的空いていたのでゆっくりしても良かったのだが、アルコール類やコーヒーも頼まず、食べ終わるとすぐ部屋に戻る。

 ブラウザの受信ページにアクセスし、さっき、軽く目を通していた潤子からの転送メールをもう一度読んだ。
 どれも、あまり長くはない。


□ □ □ □ □

送信者 Junko Yokoe
 宛先 Rene
 件名 Fwd:
――――――――――
---original message---
送信者  
 宛先 希羅々
 件名
 
昨年末にメールを差し上げたんですが、お返事を頂けないので再度送ります。昨年後半に、蝙蝠さんから何かをお預かりしていないでしょうか?メールに添付されたファイルなのですが、お心当たりはありませんか?
理由や経緯を申し上げることは出来ないのですが、この件について早急に対処しないと、あなたの身辺に危険が及ぶ可能性があります。ぜひ、返信をお願いします。

――――――――――

 送信者欄と件名にはスペースが入れてあるだけだった。受取人の性格によっては、けっこう不気味に感じられたりするだろう。
 生前、希羅々からルネへ送ってきたメールで「蝙蝠さんのことをいろいろ尋ねてる」変なメールに触れられていた。それと同じ差出人からのようにも思える。
 でも、返事を求めているのに返信しても戻ってきてしまうのは変な話だ。設定を間違えているのか、それとも、何か別の意図があるのだろうか?


□ □ □ □ □

送信者 Junko Yokoe
 宛先 Rene
 件名 FW: Fwd: Re: ふふふ
――――――――――
---original message---
送信者 レイカ
 件名 Fwd: Re: ふふふ
いちばん高い塔の歌

束縛されて手も足もでない
ひきこもりの青春
いらぬ気づかいだが、ただ彼女は
自分の生涯をふいにした。

――――――――――

 これはアルチュ−ル・ランボオの『いちばん高い塔の歌』がベースらしい。
金子光春訳だと、該当する部分はこうなっている。

 束縛されて手も足もでない
 うつろな青春
 こまかい気づかいゆえに、僕は
 自分の生涯をふいにした。

 このメールで注目すべき点は、件名を見ると、この送り主が誰かに「ふふふ」という件名のメールを送り、それに対して返ってきたレスを転送してきていることだ。だから、この文章は、その相手が書いたものだと思われる。
 内容は希羅々のことを示していると考えられないでもないが、そうすると相手も彼女を知っていることになる。“いちばん高い塔”は彼女が転落、あるいは飛び降りた建物を暗示したものと考えられ、ということは、彼女の死について、ある程度の情報を得ているわけだ。
 シニカルな文面から、その相手は彼女に対して悪意をもっているようにも想像できた。
 ランボオを踏まえていることから詩に関心のある人物であることが考えられる。


□ □ □ □ □

送信者 Junko Yokoe
 宛先 Rene
 件名 Fwd:悔い改めよ
――――――――――
---original message---
送信者 The muse
 宛先 希羅々
 件名 悔い改めよ

一篇の詩が生まれるためには、あなたたちは殺されなければならない
多くの凡庸で下品で貧困な想像力は屠殺されるのだ


――――――――――

 ルネはこれに似た文章を読んだ記憶があった。かなり有名な詩人の作品を書き換えたもののはずだ。
 “一篇の詩が生まれるためには”で検索して、その結果から田村隆一の『四千の日と夜』を元ネタにしていることがわかった。

  一篇の詩が生まれるためには、
  われわれは殺さなければならない
  多くのものを殺さなくてはならない

 メールはいずれもメーラー設定でReplyToをでたらめなものにしてあるようだった。だから潤子が返信しても戻ってきてしまったのだ。

 ヘッダーを見ると2番目と3番目のメールは希羅々宛てに同じメールサーバーから送信されている。同一人物が送っている可能性があった。
 しかし、2通目の内容は、すでに希羅々の死を知っていることを窺わせるのに対し、3通目は彼女にたいして脅しをかけているようにも感じられた。時間的には3通目の方が5日ほど後なので、そこに矛盾が生じることになる。

 何かの糸口になりそうなのは2通目の送信者になっている“レイカ”というHNだろう。ここのところ、あまり見かけないが、一時はPoem Villageの常連にレイカという詩人がいたのをルネは覚えている。
 もちろん、同じHNに過ぎないかもしれないし、本人が実際に関わっているかどうかもわからない。誰かが何らかの目的でレイカというHNを使っている可能性もある。
 もし、直接にしろ間接にしろ、レイカが何か関係しているなら、すこし成り行きを観察しているほうがいいかもしれない。

 すぐにメールなどで尋ねるべきではないな。
 ルネは、とりあえず“ぽえ村”でログを覗いて、レイカについて調べてみることにした。



17 <table>

 
 Poem Villageでレイカについて調べてみた。
 投稿板の左上に「作者一覧」のボタンがあり、それを押して目当ての詩人を選択すると、その板での作品タイトルが一覧表示される。
 投稿板は容量が大きくなると動作が重くなるので、投稿数が1000作品になるとストップし、新しいものが立てられるシステムだ。レイカはここしばらく投稿していないので、彼女の作品を見つけるには6つ前の板まで遡る必要があった。

 レイカは2ヶ月ほど前までは週1・2度のペースで投稿していた。作品は、たぶん、テクニック的に言えば高いレベルにあるのだろう。
 ルネは、あまり好みでないから、それほど読んでいないのだが、いわゆる現代詩、飯島耕一とか吉増剛造などの影響を受けているのではないかと思われるものが多かった。それから時々はシティー派J-POPのようなものも書いているが、やはり、どこかに現代詩特有の硬質な雰囲気があるのは否めない。

 彼女に寄せられる感想は平均して3〜4くらい。Poem Villageで人気のある詩人は常に20以上のレスがつくから、レイカはあまり多くを獲得している方ではない。

 もっとも、このサイトで現代詩系は、あまり注目を集めない傾向にある。ここで、よく書かれたり人気を集めたりするのは銀色夏生や三代目魚武濱田成夫、金子みすゞなどの雰囲気をもつもの、あるいはヒット曲やロックの歌詞のような作品だ。 もう、ほとんど古典と呼んでいい中原中也や宮沢賢治なら人気が高いが、比較的名前を知られ、作品を読まれている現代詩人といったら、教科書に載っている谷川俊太郎くらいではないだろうか。

