Part9:夜中の部屋に忍び寄る黒い影
「どうやらそろそろ消灯だな。悪いが先に寝る」
現在時刻午後10時30分。孝は卓巳たちにそう話すと、さっさとベッドに潜り込んだ。
「夜はこれからだ、と言いたいところだが、さすがにアレじゃ疲れてもしょうがないな。ああ、安心してくれ。オレらは先に寝たヤツにイタズラを仕掛けるようなことはしないから。なあ、相沢?」
卓巳が隣のベッドにいる義仁(本名・相沢義仁)に同意を求める。
「ああ、そうだな。普段ならやるだろうが、あんな修羅場の当事者じゃ疲れても仕方ないな。おやすみ、八坂」
義仁も同意し、寝転がって読書を再開した。
「あ、ちょっと2人に相談なんだが……」
孝はいったん起きあがると、卓巳たちに何やら耳打ちした。
「オッケー、任せてくれ。オレたちは深夜0時くらいまでは起きてるだろうから、それまでは引き受けた」
卓巳はニヤリと笑って孝の秘密の提案を引き受けるのだった。
午後10時45分、消灯後の東棟705号室に忍び寄る黒い影。
「んふっ、部屋に忍び込んで孝くんを襲っちゃおっ♪」
黒い影――もとい桜は見回りの教授たちの目をかいくぐり、西棟8階の自分の部屋をこっそり抜け出し、階段で6階に降りると、渡り廊下を通って東棟に入った。7階への階段を上がろうとしたとき、人の気配を感じたのであわてて隠れると、案の定見回りの教授だった。
(意外と監視の目が厳しいわね……)
桜は教授をやり過ごすと、すでに消灯されて非常灯の明かりしかない暗い廊下をゆっくりと歩き出した。
(705号室……ここね)
桜は部屋番号を確認すると、そっとドアを引いた。いざというときのためにカギはかけない決まりになっているので、ドアは簡単に開いた。
(他の2人もすでに寝てるようね。それじゃ、た〜かしく〜ん!)
部屋に入った桜は、卓巳たちも含めてすでに寝ていることを確認すると、‘女版ル○ンダイブ’の要領で下着を残して服を脱ぎ去り、孝の寝ていると思われるベッドにダイブした。
と、そのとき。‘パチッ’という音とともに部屋の明かりがついた。
「残念だったな、橋本さん。そこまでだ」
そう言いながら卓巳と義仁がクローゼットやトイレから出てきた。
「……ほぇ?」
桜が状況を把握するためにあたりを見回すと、桜のダイブしたベッドに孝の姿はなく、その隣に寝ていた。桜がダイブしたところには、孝の荷物がカモフラージュとして布団にくるまっていた。全員が寝ていることを偽装するために、もうひとつのベッドも荷物を布団に押し込んでおいたのだ。
「まったく、八坂の危険察知能力は意外とすごいな。予想通りにやってきて、見事に罠にハマるとはな……ていうか服を着てくれ。目のやりどころに困る」
卓巳はそう言いながら廊下に出て、うまい具合に通りかかった見回りの教授に桜を引き渡した。
「まったく、消灯後の異性の部屋に忍び込むとはな。初犯だから、処分は説教だけだ。さっさと来なさい!」
「は〜い……」
桜はうなだれたまま、見回りの教授に引きずられていった。
「トイレに出たときにこそこそとどこかに行くのが見えたから後をつけてみればこんなことになってるとはね……でも、私たちは行かなくてよかったわ。ねえ明日実ちゃん?」
「そうね。でも私はともかく椿ちゃんは焦る必要はないわよ」
物陰から桜が捕まる様子を眺めていた椿と明日実はそうつぶやくと、見つからないようにこそこそと自分の部屋に戻るのだった。 |