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総長としての意気


 全く総長代理として何もしてないと少しホッとしていたことが悪かったのか、校内が殺伐としていた。


「なーんか、空気悪いぜぇー?」


「確かにな、なんかひと悶着でもありそうだ」


「わあ、アスが賛同してくれたぁ」


 八朔の言葉は明日奈も気になっていた。異常なほどに空気が張りつめていた。

それは生徒会全員は勿論のこと、学校の鈍感ではない限り気付くほどだ。


「あれじゃねぇの?」


「あれ?」


「三年の前リーダー。ずっと静かだったのが気になってたけどな」


「リーダーって、何だ」


「おいおい、忘れすぎだろ。昔に、生徒会を作る前のことだ」


「明星高校は、生徒会が出来る前は本当に手の付けられないほどの荒れた場所だった。窓ガラスが割れてるのは当たり前、ケンカも当たり前だったのは知ってるね」


「ああ」


 宇城の言葉を続けたのは神内だった。忘れっぽいということを知ってるため、説明することに違和感を持たなかった。


 明星高校がどれほど酷いのかは聞いていた。それも生徒会がなかったら酷い有り様のままだったという。

学校を治めるということで学校側の教師はみんな味方になってくれた。融通も効かせてくれて、授業に出なくても大丈夫だという。


「今の三年の陽が」


「よう……が?」


「今は大人しいが、昔は学校を支配してた人物なんだよ」


「おまえは、違うのか?」


「俺は長くはやってねぇよ。リーダーにはなってたが、次のリーダーが陽だ」


 前にリーダーが宇城だという細かい部分を奇跡的に覚えていて、本人に聞いてみたら、やっていた期間が短いという。




「昔は二分してたんだよ。宇城一派と陽一派ってね。それぞれの部下が、一番は自分のところだと、出会い頭にやり合ってて」


「……頭おかしいだろ」


「ああ、当時はな。ってか、俺は別にリーダーになりたいつもりはねぇし、あいつらが勝手に行動してただけだしな」


「それを言ったら、陽が報われない」


「報われる必要、あるか?」


「アス、ひっどい〜♪」


 神内と宇城は昔を思い出すように話すが、その光景をみていない明日奈からしたら、どうでも良いという一言だけだ。

八朔はそんな明日奈に笑い歌いながら呟く。


「そんな奴、忘れられて当然だな」


(迷惑しか掛けないような最低なの、記憶に入れておくだけでもムカつく)