 だからネット詩人でも現代詩系の中には、Poem Villageを快く思ってない連中もいるようだった。もっとも、それは、自分が詩の真髄を見せてやろうと意気込んで、推敲を重ねた作品を投稿しても、ふたつみっつの単純な感想しかつかなくて、仲間うちでは高い評価を得ている彼らが、いたくプライドを傷つけられたためかもしれない。


 ぽえ村のリンク集に登録されているレイカのサイトにアクセスする。トップページを開いてからルネは、数ヶ月前、一度このサイトを見ていたことに気がついた。
 その時とはデザインがかなり変わっている。でも、使われている色などは違うのだが、淡いトーンや悪くないセンスのレイアウトなど、以前と共通した雰囲気をもっていた。スタイルシートの扱いに慣れている感じだ。

 サイトの中を周ってみる。作品は、Poem Villageで見かけていたものだった。必ずしも中まで読んでいないのだが、かなりの数はタイトルに見覚えがある。
 レイカの詩は、あまりルネの趣味ではないので、10篇くらい流し読みしてメニューのページに戻った。残りの作品がどんなものかは、だいたい想像がつく。


●女流詩人さんに100の質問

 Q1.お名前(PN)は?
 A1.レイカ

 Q2.どうして、その名前を付けましたか?
 A2.戸籍上の名前にきわめて近いw

 Q3.あなたの詩のジャンルは?
 A3.現代詩。でも、ノンジャンルかも。

 Q4.尊敬する詩人は?
 A4.谷川俊太郎さん、吉増剛造さん、飯島耕一さん、
  それと、父が短歌を作るので、父かな。

 Q5.好きなミュージシャンは?
 A5.日本ではドリカム、Misia、それとユーミンは尊敬してます。

    ・
    ・
    ・

 Q26.最近、ネットでも詩が盛んなようですが、
   それについて、どう思いますか?
 A26.みんな、言葉に対する真摯さに欠けていると思います。
   あまりにもイージーで短絡的な表現に走っています。

 Q27.プロになりたいと思いますか?
 A27.まじめに取り組んで、その道を極めたいと思ったら、
   そう思わないほうが、おかしくありませんか?

    ・
    ・
    ・

 Q83.好きな男性のタイプは?
 A83.私より優れていることです。何らかのかたちで。
   それがなければ失格!!

 Q84.詩のほかに特技はありますか?
 A84.小さい頃からピアノ、バレエ、それと華道。

 Q85.自分を分析すると一言で…
 A85.負けず嫌いかも。

    ・
    ・
    ・


 サイトをひととおり見て周ったので、今度は“レイカ”で検索をかけてみることにした。レイカという名前やHNは、かなりあるようなので、スペースの後に“詩”を入れて絞り込んでみる。

 こうするとネット詩人のレイカに関する情報が、かなりヒットした。上位に来ているのはレイカのサイトか、または数人のメンバーで運営している同人誌サイトの中のページだった。
 次のページにいくと、こんなものがあった。

♪Room Bluebird 掲示板
ここで詩人Bluebirdとお話しましょう...する時は他の人の詩に...レイカの評判が最悪なことは確か...

 どこかの掲示板らしい。そこにレイカのことが書きこまれているようだ。 クリックしてみたが<ページが見つかりません>だった。そこは、もう閉鎖されてしまったらしい。
 検索ページへ戻り、項目のいちばん下にある「キャッシュ」をクリックしてみる。
 キャッシュには、検索サイトのロボットがアクセスした頃の状態で、まだ、そのページが保存されていた。



18 <tr>

 
    ♪Room Bluebird 掲示板♪
   
 ここで詩人Bluebirdとお話しましょう。
 何か一言でも、カキコしていってね。ROMは、イ・ヤ・ヨw
 
 ごちゅうい:根拠のない誹謗中傷、卑猥な内容、など
       皆様を不快にするものは、管理人が削除する場合があります。


 キャッシュに保存されていたのは、昨年9月あたりにに書き込まれた掲示板のページだった。BluebirdというHNはPoem Villageで見かけたことがある。常連らしい名前も記憶にあるものが多かった。

 日常の雑談のような話題が多いのだが、その中で、きわだって返信が多く、長く伸びているスレッドがあった。
 読み進んで行くと、キャッシュページの機能でバックに色がついた“レイカ”の文字があちこちに見られるようになる。


◆ 嫌がらせメール / 雪華        200X年9月14日22時18分

 みんな聞いてよ〜!!
 最近、嫌がらせメールがすごいんだあ。
 誰かの詩を幾つもコピペして送りつけてくる。
 しかも画像添付、それもエロい画像。

 私はNTTに騙されてISDNに入って、まだそのままだから、
 受信が重いのなんの…(泣)

 何で私が、こんな目に会わなきゃならないの?キーーーッ

――――――――――

 ◇ Re: 嫌がらせメール / のろ     200X年9月15日0時22分

  NTTふざけてるよな。
  すぐにADSLが出て来るの、知らないわけないのに
  ISDN勧誘しまくってたもんな。

  それはそうと、
  それ、誰の詩なの?ネットで書いてる人?

――――――――――

 ◇ Re: 嫌がらせメール / エツシ    200X年9月15日0時46分

  そんなの、俺のメル友んとこにも来るらしいよ。
  返信しても戻ってきちゃうし、
  誰から来てるのか、わかんないって。

――――――――――

 ◇ また来てるんだよね / 雪華     200X年9月15日2時26分

  ほんと、頭来ちゃう。
  犯人を突き止めて、Webから追放してやりたいんだけどね。

――――――――――

 ◇ Re: 嫌がらせメール / なっちゃん  200X年9月15日12時39分

  雪華ちゃん、おひさです。
  嫌がらせメールのことなんだけどね。
  こちらのblogでも話題になってるみたい。
  http://www.×××××.jp/members/poetnews

――――――――――

 ◇ Re: 嫌がらせメール / Bluebird   200X年9月15日16時38分

  昨日は飲み会で、友達のとこにお泊りになっちゃった。
  なんか、盛り上がってるのかな?あまりいい話じゃないみたいだけど。

  なっちゃん情報のブログ、かなり詳しく書いてあるね。
  どうやって調べたんだろう?

