『鵲 ─KASASAGI─』あとがき
拙い物語を最後までお読みくださり、本当にありがとうございました。
オースティンの原作という縛りもあり推敲に推敲を重ねた前作『説得』とは違い、勢いで書き始めた作品でしたがちょっとばかり勢いが足りず、描き切れていない部分も多くなってしまったかと思っています。
おとぎ話にしたかったのに、気づけば妙にシリアスとか……。お気づきの点などございましたら、ぜひお聞かせいただければ嬉しいです。
そもそも、この物語を書き始めたきっかけは、七夕を前にふと菅原道真の鵲の歌を思い出したこと、がもちろん一番の理由なのですが、もうひとつの理由はなんということはない、『シンデレラ』の実写版映画を観たから、という……だからこれ、シンデレラ物語、なんです。
王子さまがシンデレラを捜すように、『鵲』が彬子を捜すんです。さすがに魔法使いは出せなかったので『鵲』にはどこでも出入り自由になっていただきました。かなり設定はひっくり返ってますが、瑠璃の碁石=ガラスの靴、と思っていただければ……。実際、こういう育ちで入内に至る姫がいたかと聞かれれば、かなりな夢物語だと思います。
『説得』がリアリティー追求型(平安時代のリアリティーってなんぞや? という疑問は置いておいて)だったので、今回はちょっとあり得ない設定も散りばめてみたくて書いた作品だったのですが、いかんせん、こういうのは苦手なようでイマイチ……。次はおとなしくリアリティー路線? に戻ろう、と決心いたしました。
迷走に迷走を重ねた物語のつくりもしかり。
全5話の予定がずるずると延びただけでなく、最終話は本来、拍手のお礼のつもりで書き始めたものでした。ですが、彬子を中心とした目線での物語の進行では『鵲』の秘めた(時に歯がゆい)行動の理由を説明するには少し無理があり、そのため本編に組み入れることにしたのです。最後だけ一部一人称での文章となっていますが、『鵲』の独白と捉えていただければ、と思います。
そんなこんなで、多くの課題を残す作品となりました。
ところで、鵲という鳥、実際にご覧になられたことはあるでしょうか?
日本では九州で見られるそうですが、元々は大陸の鳥だそうです。
私も以前はその美しい名しか知りませんでした。それが、数年前に初めて韓国に行った時、李朝の王宮である昌徳宮にいる黒い鳥の羽ばたく姿とその鳴き声が気になり、宮殿ガイドの方に尋ね「カッチ、日本語ではかささぎ」と教えていただいて、初めてかの鳥を見ることができました。カラスより一回り小さく、翼を広げれば白と瑠璃色の羽根も美しく、軽やかな雰囲気を纏った鳥でした。あれが鵲か! と一緒に行った友人と感激したのを覚えています。
その翼をかけ橋として一年に一度の逢瀬を手助けする───なんてロマンティックな伝説に彩られた鳥なんでしょう。
道真が詠んだ歌は、都にいる妻に逢うため私にも鵲の橋を貸して欲しい、という意味ですが、その裏には、宮中を天上になぞらえ、その殿舎に上がる階を鵲の橋にも例えたことから、太宰府の地からもう一度中央の政に戻りたい、という深い念が隠されています。その思いを、もう一度内裏へ───帝の許へ、と『鵲の君』耀に託した母君の思いと重ね合わせて、この物語を編み上げました。
今回、参考文献は上げませんでしたが、前作『説得』の最後に書かせていただいた文献は同じように参考にしております。入内のシーンに関しましては、時代は少々下るのですが『増鏡』(講談社学術文庫版)も参考にさせていただきました。
また、私的には非常に重要な音楽的インスピレーションは、ドヴォルザーク作曲『弦楽セレナーデ』作品22より、第2楽章 Tempo di Valse。ワルツです、だってシンデレラですから。彬子と鵲がくるくると踊っております。
次の予定ですが、道が二つに分かれておりまして、どちらに進もうか悩んでいます。
進んだ先にもまた分かれ道があるような……要は書きたいことはいっぱいあるものの、現在のところ時間がまったく追いついていないので、しばらく大人しくなるかもしれません。
最後になりましたが、この『鵲』の物語をお読みくださったすべての皆さまに感謝申し上げます。
また、次の物語でも皆さまとお会いできますことを祈りつつ……。
愛と感謝を込めて
夕月 櫻