Part3:孝とクラスメートたち
入学式の翌日、新入生はまだまだ忙しい。いろいろとガイダンスなどが続くため、ほぼ毎日来なくてはならないのだ。
「ふあ〜あ……眠いな……」
孝はハデにあくびをしながらアパートを出ようとしたところで、
「八坂くん、おはようっ」
後ろから声をかけられたので振り返ると、入学式の後のクラスごとのガイダンスで近くに座っていた女の子がいた。
「ああ、おはよう。えーと、橋本さん……であってたっけ? まだ顔と名前が一致しないんだけど……」
孝がそのときの自己紹介を思い出してそう返すと、
「そうだよ。あたしは橋本 桜。アパートの隣同士だから、これからよろしくねっ。一緒に行きましょうよ」
桜はそう言って、孝の隣に並んで歩き出した。
「ああ、よろしく、橋本さん」
孝はまだ眠いのでちょっと無愛想気味に返して歩いていった。
「ねえ、八坂くんってどこ出身なの?」
ガイダンスが終わったところで、桜を含む女子数人が別の男子と話している孝のところにやってきてそうたずねた。
「ん? ああ、長野だよ」
孝は話が途切れたのを見計らって質問に答えた。
「おっ、もう女の子と仲良くなってたんか? 八坂ってモテるな〜」
孝が話していた男子の1人、卓巳がそう話した。
「モテると言えば、彼女はいるのか?」
もう1人の男子、義仁が孝にたずねた瞬間、桜たちの目つきが変わった。まるでその質問を待っていたかのように。
「ああ、いるよ。地元の大学に行ってるから遠距離恋愛だけどな」
孝はこともなげにそう答えると、
「いるの!? 写真見たいなー」
桜が一番リアクションが大きく、写真を見せてと迫ってきた。
「別にいいけど……なんでそんなに鼻息荒いの?」
孝が携帯を取り出しつつ、冷静に桜にツッコミを入れた。
「だって、八坂くんってクールでかっこいいから、彼女がいるならどんなかわいい女の子なのかなって結構気になってさー。でもそんなに鼻息荒くしたつもりはないよー」
桜は少し拗ねたように孝を睨んだ。
「まあいいけどさ。はい、これがオレの彼女の椿だよ」
孝が椿の写真を見せると、桜たちは黙り込んでしまった。
(うーん、結構かわいいけど、遠距離っていうハンデを負った状態ならあたしにも勝ち目があるかも……)
桜は黙って椿の写真を眺めつつ、心の中でそう考えていた。
「もういいかな? さーて、ガイダンスは終わったし、そろそろ帰るかなっと」
孝は携帯をしまうと、「またな」と卓巳たちに告げて立ち上がった。
「あっ、八坂くん、どうせ隣同士だし、一緒に帰ろうよっ」
桜も他の女子たちと別れて孝と並んで歩き出した。
「ねえ、八坂くんは彼女と遠距離恋愛になって寂しくないの?」
帰り道、桜が突然孝にそうたずねた。
「寂しいも何も遠距離恋愛になった原因はオレ自身にあるからな。オレにそんなことを言う権利なんかないよ」
孝はわずかに笑顔を見せてそう答えた。
「やっぱ八坂くんってかっこいい! 遠距離の彼女なんて別れてあたしと付き合って!」
桜はそう言うといきなり孝に抱きついた。
「ちょっと待った。かっこいいって言ってくれるのはうれしいけどオレにはまだ彼女がいる。ただでさえ一緒の大学に行くっていう約束を果たせなくて椿を裏切ってるんだ。これ以上椿を裏切れないよ」
孝は冷静に桜を引き離し、そう告げたところで、アパートの前に着いた。
「それじゃ、またな」
孝はそう言ってさっさと階段を上がって部屋に入っていった。
「むぅ〜……あたしはこのくらいじゃ諦めないよ。遠距離の彼女なんか忘れさせてあたしの彼氏にするんだからっ」
桜は悔しそうにそうつぶやくと、孝の部屋の隣にある自分の部屋に入っていくのだった。 |