――――――――――

 ◇ Re: 嫌がらせメール / 雪華     200X年9月15日20時46分

  >なっちゃん

  教えてくれたの見たよ。そういえば、私にも覚えがある。
  ぽえ村で希羅々さんに、よく感想書いてるもの。

  だって、現代詩なんて難しくてワケワカメだもんね。
  希羅々さんのは、自然にいいと思うところ、あるんだよ。
  でも、それにジェラシー感じてる人いるの?
  馬鹿みたい。

――――――――――

 ◇ こんばんは / BB          200X年9月15日22時12分

  みなさん、こちらでは始めまして。
  ぽえ村を覗いたり投稿したりしてるBBです。
  なっちゃんさんから、ここのことを聞きました。

  >Bluebirdさん

  >なっちゃん情報のblog、かなり詳しく書いてあるね。
  >どうやって調べたんだろう?

  レイカさんは以前、ちゃんねる・ぜろのポエム板で
  晒しあげられたこともありますです。

  えーと、それで、レイカさんはですね。
  ぽえ村の規程「投稿する時は他の人の詩に感想を書いてから…」
  をいつも無視してる香具師っす。

  あまりひどいんで、漏れの友達が彼女にメールしたんすが、
  「私は自分の作品を客観的に評価されたい。
  馴れ合いで誉め合ってるようなぽえ村の人たちには向上心がない。
  だから、私は他の人のに感想を書きません」
  というタカビーなレスが返ってきたそうです。

――――――――――

 ◇ Re: 嫌がらせメール / のろ     200X年9月15日23時8分

  ま、ぽえ村ではレイカの評判が最悪なことは確かのようだな。
  でも、あいつ、高瀬川流の家元の娘だったのか。
  本名:高瀬川麗佳…むむむ。

  親父はよくテレビに出てるよな。
  そうすると、あそこの後継者にあたるのか?

――――――――――_

 ◇ あいつ、何様のつもり? / 雪華   200X年9月16日0時32分

  華道の後継者だろうが何だろうが詩とは関係ないよ。
  私は希羅々さんみたいな詩が好きだなあ。
  誰かああいう感じのぽえ村の詩人さんがメジャーになるといいね。
  銀色夏生とかみたいにね。

  でも、私に嫌がらせメール送ってきたのもレイカさんなのかなあ?

――――――――――

 ◇ Re: あいつ、何様のつもり? / BB  200X年9月16日3時8分

  >雪華さん

  送ってるのはレイカさんじゃなくて、darkblueですよ。
  あのブログにも書いてあったでしょう。でも、共犯か?

  darkblueか、懐かしいHNだ(藁
  あの童貞ヒキコモリ野郎はexitさんにボコボコにされたから
  ネット詩には2度と戻れないかと思ってますたが。
  別HNを使ってるようですね。

  でも、こんな犯罪行為やってると、今に捕まりますね。
  まだ未成年だからいいか。

――――――――――

 ◇ Re: 嫌がらせメール / Bluebird   200X年9月16日18時21分

  このスレ、異常に長くなったから、
  もし、続けたいなら、誰か別スレプリーズ。

  私にも激重メール、来てる。ウイルスもいっぱい。
  うわあ…。

――――――――――


 続きのスレッドは見当たらなかった。立てられなかったのか、あるいは削除されたかだろう。
 書き込みの中にあるblogにアクセスしようとしたけれど、「ページが見つかりません」だった。blogのサービス自体がなくなっているようだ。

 webのサービスは、自分独自の視点からコラムや写真をUPするblogをはじめ、日記、掲示板、チャットなど無料で提供されているものが多い。収入は広告費などで得ているわけだが採算が取れているとは限らない。というか、大手以外の零細なベンチャーはたいした利益が上がってはいないのかもしれなかった。

 BBの書き込みに、レイカがちゃんねる・ぜろで晒し上げられたとあったので、ポエム板へ行ってみた。もちろんスレッドも投稿も膨大な量だし、おそらく目当ての部分は過去ログの中だろうから、しらみつぶしに当たるわけにはいかない。

 <ウザい詩人、キモい詩人を語るスレ>というのがあったので、そこに書き込んでみた。


462:匿名詩人さん
 以前、レイカこと高瀬川麗佳が晒されてたと聞いたんですが、
 どこにあるか、ご存知の方、教えてください。



19 <td>

 
 ポエム板はニュース板と違い頻繁に書き込みがされるわけではないから、レイカが晒されている場所についての質問にレスが来るまでには、多少時間がかかるかもしれなかった。

 ルネは議論板へ行ってみることにする。ニュース板ではタツヒコの死体が発見された事件について、もう興味が失われ、書き込みもなくなったのだろう。そのスレッドは消えてしまっていた。でも、誰かが議論板にスレを立てたので、そちらでまったりと話し合われているようだ。
 議論板は内容のない書き込みが比較的少ないので、延々と続くジャンクにうんざりしないで済むし、書き込みの内容が濃いので何かめぼしいものに行き会う可能性だってある。


    ・
    ・
    ・

247:私も匿名さん
 タツヒコ殺害説が優勢になってきましたね(藁

248:私も匿名さん
 >>236
 「DE愛ランド」って何?

249:私も匿名さん
 >>248
 タツヒコはHP小僧の陰で出会い系サイトを運営してた。
 HP小僧の方ではイメージを悪くしないためか、
 そのことを、ほとんど表に出してなかったけどな。
 それが「DE愛ランド」。

250:私も匿名さん
 HP小僧で殺されるほどのことがあったとは思えない。
 出会い系のトラブルか?
 でも、規正法が国会を通過した時点で閉鎖してるから、
 それだと、けっこう長いこと恨みを引きずってるわけだ。

251:銭形
 >>250
 DE愛ランドとほとんど同じノウハウでやってるところがあるよ。
 ヤクザ系みたいだが。まあ、興味があったら調べてみてごらん。

 HP小僧にだって、恨みをもってた奴はいたみたいだよ。
 自分のサイトが審査で落とされた連中は多いわけだからな。
 コメントスタッフで自分のサイトに侵入されて
 ファイルを全部消されたなんてのもあったし。

 HP小僧のシステムがクラックされて発行が止まったこともあったな。
 ま、それについてはタツヒコの自作自演説もあるんだけど(爆)

252:私も匿名さん
 常識では考えられないような事をするビューキのヤシもいるのが
 webの恐ろしいところだよ。
 ほんのちょっとした事で殺されちゃうのだって充分あり得る。

253:私も匿名さん
 >>251
 >HP小僧のシステムがクラックされて発行が止まったこともあったな。

 皆さんの話だと、初心者レベルのシステムだったそうですからね。

 それはそうと、俺は、ふれんどウェブの方が、なんか胡散臭いと思う。
 タツヒコの作ったアクセスパルは乗っ取られちゃったわけだし。

254:Kent
 アクセスパルは赤字経営で負債を抱えてたみたいだぜ。
 タツヒコは助けられたんじゃないか?