 明日奈は嫌な昔を思い出していた。そのことを考えると無性に腹立たしく、同情の余地すらない。


「屈辱を溜めまくっていたんだろうね。で、今になってキレた」


「……ほんとに、良い迷惑だ」


「そうだね。それは俺も同じだよ。生徒会をしてるからこそ思うな」


「でも、なんでこんなことするんだろうなぁ!」


「ちび助、分かるだろ。三年、もう卒業の時だ」


「ちび助って言うな!」


 相変わらずケンカをする宇城と、明日奈の言葉に同意をする神内。冷静に書類を片付けている唯はみんなを見ることはなかった。


「三年だから何なんだよ」


「アスが出てきたから、二人の統治による闘争は消えたんだ」


「あたしも、噂でしか聞いてなかったから、詳しく聞きたいわ」


「……唯」


 明日奈はてっきり明日也から話を聞いてるんだとばかり思っていたため唯の言葉は驚いていた。


「もちろん、二人はアスに挑んだ。けど、負けた」


「負けてねぇっての!」


「勝ってないんだから負けたじゃんー、アホ宇城!」


「んだと、てめぇ! やるか!?」


 自分の兄の無敗記録はどのくらいなんだと考えたが、全く分からないことに気付き、無意味だということも知った。

もう重力なしで動けるんじゃないかと、人間離れした考えまで浮かぶ。単なる化物だ。


「卒業前に片付けたいってわけか。ダサすぎだろ、もう大学生だぞ。しかも、あと何年もしないうちに成人でさ……、ガキかよ」


「まあ、大人になるから片を付けたいんじゃないかな」


「マジかよ」


「この騒ぎは、その人と取り巻きってことかしら」


「たぶん、そうだよ。陽がリーダーだった時の取り巻きが丁度いたわけだからね。面倒だけど」


「神内は、どう思う?」


「……微妙なところだけど、それは間違いないかも」


 気になるところは山積みで、だけど拒絶するだけの答えはなくて、明日也がとんでもないトラブルメーカーだということだけは理解した。


 どう抗おうと間違いなく明日奈が巻き込まれることは決定済みなんだから。




「微妙ってなんだぁ?」


「目立った行動をしない……ってことか?」


「アス、正解」


 リズミカルな言い方の神内。妙に楽しんでるようにしか見えない。

この人は焦ったりなんてことはしない。話を聞いた八朔はムカムカとして、貧乏揺すりをしている。


「なにもしないってさ、水面下はわかんねぇじゃん」


「……」


「黙んないでよ、アス!」


「生徒会は暴力禁止だろ。どうしようもねぇだろ」


「そうだけどさ」


 規則を作り出した生徒会がそれを守らないと、示しがつかない。そのため、暴力行為は許されない。

ツボはグレーゾーンらしいけど、黒よりでどうしようもない。


「今どのくらい、太陽側なんだ」


「……太陽?」


「大半だよ。元々、陽に非協力的だが、アスを潰したい人も加わってるから」


「太陽って、そいつのことかよぉー。アスってば名前覚えないよね、一向に。ってさっき、唯のことは呼んだよね!? ずるーい!」


「二文字だからな」


「え、あたし覚えられたのそれが理由なの!?」


 まさかの覚え方に唯は泣きそうになっていた。そう何日も一緒ではないが、やはり覚えてほしいと必死だったからこそ切ない。


「あ、じゃあ僕を朔って呼んでよ。二文字だよ? あ、アホ宇城も二文字だ」


「そんなことより、もしそいつらが掛かってきたら、この学校はどうなる? 昔みたいに戻るか?」


「そんなこと、じゃない!!」


「昔のようになるだろうね、間違いなく。ただ、簡単に手を出すようなことは不可能だ。生徒会には宇城がいるし、アスを支援してる生徒もいる。それに何より、隣のリーダーである志波もいる。手を出したらただでは済まない」


「神内まで無視!?」


「俺はおまえの傘下に入ったわけじゃねぇよ!」


「アホ宇城にも!?」


「あの変態のキョーヤってやつ、暴れさせるか」


「キョーヤ? まさか、京也か!? おい、いつの間にそいつと、つるんでいるんだよ!?」


「少し前にな。ストーカーみたいなことされてて、全然学校に来なかったみたいだったが、今では来てるみたいだな」


 あまりにもド変態過ぎて明日奈が名前を覚えてしまった。本人は一刻も早く忘れたいが、彼は道具としてなら凄く役に立つということを思い出した。


「そうだ。そのキョーヤと仲が良いアピールしとけば、手は出しにくいよな」


「なんか、悪どい気がするぞぉー」


「騒ぎにならなければ、それで良いんだよ。無駄な争いはしたくない。太陽ってやつは、絶対に俺には勝てないし」


 というより明日也には勝てないと思っての発言だが、端から見ればナルシスト的な話しぶりで痛々しかった。




「たのもー!! 柊 明日也はいるか!?」


「いない」


「いるだろうが!」


「だから、いないって言ってるだろ。アホか?」


「……確かに、いないのよね」


「なに言ってるのー、唯」


 唯は急な訪問者に対する返しに、少し笑った。

柊 明日也は現在入院中でこの生徒会室どころか学校にすらいない。


「じゃあ、てめぇは誰だって言うんだ!」


「……誰だっけ?」


「とうとう自分のことを忘れてしまった!? ねえ、どっか頭の当たりどころ悪かったのかな!?」


「落ち着け八朔」


「だから、こいつダレ?」


「……えーっと、ダレでしょう? お名前を元気にどうぞっ」


「分かった。俺の名前は……って自己紹介しに来たんじゃねぇ!」


「ハイテンション過ぎて引く。気持ち悪くて吐きそう」


 唯がファーストフードのドライブスルーのアナウンスのように話したせいか律儀に反応しそうになったことを男は頭を横に振って否定をした。


「リーダーがてめぇに会いたいと言ったんだ。黙って着いてこい」


「俺は会いたくない。男とデートする約束はしてないからな」


「誰がてめぇなんかと、デートするか!」


(というか、この人は誰なんだ。リーダーかと思ったら違うみたいだし)

