Part18:椿を救え その2
15分ほどして、桜と薫が病院に到着した。
「八坂くんの彼女が刺されて重傷って聞いたけど、大丈夫なの?」
薫は孝を見つけると真っ先にそうたずねた。
「キズはふさがってるけど、輸血しないと危険な状態だ。だが輸血しようにも椿はAB型の特殊タイプで、家族でも合致せず、他人ならなおさら合致する確率は低いが最後の希望で2人を呼んだんだ。協力……してくれるか?」
孝が薫たちに状況を話し、頼み込むと、
「もちろんいいよ。アタシたちは事情を多少聞いた上で来てるんだから」
薫は頷き、桜とともに血液検査に向かった。
しばらくして、検査の結果が出た。
「これは、奇跡か……?」
検査の結果を伝えられた椿の父親はそうつぶやいた。
桜は合致しなかったが、薫が天文学的な確率の壁を乗り越え、奇跡的に完全に一致したのだった。
「上野さん、椿と何の関係もない君に頼むのは筋違いかもしれないが、それを承知で言う。椿を助けてくれ」
孝が薫にそう言って頭を下げた。
「ちょっと、頭なんて下げないでよ。確かにアタシと椿さんは直接のつながりはないけれど、クラスメートである八坂くんの彼女、って言うつながりがあるじゃん。それに、現状で輸血できるのはアタシのだけなんでしょ? そんな状況で見捨てるほどアタシは冷たくないよ」
薫は孝の頭を上げさせ、そう話した。
「上野さん……それじゃあ……」
孝の表情が明るくなり、そう言うと、
「アタシの血液で人を救えるならいくらでも使っていいよ。急ぐんでしょ? ちゃちゃっと済ませちゃってくださいな」
薫はそう話すと、医者とともに小部屋に入っていった。
「ありがとう……ありがとう……」
薫を見送る孝の横では、椿の父親が涙を流しながらそう言っていた。
無事に輸血も済み、椿の生命の危機は去った。
それから数時間後、椿が目を覚ました。
「よかった、無事だったんだ、孝くん……」
椿は目を覚ましてすぐに孝を心配することを口にしたので、
「バカ、なんでそんな大ケガしてまでオレを心配してるんだよ……少しは自分の心配もしろよ……」
孝は思わず椿の頭を軽く小突いていた。
「だ、だってぇ……あのときとっさに三年前のことがフラッシュバックしたんだもん……もうあの時みたいな思いをしたくないって思ったら体が動いてたの……」
椿はあのときのことをそう弁解した。
「やっぱり、三年前のことが……」
明日実がそうつぶやく。
「ええ、そうよ。でも、刺されて結構血が出たのは覚えてるんだけど、その後どうなったの?」
椿がそうたずねる。
「キズは大したことはなかったが、出血が確かにひどくてな。輸血がなかったら命に関わっているところだった。同じAB型でもオレや親父さんではタイプがあわなくてな、輸血をしてくれたのは、そこにいる上野さんだ」
孝が説明し、最後に薫を指す。
「初めまして、アタシは八坂くんのクラスメートの上野薫だ。親睦旅行のときは親友の桜が迷惑をかけたみたいだね」
薫はベッドのそばに来ると、そう挨拶した。
「桜さんとは現在進行形で争ってますが、負ける理由がありませんし、薫さんが気にする必要はないですよ。それより、ほとんど見ず知らずの私を助けてくれてありがとうございました」
椿は薫にそう礼を言った。
「いやいや、助かってよかった。それじゃ、アタシらはこの辺で帰るね。桜ー、そろそろ行くよー」
薫は桜を呼び、病室を出ようとした。しかし桜が出てこようとしない。
「えー、もう行くの? 今のうちに孝くんを落とそうかと思ってるのに……」
桜はそう渋っていた。
「ちょっと、桜さん? そういうのはライバルである私がいないところで言うものじゃないのかしら?」
椿が笑顔をひきつらせながら桜に問いかける。
「たとえ本人がいたって動けなければ意味ないもーん」
桜は椿に見せつけるように孝に抱きついた。
「はい、そこまで。アンタはまだ諦めてなかったのね。ホントいい加減にしなさいよ」
薫が桜に得意技(?)のチョップを食らわせ、そのまま引きずっていく。
「薫ちゃん……ひどいよぉ〜」
気絶はしなかったものの、力が入らない桜は引きずられながらそう抗議の声をあげる。
「アンタを止めるのに他にどんな方法があるってのよ」
薫はまともに取り合わずに桜を引きずっていった。
数日後、ゴールデンウイークは終わっていたが、椿は無事に退院し、明日実とともに長野へ帰っていったのだった。
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