255:私も匿名さん
 >>253
 ふれんどウェブって、何やってる会社?

256:私も匿名さん
 >>255
 要するにスパマー。

257:私も匿名さん
 迷惑な宣伝メールを送って儲けてるのか。
 毎日必ずスパムメール何通か来るんだよ、ウザいな。
 あいつら、ネットのダニだ。

258:AKED
 まあ、ふれんどは超悪質なスパマーのように、ぜんぜん知らない相手に
 送りつけるわけじゃない。登録をした会員に、年齢や収入、嗜好などの
 データからそれぞれに応じた賞品情報を送るということになってる。
 また、データは販促の資料として厳重に秘密保持をされながら企業に
 提供される ということは契約条項にあるな。
 実際、どのように使われてるかはわかったものじゃないが(笑)

 それと、ふれんどはwebの広告代理店もやってる。アフィリエイトサービス
 というやつだね。自分のHPにリンクのソースを貼って、そこからアクセスが
 あったり売上があったりすると、リベートが貰えるシステムだ。

 世の中には只で物を貰おうという乞食根性や、楽して金を儲けようという
 虫のいい奴らが多いから、現在、ふれんどの会員数は100万を超えるらしい。

259:私も匿名さん
 漏れも懸賞に応募したくてふれんどウェブの会員登録しようとしますた。
 でも、個人情報をやたらと書かせるんでつよ。
 年齢、住所、職業から学歴、年収、家族構成、持ち家か借家かとか。
 未成年者からは親の情報まで集めてまつ。
 なんかヤヴァそうなので登録やめますた。

    ・
    ・
    ・


 まだ、書き込んでから、あまり時間が経過していなかったが、ルネはポエム板の様子を覗いてみた。質問に対する答はまだなかったが、ルネの書き込みで話題がレイカに移ってきているようだ。

    ・
    ・
    ・

462:匿名詩人さん
 以前、レイカこと高瀬川麗佳が晒されてたと聞いたんですが、
 どこにあるか、ご存知の方、教えてください。

463:中原厨也
 レイカで祭りになったのは去年の夏頃だったな。
 ちゃんねる・ぜろポエム板の夏祭りってとこだ。

464:匿名詩人さん
 レイカの仲間でdarkblueって香具師もいたな。
 ネトゲーヲタでアニメ萌えのくせに、現代詩とか粋がってて(笑)

465:匿名詩人さん
 レイカはdarkblueなんてパシリくらいにしか思ってなかっただろ。
 そもそも、あんなキモい高校中退のヒキコモリを、
 高瀬川流華道家元のお嬢様が、まともに相手にするはずないもんね。


 ルネの好みの曲が多いグランジ系のネットラジオが、今日、更新されているはずだった。それを聴くためにちゃんねる・ぜろを閉じようかと思ったが、その前にもう1度リロードしてみる。
 書き込みがひとつ増えていた。


466:ドドメ色秋生
 >>462
 探して来るから、しばらく待っててちょ。



20 </td>

 
 次の朝、覗いてみたが、ポエム板には、まだルネの求めた情報は書き込まれていなかった。書き込み自体が昨夜のままで止まっている。
 その日は一日、携帯サイトを作る仕事をした。携帯サイトは単純なので、ページ数は多いのだが、テンプレートを作って要領よく仕事をこなし、夕方には一応完了した。

 夜になって、またポエム板を見たが、朝と同じ状態だ。それで、ルネは議論板に移動して、タツヒコ関連のスレッドを開いた。昨日から、その後数人が書き込んでいるが、これといって注目に値するものはない。
 だが、そこにある書き込みを眺めているうち、ルネはふと、あることを思いついた。暇つぶしに、それを実行してみることにする。

 アクセスパルはHP小僧が部数を飛躍的に伸ばし始めた頃に取得したドメイン“hp-kozo.xxx”を継続して使っていたようだ。それで、まずトップページへアクセスを試みた。
 ブラウザの応えは予想通り「ページを表示できません」だった。

 次にドメインから登録者の情報を調べてみることにする。これは検索サービスを行っているサイトのフォームに“xxxxx.com”とか“xxxx.net”…のようなドメイン、あるいは“24.135.102.9”のようなIPを打ち込むと、登録者名や有効期限などの情報を見ることができるのだ。ただし、業者が代理になっている場合は、わからないこともある。

 ルネは検索窓にHP小僧のドメインを入れボタンを押した。

[Domain Name] HP-KOZO.XXX
[登録者名] 水野 達彦
[Registrant] Tatsuhiko Mizuno

[登録年月日] 2000/07/25
[有効期限] 200X/07/25
[状態] Active
[最終更新] 200X/07/25 00:30:00 (JST)

 このほかにContact Information: [公開連絡窓口] として、名前、住所、Email、電話番号がある。

 しかし、ここで特に変わったことは見つからない。
 有効期限は今年の7月になっていた。でも今、確認したように少なくともトップページは削除されている。Takayoの話では、スタッフのログインページもアクセスできないそうだ。

 次に串情報のサイトへ行った。“串”とは“プロクシ=proxy”からきた言葉で、プロクシサーバーを指すネットでの通称だ。プロクシサーバーは、アクセス制御やトラフィックを軽減する役割をもっている。
 しかし、この過程を“串を通す”と呼ぶような連中がプロクシに期待するのは、匿名性という、もうひとつの要素だ。

 ページにアクセスすると、時間、ブラウザ、OSをはじめ、Hostの名前、HostIPなどの環境変数といわれる情報がサーバーのアクセスログに残ってしまうのだが、プロクシサーバーを介してアクセスすると、ログに残るのはプロクシの環境変数になるので、自分の重要な情報を知られずにすむ。