 漫才のようなスピードに、面白みが一切ない会話なのに何故か笑いが生まれた。何人かが笑いを浮かべ、何人かが笑いを耐えてる。さあ、算数の時間です。


「ってか、これから昼寝の時間なんだけど」


「永遠、に変わるぞ、その昼寝」


「知らないのかよ、昼寝した方が成績良くなるんだぞ。中途半端な眠りは悪化させる」


「んなこと知るか!」


「おまえさ、寝てないからイライラすんだよ。昼寝したら?」


「てめぇでイライラしてんだよ」


「あ、もしかしてカルシウム足りない? 魚も食った方が良いぞ。ニボシとかウマイぞ」


「ああもうっ話を聞け!」


「何だっけ、魚の目って頭が良くなるんだよな。頭使わないと何だかバカになっていかないか? 勉強してた時の方が頭が良かったんだよ。閃くし、物忘れも少ないし」


「……」


 もはや無言になるしか彼には道がなかった。頭が働かないというのは実体験で勉強していた中学生よりも、勉強をしなくなった高校生とでは言葉の単語が思い出せなくなる。逆引きでようやく単語が出てくるほどだ。


 あまりにも頭を使わなすぎて、脳みそにクモの巣がかかったような錯覚になる。度忘れというのは、本当に寂しいものだ。簡単な単語が出なくなると、すぐに調べて答えを探そうとしてしまう。




