Part17:椿を救え
救急車で病院に運ばれた椿は、医者の処置を受けていた。
「くそ、なんで椿が……」
孝は処置室の前の長イスに腰掛けながら拳でイスを殴る。その目には涙が浮かんでいた。
と、そこに処置室から医者が出てきた。
「桐生椿さんと一緒にいた友達の方ですね?」
思わずイスから立ち上がった孝と明日実に医者が話しかけた。
「そうです。椿は大丈夫なんですか!?」
孝は医者につかみかかる勢いでたずねた。
「キズ自体はそれほど深くないので今の処置でふさぎました。ですが、出血が多く、輸血が必要なのですが、AB型の血液型の方はいますか?」
医者は孝たちを見てそう問いかけた。
「ああ、一応オレがAB型です。使えるならオレの血液を使ってください!」
孝は医者にそう話した。
「ちょっと待ってください。患者の血液型はAB型の中でも特殊なものでしてね、家族でも合致する確率は1%以下、ましてや他人ならそれこそ天文学的な確率になってしまうので、輸血ができるかどうかは検査を受けてからになりますが、構いませんね?」
医者は一度孝を制すると、そう付け加えた。
「ああ、もちろんだ。すぐにでも検査してくれ。椿を少しでも早く救ってやりたい」
孝はそう言うと、医者とともに血液検査に向かった。
30分ほどして、待っていた孝のところに医者がやってきた。
「オレの血液は使えるんですか?」
孝が真っ先にそうたずねると、
「残念ですが、合致しませんでした。このまま血液が足りない状態が続けば患者の生命は保証できません。いま血液バンクや他の病院に問い合わせていますが……」
医者はゆっくりと首を振り、消え入りそうな声でつぶやいた。
と、そこに事件の際に警察から連絡が行っていたのか、椿の家族が駆けつけた。
「孝君! キミがいながらなんで……」
椿の父親が泣きながら孝を責める。
「すみません……まさか椿がオレをかばうなんて……」
孝は悔しそうにそうつぶやく。
「私や椿ちゃんは三年前に孝くんを目の前で事故に遭わせちゃってるから、とっさに‘もう孝くんを失いたくない’って思ったんじゃないかな? 私が椿ちゃんの立場でも同じことをしたでしょうし」
明日実は椿が孝をかばった理由をそう推測した。
「オレは血液型が同じだけど、椿を救ってやれない。希望はもう家族のみなさんしかないんです」
孝は父親たちにそう話して血液検査を受けてくれるように頼む。
「もとよりそのつもりだよ。家族の中でもAB型は父親である私一人しかいないが、最後の希望となれると信じたい」
父親はそう言うと、血液検査に向かった。
「わずかな可能性に賭けて他の知り合いも当たってみるか」
孝はいったん病院を出て、東京での知り合いに片っ端から連絡を取り始めた。と言っても卓巳、義仁、桜くらいしか番号を知っているのはいないが……
結論として、3人の中にAB型は桜だけだった。だが、桜との会話の中で、どうやら薫もAB型らしいことがわかった。孝が桜を通じて頼んでみると、薫は快諾してくれ、渋谷の病院まで2人で来てくれることになった。
「父親である私でも血液のタイプは一致しなかったか……もう血液バンクとかに頼るしかないのだろうか?」
孝が携帯を切って病院内に戻ると、どうやら検査の結果が出て、しかもダメだったのか、父親が落ち込んでいた。
「いま、オレの知る限りの最後の希望になるかもしれない人を呼びました。ここから遠くないらしいので15分ほどで来るそうです。もしこれでダメならあとは血液バンクに頼るしかないです」
孝は父親にそう声をかけた。
「あとは時間との闘いか……」
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