 別に被害を及ぼすわけではないし、もう会社は消滅してタツヒコも死んだのだから訴えられることもないとは思う。でも、これから行うことは不正アクセスにあたるかもしれないので、ルネはプロクシを介して自分の姿を消し、慎重に事を運ぶことにしたのだ。

 信頼できる串情報のあるサイトへ行って、串のアドレスを手に入れる。海外にあるサーバーだ。プロクシサーバーには自分の情報が残るから、アクセスを辿れば、結局はわかってしまう。わかりにくくするために複数の串を通すやり方もあるが、そこまでする必要はないだろう。サーバー管理者は、めったなことでは部外者にログを見せないし、何の実害もない侵入程度で外国まで捜査に行くほど警察も暇ではないはずだ。

 ルネは次に、まず、串を通さずにアクセス解析のページにログインした。プロクシサーバーを通るとパスワードがログに残ってしまい、管理者に読まれる恐れがあるからだ。
 アクセス解析サービスはページにソースを貼るとアクセス推移や生ログの閲覧をすることができるもので、無料のサービスも多い。生ログを見ると上で述べたような様々な環境変数が把握できるので、ビジターがどのページのリンクから来たかも知ることができる。

 ルネは、こう考えた。
 彼がHP小僧に掲載依頼をしたのは去年の3月だが、Takayoは、コメントを付ける作業が7ヶ月遅れだったと言っていた。だから、ルネのサイトをコメントスタッフが見たとすれば10月ということになるだろう。それがアクセス解析のデータに現れていないだろうか。
 掲載依頼時のチェックだけではねられるサイトもあるのだが、それは怪しいビジネスや、あまりにも内容のないサイトだろう。ルネは自分のサイトが、そこまでレベルの低いものではないと思っていた。だから、10月頃の生ログを見ればHP小僧からのアクセスが見つかるかもしれない。それは、たぶん編集システムからのものだろう。
 そして、ちゃんねる・ぜろの書き込みによるとHP小僧のシステムは、ひじょうにレベルの低いものだったらしいから、もしリンク元のアドレスがわかれば、そこからシステムに侵入が可能かもしれない。
 もっとも一般的にはセキュリティー上の配慮がなされ、このような方法はとれないよう、何らかの措置がとられている。
 だからルネは、それほど期待していたわけではない。たぶん駄目だろうが、ちょっとした暇つぶしのつもりだった。

 ルネの使用しているサービスでは、生ログは4ヶ月前のものまでしか保存されていないが、あるとすれば、たぶん10月だろうから、今、調べれば問題なかった。
 10月の生ログを30日から遡って見ていった。19日のページでルネはhp-kozo.xxx”の入ったURLを見つけた。cgiのページのようだから編集システムの中だろう。
 ルネはURLをドラッグしてメモ帳にコピペした。管理ページからログアウトする。

 串の設定はIEの“ツール”からできるが、アドレスを打ち込めば、後は一発でプロクシを通せるソフトがインストールしてあるので、それを使った。

 メモ帳にコピペしてあったURLにアクセスを試みる。

 しかし、ページは表示されない。
 接続中の白い画面の状態が数分続いた。やはり、もうサイトがすべて削除されたのかもしれなかった。だが、ページが見つからないという表示が出ないので、ルネは、それまで待ってみようと思う。

 しばらくして、やっと、ページが表示された。
 上から順にサイト名、URL、管理人のメールアドレス、そして、管理人の書いた紹介文が並び、その下にスタッフがHNとコメントを書きこむフォームがひとつのボックスで、それが1ページに20サイト分並んでいる。

 ルネは上から6個目に、自分のサイト『Renetic』の名前を見つけた。

<詩のようなもの、あるいは、どこにもない洋楽の対訳。オリジナルmidiもあります。>

 紹介文は、コメンターが自分のサイトをどう感じるのかに興味があったので、あまり具体的な表現を避けた覚えがある。


 システムに侵入はできたが、別に何があるというわけでもない。ページの最下部までスクロールして、<NEXT>のボタンを押す。
 動作が重くて、すぐに次のページには移らない。

 『バリハイ』http://www.xxxx.ne.jp/~barihai/
 <バリ島に移住したKeikoと夫が現地での生活を書き記す日記が好評です。二人で厳選したバリのエスニックグッズも販売してます。>

 『ファンファンルーム』http://fanfan.xx.xxxxx.co.jp/top.html
<管理人efoが書いたファンタジー小説を発表しているHPです。ユニコーンの秘宝を探して旅する少年3人の冒険と友情を描いた作品など。ぜひ読んで下さい。>

                ・
                ・
                ・

 いくつかのサイトの紹介文を読んだ時、やっとページが代わる。

 一般的には串を通すと重くなるのだが、それだけでは、こんなにひどくならない。サーバーの状態が悪いのかもしれないが、やはりシステムに問題があるのではとルネは思った。たぶん普通の状態でも相当重いはずだ。

 ルネは表示の重さに閉口しながらも、次のページ次のページと進んでいった。4ページ目の途中からは、もう、各サイトにコメントのついた表示がなくなっている。ここで、HP小僧は活動をすべてストップしたのだろう。

 最後のページへ行きつくには、それから1時間以上を要した。そのページには6サイトの情報しかなかった。

 最後のサイトはタイトルとURLだけで、管理人のメルアドや紹介文の欄は空白になっていた。
 それは、こんなタイトルだった。

 『人間は表現する葦である』



21 </tr>

 
 『人間は表現する葦である』というサイトの部分は、ルネが今まで見てきた編集システムのページの中で、何か違和感のあるものだった。それまでのページでは必ず管理人のメルアドと紹介文の欄は埋められていたのに、ここだけは、その2点が空白になっている。

 HP小僧で紹介される時のコメントはスタッフが書くのだから、管理人の紹介文がなくてもいいとは言えるだろうが、メールアドレスがないのはおかしい。ルネが掲載依頼をした時にも、投稿フォームにメルアドは必須とあったのを記憶している。
 それから、URLも、最後がconfes.htmlとなっていてトップページを表わすindex.htmlやindex.htmではない。投稿規程には、必ずトップページのURLを記入するようにと書かれていたと思う。同一サイト内のいくつものページで掲載依頼してくることを避けるためだろう。
 このサイトの部分に関しては、どうもおかしい点が多いようだが、チェック漏れしているだろうか。

