Part6:椿VS桜 ROUND1<宣戦布告>
このツインタワーホテルは10階建てで、1階のエントランスと3階と6階が渡り廊下でつながってるほかは独立した2つの建物で造られてる。
「なるほど、男女を分けるには最適な建物ってことだな」
孝は男子側の部屋が割り振られた右側の建物に向かう途中、このホテルの見取り図を見て、そうつぶやいた。
「おーい、八坂〜、早く部屋に荷物置かないと集合時間迫ってるぞ〜」
卓巳がエレベーターに乗り込んだ状態で孝を呼んだ。
「わかった、今行く」
孝は1泊2日の荷物を抱えてエレベーターに乗り込んだ。
孝たち都台大学は西棟(女子)と東棟(男子)ともに7階より上を割り振られ、もうひとつの光稜大学は3〜6階を割り振られていたらしく、エレベーターに相乗りしていた人が6階までにいなくなり、エレベーターは孝たちだけになった。
「よし、ここだな。オレたちは705号室だ」
孝、卓巳、義仁で一つの部屋が割り振られ、3人は7階で降りると705号室に入っていった。
「荷物を置いたら、すぐに6階の渡り廊下の真ん中にある集会場に集合だってよ」
義仁が孝と卓巳を促し、3人で6階に向かった。
集会場では、引率の教授が注意事項をあれこれ述べ、それが済むと、スーツ姿の上級生がアドバイザーとして出てきて大学の楽しさ等を存分に語っていた。さらにサークルの勧誘や、みんなでゲームをして盛り上がり、2時間ほどで集会を終えた。
「それじゃ、解散します。夕食は3階に食堂があるので、そこに夕方6時半集合です」
上級生のアドバイザーがそう話した瞬間、さっさと立ち上がって部屋に戻るもの、あるいはその場で話し込むものなどそれぞれの行動をとり始めた。そして、桜は……
「やーさーかーくーん!」
卓巳たちと一緒に集会場を出て部屋に戻ろうとした孝に桜が猛然とダッシュし、タックルしてきた。
「うわっ! いきなり何するんだ、橋本さん!」
孝はタックルの勢いで少しよろめいたものの、倒れることはなく後ろにへばりついている桜をにらんだ。
「だってぇ……部屋が別々で寂しいんだもん……」
桜はまたしても上目遣いで孝を見つめる。
「はあ……部屋が別々なのは当たり前っ! 男女で分けないと何かあったら大変だろうが」
孝がため息をつきながら桜を引き剥がそうとする。
「えぇ〜? あたしは別に構わないのに〜」
桜も離れたくないと踏ん張る。
「オレや大学側が構うんだ!」
そう言いながら孝は桜を引き剥がし、集会場を出る。と、
「孝くん……」
孝の耳に聞きなれた声が聞こえてきた。聞こえたほうを見ると、
「椿……明日実……」
孝の目に数週間ぶりに会う恋人と幼なじみの姿が飛び込んできた。2人を含む光稜大の学生のうち、6階の部屋を割り振られたと思われる学生たちがエレベーターや階段で上がって来ていて、椿たちは階段で上がってきたところで孝を見つけたらしい。
「八坂くん、待ってよー」
後に続いて桜も集会場から出てきた。
「あーもうしつこいな、せっかくの再会を邪魔するな」
孝は桜を突き放すと、椿たちのもとに歩み寄った。
「久しぶりだな、椿、明日実。まさかこんなところで会えるとは思ってなかったぜ」
孝が笑って椿たちに挨拶する。
「ホント、久しぶりだねっ、孝くん。すごい偶然だよね。ねえ椿ちゃん……椿ちゃん?」
明日実がそう答え、椿に同意を求めようとしたが、返事がないので、顔をのぞきこんでみると、椿は泣いていた。
「おっ、おい、椿!? どうしたんだよ?」
突然泣き出した椿に孝も明日実も驚き、あわててたずねる。
「ううん、なんでもないの……なんか久しぶりに会えたらうれしくって……」
椿はしばらくしたら泣きやみ、再会を喜んだ。と、そこに……
「やーさーかーくーん!」
相手してもらえないことにイラついたのか、桜が再び勢いをつけて孝にタックルしてきた。
「いいかげんにしろっ! 邪魔をするなって言ったはずだ!」
孝は再び桜を突き放し、椿たちのほうに向き直った。
「孝くん、その人は?」
明日実が桜のほうを指差し、孝にたずねる。すると、
「あたしは橋本 桜。八坂くんのクラスメートで恋人候補だ!」
桜が起き上がって話に乱入し、とんでもない発言をさらっと言ってのけた。
「孝くん……浮気?」
椿が泣きそうな顔でそう孝にたずねる。
「そんなわけないだろ? 橋本さんが勝手にそう言ってるだけだ。オレの彼女は椿、お前だけだ」
孝は椿を落ち着かせるため、穏やかにそう話した。それを援護するように、
「お互いに苗字で呼び合ってて、よくも恋人候補なんて言えたもんね。下の名前で呼び合えるようになってから出直したほうがいいわよ」
明日実が勝ち誇ったように桜に告げる。
「そっちの椿って人はやさ……いや、孝くんから写真を見せてもらったけど、あんたはいったい孝くんのなんなのよ!?」
桜も負けじと反撃する。
「私は孝くんの幼なじみで、高校時代に孝くんをめぐって椿ちゃんと争ったの。椿ちゃんに負けはしたけど、孝くんが選んだんだから文句はないわ。それからは親友関係ってやつよ」
明日実はそんな桜を軽くあしらうように質問に答える。と、
「あっ、いたいた。桐生さん、古川さん、点呼にもいないから探しに来たんだよー」
どうやら椿たちの知り合いらしき女の子が声をかけた。
「あっ、ゴメン。今行くね。それじゃ、孝くん、またメールするね。それと、そこの……桜さんと言いましたか。孝くんは私の彼氏です。渡しませんからね!」
椿は探しに来た子に謝ると、桜に宣戦布告をして西棟のほうに向けて歩いていき、孝も「またな」と言って東棟のほうに歩いていった。
「むっきー! あんな女には負けないわよーー!」
あとには桜の叫び声だけが空しく6階の集会場前の渡り廊下に響くのだった。 |