!警告!
この小説は18歳以上を対象とします。18歳未満の方は移動してください











「その鳥は籠の中」シリーズ第1話です。
その鳥は籠の中
作:naoki


「…つかまえた」

 その腕に飛び込んだ、その瞬間。 聞こえた低い囁きは、たぶん、いや絶対夢ではなかった。




 中継地点は目の前だ。姫野初ひめのはじめは酸欠の脳でそう呟く。
 山あり谷ありの2区もこれでようやく終わり。駅伝の走者はたすきを伝えるために走っていると初は思う。3区の走者、島津の姿は数メートル先。外したたすきは固く握った手の中だ。

「初!」

 島津が軽く右手を上げた。その手の中にたすきを捻じ込んで、初はかろうじて顔を上げる。一瞬視線がぶつかり合って、島津は初の肩を叩いてから走り出した。

「…はっ……は…」

 足はどうにか止まってくれたけれど、息もままならない。よろよろと数歩、沿道に向かって歩いた初は、眼だけ動かして顧問の姿を探した。他大学の選手が大勢控えている方へと歩くと、背後からタオルを持った係の人が駆け寄ってくるのを感じる。
 ふわりとやわらかいタオルを掛けられ、安堵しきった膝ががくりとなった。その瞬間。

「…つかまえた」

 耳元に息を吹き込まれ、ぞくんと体が震える。

「…は…?」

 吐息のようにそう洩らして、首を捻った途端だった。疲労を訴える体がとうとう力を失って、初は膝からくずおれる。倒れかけた体を支えたのは低く囁いた男の腕で、あろうことか彼は初を軽々と両手で抱き上げたのだ。
 ぎょっと眼を瞠って男を見上げる。見下ろしてきた瞳は楽しげで、笑っているように見えた。そしてまったく見覚えはない。

「なっ、な…なん…っ」
「城北大の2区走者、姫野初。俺は沢木祥吾。お前に惚れた。俺と付き合え」

 そう言って口元に笑みを浮かべる。身長180センチを越える長身で、初などよりよほど体格のいい男なのに、そうするとまるでいたずらっ子のように見えた。
 給水係や選手たちの間を抜けて、祥吾は初を抱いて歩いていく。端的極まりない言葉の意味を捉えかねて、初はぽかんと口を開いたままでいた。

「…な、に、それ…?」
「いい名前だな、ヒメノハジメ。水飲んで一休みしたら、俺と姫初めするか?」
「は…? はぁ!?」

 ようやく脳も口も動き始めたらしい。途端にばたばたと忙しなくなった初に、祥吾はいっそう楽しげににっこり笑った。

「やれる元気が有り余ってるようだから、休憩なしでいくとするか」
「ちょ、はぁ!? ちょっ、ちょ、…何!? 何あんた何なんですか!?」

 楽しげな笑みを浮かべたまま、男は眼を細めて言う。

「言ったろう? 俺はお前に一目惚れした男だよ。走っているお前にな」
「…は、ぁ…?」

 もはや言葉が出てこない。半開きになった口にすばやい動きで口付けて、祥吾は見る間に赤くなる初を見下ろした。ぱくぱく口を動かす初が文句を言う前に、彼はさっさと薄暗がりに駆け込んでいったのだった。









ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0)


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




◆BACK