 ルネは、その受付日が12月25日になっていることに気づいた。その前の『りえこママの幸せレシピ』というサイトは10月23日受付になっているから、そこには2ヵ月の間隔がある。その頃にはもうアクセスパルはなくなってしまっているのだから、HP小僧も、もちろん活動してはいないのだ。
 それにタツヒコの死亡時期だって11月ということなのだから、その頃は当然、この世にいない。

 管理ページのパスワードを知っているスタッフが、何かの理由で『人間は表現する葦である』をここに加えたのだろうか?しかし、たぶんもう、ここに入って来る人間はいないだろうし、システムをチェックする必要があったとも思えない。

 このタイトルは、もちろん、フランスの思想家、数学者、物理学者、パスカルの主著『パンセ』の中の「人間は考える葦である」が元ネタだろう。とにかくサイトを見てみようとルネは思った。
 マウスポインターがURL部分に触れて手の形に変わる。ルネはしばらく、それを見つめてからクリックした。

 そのページの表示には、それほど時間がかからなかった。ひじょうにシンプルということもあるが、ダイヤルアップの頃の表示時間程度だ。やはり、あの編集システムのページが重いのは、スクリプトの書き方に問題があるのだろう。

 フリーのHPスペースに作られたサイトなので上下に広告バナーがある。メインの部分は白の背景に黒いテキストで、改行のない、詩のようなものが書かれていた。他には何もない。


tt夢 の圧 力に歌 ふ造花 た ち青い船着場 と蜜の地 図そし て破壊す るまだ 固有 な少 女の嘘 は森に繁 茂するその理 由狼男よ白き 子供らの溶 鉱 炉に 星と偽 詩人が重なり佇 む暁


 あまりにも単純なつくりなので、画面のあちらこちらをドラッグしてみた。文字色を背景と同じにして隠していないかと思ったからだ。もし、そういう仕掛けをしていた場合、これで問題の個所が浮き出すのだが、そういう部分を見かけることはない。

 ソースを見たが、こちらも特に変わったことはなかった。
 単純に<html><head>で始まるソースで上下には広告バナーのスクリプトが挿入されているが、HTMLのバージョン宣言やMETA情報は記述されてなかった。しかし普通の場合には、別にそれがなくても、表示に支障があることは、まずないということだ。
 このページの作者は、おそらく、上のような情報が自動的に挿入されるHP製作ソフトを使ったのではなく、テキストエディターで生のソースを書いたのだろう。簡単なソースだからメモ帳を使ったのかもしれない。

“人間は考える葦である”が<title>と</title>のタグに挟まれている。
 本文は、こちらでは改行して書かれていた。


tt

夢 の圧 力に
歌 ふ造花 た ち
青い船着場 と
蜜の地 図
そし て破壊す る

まだ 固有 な
少 女の嘘 は森に
繁 茂する
その理 由
狼男よ

白き 子供らの
溶 鉱 炉に 星と
偽 詩人が
重なり佇 む暁


 行末に<br>タグを入れないから画面では繋がって表示されてしまう。上では冒頭の“tt”の意味がわからなかったが、タイトルか、あるいは作者のHNなのだろうか。

 </body></html>の前の行にはセンタリングを閉じるタグがあった。上にセンタリングのタグはないから消し忘れたのかもしれないが、まあ、これが残っていても表示に影響することはなく、タグに囲まれていればブラウザでは見えない。
 まだ製作中のページをサーバーにUPしたようにも見えるが、いろいろ考えてもルネには、どういう経緯でそんなことが行われたのか、これといったものを想像することができなかった。

 ルネは、いちおう、そのページを保存しておいた。フリーのスペースでは、一定期間更新されないページは削除されてしまうこところが多い。



22 </table>

 少し喉が渇いたので、ルネはキッチンへ行った。笛付きケトルに少し水を入れ、レンジに点火する。ガラスのティーポットに四面体のティーバッグを入れ、カップやスプーンを用意した。
 ガスの青い炎は無機質で、見た目には熱を感じない。その微かな揺れを見ながら考えた。あと、やっておくべきことは何だろうか。
 ケトルが鳴り始めたので火を止める。

 PCの前に戻ったルネは、アドレスバーのURLから末尾の“confes.html”を消し、エンターキーを押してみる。
 こうするとサイトURLへのアクセスになるので、通常は“index.html”または“index.htm”と名づけられたファイルが開かれるようになっている。けれども、そのページは存在しないようだった。この『人間は表現する葦である』というサイトに置いてあるのは“confes.html”というファイルだけなのかもしれない。

 ルネはブラウザをIEから、ちゃんねる・ぜろ専用に代えた。
 <ウザい詩人、キモい詩人を語るスレ>でレイカの晒されている場所を尋ねたのだったが、それに答が来ていないかチェックしてみる。

 短いレイカへの批判ふたつの後に待っていた書き込みがあった。


469:ドドメ色秋生
 >>462 >>466
 レイカの晒し上げ、ハケーンしますた。
 ttp://chanzero.xxx/archive/culture.cgi/pom0003249185


 本来なら“http://…”の部分なのに最初の“h”を省いている。リンクは普通のテキスト部分よりバイト数を使うため、あまり多いと書き込みが1000に達する前に容量をオーバーしてしまうからだ。もう改善されているかもしれないのだが、古くからの常連の間では書きこむ時、URLから“h”を省くのが慣わしになっている。


471:匿名詩人さん
 >>470
 乙 Thanks.


 とりあえず、ドドメ色秋生にお礼の書き込みをしておいた。“乙”は、このサイトでよく使われる表現で、「お疲れさま」の意味だ。

 彼が教えてくれたURLをクリックしてみる。そのURLは冒頭の“h”を抜いているので、IEで見た場合はただのテキストだが、専用ブラウザだと、それでもリンクが動作するように作られているのだ。

 『困ったネット詩人』というスレッドは去年の5月から数ヶ月の期間、立っていたもので、書き込み数がリミットの1000に達したので終了している。8月に300を少し過ぎたあたりから、レイカについての書き込みが集中して“祭り”と呼ばれるネット掲示板の騒擾現象が起きていた。


312:匿名詩人さん
 レイカってウザいと思わない?

