Part11:桜の意外な一面?
講義が始まって数日が過ぎた。1年生は何かと必修系の講義が多いので、クラスごとに固まるケースも多い。
「なんでいちいちオレの隣に座るんだよ? 他の女の子みたいに女子同士で固まりゃいいんじゃないのか?」
クラスごとの講義で毎回のように孝の隣に陣取る桜に対し、孝も最初のうちは偶然で片づけていたが、数日間に渡って続いたので、ついに気になってたずねた。
「だって、孝くんが好きなんだもの。好きな人のそばにいたい気持ちはわかってくれるよね?」
桜は孝を見つめてそう話した。
「わからなくはないが、その気持ちは報われることはない。キミのほうこそそれを理解して誰か別の男を探すべきだ」
孝は桜を冷たく突き放す。
「ほら、八坂くんもそう言ってることだし、いい加減諦めなよ。桜は十分美人な部類に入るんだから、何も八坂くんにこだわらなくたっていい男はたくさんいると思うわよ」
横から話に入ってきたのは、薫だった。
「オレもそう思うぜ。何もオレみたいなパッとしない男を選ばなくたってこの大学内だけでもいい男は結構いると思うぞ」
孝も薫の意見を肯定した。
「そう簡単に諦められないよ。孝くんって背も高いし、カッコいいよ。彼女いたって遠距離恋愛じゃ破局することも多いらしいし、まだあたしにもチャンスはあると思ってる。あたし、諦めないわ」
桜はグッと握りこぶしをつくってそう宣言する。
「いや、そんな決意表明されてもなぁ……」
困惑する孝をよそに、ひとり気合いの入る桜だった。
講義を終えた孝が帰宅すると、先に帰っていたのか、桜が自分の部屋のドアの前に立っていたが、どこか顔が青い。
「橋本さん、どうかしたか? 顔が青いぞ?」
孝が話しかけると、
「あっ、孝くん……家のカギを落としたみたいで入れないの……」
桜は今にも泣き出しそうな声で孝にそう言った。
「こないだオレの部屋のカギを開けたように開けられないのか?」
孝がそうたずねると、
「道具は部屋の中にあるから今はできないわ……」
桜は落ち込んでいるために小さな声で答えた。
「うーん、とりあえずカギ屋を呼ばないといけないな。電話して、来るまでの間はうちにいればいい」
孝は桜にそう話し、カギ屋に電話させた。
「もう今日の受付は終わってるから来るのは明日の午前中になるって……」
桜がそう伝えると、
「仕方ないな。今夜はうちに泊まるといい。だけど、変なことするなよ」
孝は桜に念を押して、部屋に上げた。
「タダで泊めてもらうのも悪いから、夕食はあたしが作るよ」
桜は手際よく冷蔵庫から材料を出して料理を作っていく。しばらくして出来上がったのは、家庭料理の定番、肉じゃがだった。
「……どうかな?」
桜が不安そうに孝にたずねる。
「うん、美味いよ。予想していたよりもはるかに、ね」
孝はそう言って桜に笑いかける。
「そんな顔されたらますます好きになっちゃうじゃない……」
桜は孝に抱きつこうとしたが、
「それとこれとは話が別だ」
孝は素早く立ち上がり、うまく避けた。
「ちぇー、そう簡単には行かないかー」
桜は少し不満そうだが、
「まあ、昼間の繰り返しになるけど、料理ができる女の子ならオレ以外にたくさんもらい手はあるだろうな」
孝は桜をそうなだめた。
「先に風呂入ってきなよ。いま沸かすから」
孝はそう言って風呂のほうに行こうとしたが、
「着替えがないから今日は入れないよ〜。明日は休みだから別に入らなくてもいいけど……」
桜はそう言って断った。
「そうだったな。じゃあもう布団敷くよ」
孝は風呂をやめて押し入れから布団を出すと、
「布団は一つしかないから、橋本さんが使ってくれ。オレはソファーで寝るから。おやすみ、ゆっくり休んでくれ」
孝は桜にそう言うと、ソファーでタオルケットをかぶり、さっさと眠りについた。
(これじゃ、襲えないじゃない……)
桜は密かにそうつぶやくと、布団に潜り込んだ。
翌朝、カギ屋が来てカギを交換し、桜は無事に部屋に戻ることができたのだった。
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