Part8:椿VS桜 ROUND2<食堂編>
ホテルの食堂は3階の渡り廊下の部分に作られている。孝たちが食堂にやってくると、入り口のドアの前に看板がかけられていた。
「ん? “席は自由に選べます”だってさ」
卓巳がいち早く看板に気づいてそれを孝たちに伝える。
「ってことは、大学ごとに固まる必要はないってことか。八坂、お前どうする? 彼女を探し出して一緒に食べるのか?」
義仁が孝にたずねる。
「その辺で適当に座るからいいよ。それに、こっちから出向かなくたって……」
孝がそこまで言いかけた、そのとき。
「あっ、孝くん! 一緒に食べようよ!」
すでにテーブルについていた明日実と椿が孝を見つけて手を振っていた。
「……ほらな。こっちから出向かなくたって向こうから来るんだから」
孝は苦笑しつつ、明日実たちのほうへ向かった。
6人まで座れるテーブルを確保していた明日実たちのおかげで、卓巳や義仁も一緒のテーブルにつくことができた。
このホテルの食堂はバイキング形式になっていたので、各自が食べたいものを取りに行き、さて食べようかというとき、
「うわーん、出遅れたぁ〜! あっ、孝くん、一緒に食べよっ!」
桜が食堂に飛び込んできた。
「残念ね、桜さん。孝くんは私たちと一緒に食べるの。今回はあなたの入るスキはないわよ」
和やかな雰囲気も一転、椿の冷たい一言が飛ぶ。
「うぅ〜、空席ひとつあるじゃない!」
桜の必死の反論に対し、
「ふふん、空席はあるわよ? でも孝くんの隣は私。あなたは孝くんの真向かいにでもどうぞ」
椿は鼻で笑って孝の向かい側の空席を指した。
「遠藤くん、席を代わってくれる気はないかしら?」
桜は孝の左隣にいる卓巳(本名・遠藤卓巳)に頼んでみた。
「悪いがこれ以上修羅場を見たくないので断る。八坂とその彼女の間には誰も入り込めないよ。いい加減諦めた方がいいんじゃないのか?」
卓巳は即答で断ると、様子を伺いつつ、食事を再開した。
「始まりは一目惚れだったけど、あたしのこの恋心はもう誰にも止められないわ! 彼女がいたって奪っちゃえばいいんだから!」
桜はそう叫ぶと、孝の向かいにあったイスをひっつかみ、卓巳をどかして無理やり孝の左隣に割り込んだ。
「そこまでするか……」
桜の暴挙に驚きつつも、このままでは食べづらいので卓巳と義仁はひとつずつ席をずれることにした。
「まあ、橋本さんがどこで食べようとオレたちには関係ないよな、椿」
孝はそう言って桜に背を向けた。
「そうね。私たちはカップル流の食事を楽しみましょ」
椿は孝に同意すると、おかずをつまみ、孝の口に持っていった。いわゆる「あーん」である。
「あのさ、お二人さん? みんなが見てる前でそういうこと、よくできるね? 恥ずかしくないのか?」
孝と椿が発するカップル特有の甘い空気に周りがため息をつく中、卓巳が冷静に突っ込んだ。
「はっ! すまん、久しぶりの再会に場所を忘れてついやっちまった」
孝は頭をかきながら謝った。と、左隣で微妙な動きをしている桜を見つけ、
「橋本さん? 先に言っておくけどキミからじゃ‘あーん’はやらないよ? アレは恋人同士だからこそできるものだからね」
孝の先制パンチに桜はビクッとして、
「……バレた?」
と一言だけつぶやいた。
「ああ、丸見えだった。密かにおかずをつまんでタイミングを伺ってたけど、無駄だったね」
孝は完全に桜を突き放し、自らの食事を再開した。椿もこれ以上‘あーん’をやろうとはせず、時々会話しながら食事の時間は過ぎていった。
「それじゃまたな、椿、明日実」
「うん、またね、孝くん」
食事を終え、食堂を出たところで椿たちと別れ、孝たちは部屋に戻った。そして……
「あたしはこの程度じゃ諦めないわよー!」
1人取り残された桜の叫び声が食堂に響きわたるのだった。 |