313:匿名詩人さん
 ここでレイカを晒し上げ、ネットから追放しようではないか。

314:匿名詩人さん
 禿同

    ・
    ・
    ・

 “禿同”とは、ちゃんねる・ぜろ特有の言いまわしで「激しく同意」の意味だった。
 
 ルネは冷めかけたミルクティーの残りを一息で飲んだ。めぼしい書きこみが出てくるまで、スクロールしながら流し読みで進めていく。

    ・
    ・
    ・

328:匿名詩人さん
 レイカ、この間、テレビに出てたよ。
 ワイドショーの、有名人のお宅拝見コーナー。
 彼女、生け花のエラい人の娘なんだね。
 意外と可愛かったw

329:匿名詩人さん
 漏れも「ヲタク拝見」見たが、それほどでもないと思ったな。
 メイクがうまいだけじゃないか?

330:ピリカ
 ファンクラブがあるとかいう噂だが、本当にかよ?

331:匿名詩人さん
 >>330
 ジサクジエーンだろ。
 ネット詩人人気投票でもネットカフェをはしごして投票してたらしいぜ。
 自分のPCからだと、重複はカウントされないからな。

332:匿名詩人さん
 同人サイトなんかも作って人を集めてるが、やはり嫌われ者なのかなw
 ぽえ村なんかでもレスが少ないな。
 希羅々さんに人気があるので、かなりライバル意識を燃やしてると思われ。
333:匿名詩人さん
 収録の時は夏休みで帰省してたが、東京の大学に通ってるらしい。

    ・
    ・
    ・

408:匿名詩人さん
 俺は、別にいいとこのお嬢さまだろうが、何だろうが
 本人に才能があるのなら、構わないと思う。

 自作自演にしても、擬似イベントなんてスターの登場には珍しくないぜ。
 あのビートルズでさえ、最初のアメリカ進出の時、サクラを雇ったんだし。
 まあ、チョイル新聞みたいな日本を代表する大手や有名TV局だって(ry


409:匿名詩人さん
 408はレイカのジサクジエーンですか(笑

410:匿名詩人さん
 >>409
 408ですが、言い忘れたけど、
 別に自分はレイカに才能があるとは思っていませんよ。
 多少器用に書いてはいるが、高い評価をするほどの器ではないと思う。
 俺が言ってるのは、あくまでも一般論だ。

    ・
    ・
    ・

462:詩の戦士
 いろいろ誹謗中傷があるようですが、根拠を示してください。
 憶測やでっち上げを書くのはレイカさんへの名誉毀損です。

463:BB
 希羅々さんの作品は稚拙だとか、日記に書いてたことあるよ。
 すぐ消してしまったけどね。彼女にはそういうことが多い

464:詩の戦士
 レイカさんは、現代詩の伝統を守り、発展させていこうとしていて、
 僕達は、そういう彼女の姿勢に賛同し、また、才能に敬意をはらっています。

465:匿名詩人さん
 >>464
 >現代詩の伝統
 
 現代詩って現代のものじゃないのか?
 その伝統って何だろうね(爆

466:匿名詩人さん
 何が「詩の戦士」だよ。え、darkblue(藁
 みんなお見通しだよ。俺は、あっちの方のサイトも見てるんだぜ。
 現代詩とは、アニヲタの荒らし厨房も偉くなったもんだな。
 しかし、天網恢恢疎にして漏らさず、頭隠して尻隠さずだ。

 レイカのご機嫌をとれば童貞とおさらばできるとでも思って工作員やってるのか?
 おまえはネトゲあたりで遊んでるのがお似合いだよ。

467:BB
 darkblueくん。
 嫌がらせのカキコやメールは、やめたほうがいいよ。
 立派な犯罪だ。いまにパクられるよ。

    ・
    ・
    ・

542:匿名詩人さん
 レイカの掲示板にアクセスできましぇん。
 閉鎖したんでしょうか。

543:匿名詩人さん
 みんなで、あんまり荒らすからだよ。
 AAなんか貼りまくってさ(藁

544:BB
 日記も消えてますね。
 サイトの他のコンテンツは見れるようです。

    ・
    ・
    ・
 最後まで一応、見終わった。今日のところはこれまでにしよう。ルネはPCを終了する。
 目がかなり疲労しているし、明日の朝は仕事の打ち合わせで渋谷まで行く予定が入っているから、今日はもう寝ようと思う。




23 <hr>

 
 今日は、サエジマさんには別の予定があるそうで、渋谷駅前には奥さんのユカリさんが来ることになっていた。
 風は弱いが朝の冷え込みは厳しかったので、ハチ公前で待っていたルネに、ユカリさんは「別の場所で待ち合わせればよかったね」と声をかけたが、ルネは別に寒さが気になってはいなかった。
 冷気は街に重く垂れ込めているが、それと同化することをイメージすると、ルネは意識が身体の表層から外界に広がっていくような感覚に満たされる。そして、寒さはただ客観的に、そこに存在するだけのものになり、自分にとって何の苦痛でもなくなる。

 クライアントの雑貨ショップでは、先方との話をほとんどユカリさんが受け持ってくれたので、ルネは、ただ聞いていればよかった。

 もともと難しい話ではなかったので、打ち合わせは1時間弱で終わる。ユカリさんは「食事でもしたいけど、娘が風邪気味だから」と資料を入れてあったA4サイズの紙袋から何かを取り出した。
「貰い物なんだけど…。中のレストランで食事もできるわ」
 そう言って、デパートの商品券が入った封筒をルネに渡す。
 ユカリさんが手を振って東急の駅に消えていくのをルネは見送った。

 晴れた日だったので、昼近くなると寒さは感じない。ルネは少し歩いてみたい気分になった。スクランブル交差点の歩行者用信号が点滅し始めたので、小走りで横断歩道を渡った。

 センター街を歩いて行く。行き交う人間たちの中のかなりの数は、どこか、もの欲しげだった。その時、ルネには人々がもの欲しげで街をさまよったり、立ち止まって人の流れを見ていたりするように見えた。

 僅かなきっかけさえあれば誰かに話しかけたい、話しかけて欲しい。彼らは、その微妙なタイミングを測って身構えているように見える。でも、それがダイレクトに現れることはない。ネガティブな均衡が街を浸しているが、ひとりひとりはチャンスが来たら、堰を切ったように喋り始めるかもしれない。僅かでも隙を見せた人間を見つければ、溜まっていた性衝動から一気に射精する男のように。
 人ごみは鬱屈として濁った電磁波を発している。

 公園通りへ抜けて渋谷区役所の辺りに来ると、人が少なくなって、落ち着いた気分になる。
 さっきまでのことは、自分が妄想的に、そう感じていただけかもしれない、とルネは思った。そして、たいしたものではないのだが、ビジネスがらみの慣れない、どちらかと言えば苦手な場所にいたので、精神の均衡が崩れたのかもしれないと考えたりもした。
 しばらく歩くと明治神宮前駅への入り口があったので階段を降りた。

   ********

 地下鉄の窓の外は、ただ内壁の照明が後方へ規則的に走り過ぎて行くだけだ。でもルネは、それをぼんやりと見ているのが嫌いではない。

 会社の同僚らしいスーツ姿の男たち。幼い姉妹を連れた若い母親。着古したジャンパーの老人。
 駅でドアが開くたび、乗客はひとりで、あるいは連れ立って、それぞれの物語の中で、この車両に乗り込んで来る。その物語は他の乗客とはほとんど交差することがなく、彼らはまた、どこかの駅で降りて行く。

 ルネは、シートが適当に間隔を置いて座れる状態で、しかも端が空いている時でなければ座らない。たいていは、ドアの脇に立っている。

「これからは、俺のことを詩人って呼んでくれよ」
 地下鉄の車内は普通の電車より騒音が大きいが、その声は、それに掻き消されることなくルネの耳に届いた。
「何でおまえが詩人なんだよ。詩なんてどこに書いてんだ」
 ルネとは反対側のドアの前に数人のグループがいた。何だかコンビニの前に座り込んでいる連中と同じような波長を感じる。

「インターネットだよ。俺は、何を隠そうネット詩人」
 自称詩人は、ちょっと胸を反らして応える。セットが乱れている茶髪。小柄で猫背の、ちょっと猿系の顔だ。
「ネット詩人なんてのもあったのかよう」
 ヒップホップふうにジャージを着た、大柄の男が笑って彼の肩を叩く。
 一同は声を上げて笑った。
「ネット作家なら、本が出て売れてる人なんかもいるみたいだけどねえ。田口ランディーとかさ」
 ゴスロリっぽいファッションの髪の長い女の子がシニカルに言う。

「おまえらは知らないだろうけどな。俺はネット詩人としては、ちょっとしたもんなんだぜ」
 彼は喋りながらルネの方をちらちらと見た。でも、ルネは彼に視線を向けていたわけではないし、彼と面識があるわけでもない。

「ちょっと某サイトに投稿するとな、そりゃもう絶賛の嵐」
「ヒロは絶賛の嵐よりは、荒らしだろ?エロい書き込みとか常習の」
 彼を揶揄したオレンジのソバージュは引き攣けを起こしたように腹を抱えている。

 どこに投稿しているのだろう?もしかしてPoem Villageだろうか。そうだとすると、ルネが知っている常連の中の誰かかもしれないが、でも、想像がつかない。

 赤坂で“詩人”と仲間は降りて行き、入れ違いに初老の女が入って来た。イトーヨーカドー辺りで買ったような冴えないハーフコートを着ている。
「この電車は北千住に行きますか?」
 入って来たすぐ脇の、シートの端にいた高校生らしい女の子の二人連れに尋ねた。たしか、入り口の横に北千住行きの表示があるはずだが確認しなかったのだろうか。

 初老の女は二人連れの向こう側の空いていた席に合皮の手提げを抱えて座ると、女の子たちに話しかける。茶髪やピアスを親や先生が咎めないのかというようなつまらない話だ。
 二人連れは、あまり歓迎しない様子だが、自分たちの世代では、もうあたりまえのことだと答える。初老の女は、それに耳を傾ける気はないらしくて、自分が若い頃の話を始める。

  でも、人は聞きたいことだけに耳を貸して
  そうでないのは無視するものだけどね

 こんな内容の英語のフレーズが、ふとルネの頭の中に流れてくる。男性二人のハーモニーとスリーフィンガーのギターに乗って。
 Simon & Gurfunkleの「The Boxer」という曲の中の一節だ。
 海外へ放浪の旅に出たというルネの父が残していったアナログ盤の1枚に入っていたが、プレーヤーが壊れたので、もう長いこと聴いていない。

 そういえば、こんな言葉もあった。

 ―人間はつねに、自分に理解できない事柄はなんでも否定したがるものである。―

 パスカルの『小品集-幾何学的精神について』の中の一節だ。ポール・サイモンは、これを読んでいたのだろうか?

 パスカルといえば有名な『パンセ』の中の<人間は考える葦である>だなと思い、HP小僧の編集システムに侵入して見た『人間は表現する葦である』というページと、そこにあった詩のことがルネの脳裏に甦る。

 ルネは日比谷で降りた。あまり縁のない場所だし、別に目的もないのだが、何となく銀座へ行ってみたくなったのだ。
 乗り換えを待つ間に、もう、今までいた車内での人々や話の記憶からは現実感が失せていた。地下鉄の中で、しばらくの間、うとうとして、白昼夢を見たのかもしれないと思えるほどだ。

 銀座で降りて、階段を上がった先にあったのは、やはり、ただ、よそよそしい世界だった。もちろん、何かを期待していたわけではない。
 ルネは地上に出てから、ヘッドフォンステレオでラジオを聞き始めた。最近リリースのJ-POPが3曲ほど流れた後、ニュースが挟まれる。それまでのパーソナリティーのお気楽な会話調とはうって変わり、アナウンサーが機械的な調子で原稿を読み始める。

<今朝早く、東京都世田谷区内の公園で、女性が倒れているのをジョギングしていた近所の会社員が発見し、通報しました。女性は身体を数カ所、鋭利な刃物で刺されて既に死亡しており、所持品などから東京都世田谷区の女子大生、高瀬川麗佳さんと見られています。また、女性のマンションを訪れた警察官が、室内で血を流して死んでいる男を発見しました。男は神奈川県在住の17歳の少年と見られ、現在確認中です。麗佳さんは京都に本部がある高瀬川流華道宗家、高瀬川雅堂氏の長女で、都内の大学に通っており、マンションに一人暮しでした。麗佳さんは知人に、最近、ストーカーにつきまとわれて困っていると話していたそうです。>














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