「取り巻きって単語が出てこなかったが、唯のおかげでスッキリした。思い出せなくてイライラしてたから」


「役に立って良かったわ」


「俺は良くねぇ! 黙って着いてこいよ!」


「だから、眠いんだって。あ、なあコーヒー買ってきて」


「パシりかよ!」


 男は涙を浮かべているが、明日奈もまたアクビにより涙を浮かべているからどっこいどっこいだ。


「ふぁ、頭が働かない。寝ようかな」


「寝るな!」


「でも、深夜で眠気が来てる時が一番閃くんだよな。こう研ぎ澄まされていてな」


「知るか!」


「昼は集中出来ないんだよ。音楽を聞きたくなるんだけど、さらに集中が不可能でさ」


「あの、聞いてます?」


「眠気覚ましのツボあるけど、度を超すと無理だからやっぱり寝た方がさっぱりだよ」


「そうなんだ。あたしもお昼寝好きだから、もう寝たいかも」


「じゃあ、お昼寝タイムを作ろうー!」


「それ良いね。俺もゆっくり休みたい」


「聞けよ、おまえら!」


 完全なるシカトに泣きそうになる男。眠いだの、眠くないだのと勝手なことばかり並べるため、真剣に伝言係または伝達係なのに何にも役に立ちそうにない。

あまりにも無視をしてくるため、男は腕を目に当てて泣いてしまった。


 眠りの態勢に入っている生徒会たちは、男の言葉なんて耳には入らない。それがあまりに切なすぎて部屋の隅っこで体育座りをしながら床に指で円を描いている。


「ジメジメでキノコ生えそう」


 唯の言葉がトドメをさし、八朔はトリュフか松茸を生やせと我が侭を言う。


「ブタにでもなって探したら? あたしの役に立つなら本望じゃないの」


 本当のトドメは今までずっと黙っていた生徒会に参入してきた新人、男好き(イケメン又は金持ちに限る)の美樹だった。


 誰一人、同情をしてあげるほどの優しい人間が存在しないのだ、生徒会というのは。


「寝てんじゃねぇ! 無理矢理に拉致られたくなかったら来いって言ってんだよ」


「まだ、いたんだ」


 あまりにしつこい男に、八朔が呆れ返ったために近くにあった分厚い辞書をぶん投げた。

ガツッと頭に当たり、そのまま地面に倒れた。


「これが、キョーヤならすぐに立ち上がるんだろう」


「あの人は化物だからレベル違うんじゃねぇー? それより、僕殺人犯人!?」


「どっかに埋めりゃ良いだろ。幸い誰もコイツが入ってきたの見てねぇし」


「うそっ、あたしたち共犯? なんかワクワクしちゃうわ」


「まだ息の根があるよ。ちゃんとトドメを刺さないと」


「何なら記憶改竄して、美樹の奴隷にするとか」


 上から、明日奈、八朔、宇城、唯、神内、美樹と容赦ない言葉に、若干意識のある男は気が遠くなりながら嘆いていた。ここに来なければ良かった。


「まあ、話は置いといてリーダーはどこだ?」


「アス、行くつもり!?」


「ちょっと、ダメでしょ。危険だろー?」


 途端の路線変更により会計二人組が動揺をする。男に近寄り襟を掴み上に引っ張るが、それは男からしたら首を絞められた状態になる。


「ぐぐぐっ」


「アス! 本当に死んじゃうわ」


「あ」


 手放した瞬間、重力の通りに床と接吻するハメになった。ガツンと痛そうな音で、踏んだり蹴ったりとなる彼の運勢はまさに最下位だろう。


「り、リーダーは中庭……に」


「分かった」


「行くつもり? 完全なワナだって分かってるだろう?」


「それでも、行くしかない。神様」


「そんな大げさな名前じゃない。覚える気ないだろ」


「そうだな」


 互いに笑い合う。まるで手探りの中の心の読み合い。口角は小さく上がるのみで、二人は何を考えてるのか分からず、ポケットに手を突っ込んでいた。




「一緒に行っても?」


「何でまた」


「ケンカは嫌いだけど、アスが怪我するほうが、ずっと嫌だからね」


「なんだ、それ」


 呆れたような声だったが、一つも否定も肯定もせずに生徒会室を一緒に出ていった。

なぜ神内が着いてきたのか分からないが、心強いことこの上ない。


「神様、なんか隠してるだろ」


「なにも? 総長に隠し事なんかしてないよ。それよりも、その呼び方は止めてほしいな。くすぐったい」


「じゃあ、ジンで」


「それで良いよ」


「……上手く反らしたな」


「いやいや、反らすも何も。隠してることや隠したいことなんて本当にないんだよ。買いかぶり過ぎじゃないか」


「顔が怪しいんだよ」


「元からこうだよ、失礼だね」


 言葉の掛け合いを続けながらも中庭に向かうことにした。真横を歩く神内を見上げると、自分よりも幾分か背が高い割りに童顔。あまりに見ていたら、気付いてこちらを見て目が合った。


「ん?」


「モデルになれそうなくらいカッコイイよな。背だって、たけーし」


「そうか? 顔でなら、アスはアイドル顔だな」


「そうだな、確かに」


「ナルシスト」


 危ない場所に向かうというのに、二人は穏やかに笑い合っていた。からかうような素振りでも、それを真に受け取らずスルーしている。


 そして、ようやく中庭に着くと学校の何割かの生徒が集まっていた。黒尽くしにより、そこだけ色のない世界だった。


「やっと来たか。オセーんだよ」


「はぁ、俺に何の用だよ」


「な、何で他を連れてきたんだよ! フツーはタイマンだろうが!」


 長く待っていたが、明日奈の隣に神内がいたことに逃げ腰になっていた。ヤル気のない明日奈は分かりやすくため息をする。


「だから、俺に何の用だよ。二度も言わせんな」


「ぶ、ぶちギレ寸前かよ。あのだなぁ、テメーには言いたいことが山積みなんだよっ」


 何か嫌なことでも思い出したのか、態度の悪い明日奈にビクビクとさせる男。単に昼寝をしたかったというだけで態度が悪い訳ではない。


「……まあ、良い。神内、ヤレっ!」


 変な話し方をする男は神内を見ながら叫ぶ。明日奈は意味が分かっていないが、ただ真横に立っている彼を横目で見る。




「ふぅ、どういう意味だと思う?」


「まんま、だろ」


「せーかい」


「捕まえる気?」


 神内は明日奈の腕と肩を掴んで微笑んだ。未だに冷静な明日奈に神内は内心楽しかった。彼が、彼のような男が明日奈、いや明日也に従う理由はそこにあった。


 一緒にいると飽きないから。楽しくて、もっとぐじゃぐじゃにして楽しくなりたいから。


「さあ、どうしようか」


「そのまま捕まえてろ。ボコボコにしてやる」


「ふぅん、そうでしか勝てないんだ。ださっ」


「んだと、テメー!」


「図星だろうが。結局、相手が手出しできない状態にしないと勝てないんだろ」


「勝てばイイんだよ! それまでの行程なんてカンケーねぇ」


「……どんな気分だよ。自分が慕う相手が、こんなセコい真似しか出来ないってさ」


 周りがざわつき始める。結果しか興味ないというのは他の奴らでも同感だったが、セコいという単語に動揺の色を見せた。


「殴って気が済むなら、殴れよ」


「!」


「その瞬間、おまえはゲス野郎に降格だがな」


「……くっ」


 明日奈の言葉に、明日奈以外の男たちが驚いたが、その次の瞬間、明日奈の真っ直ぐな透き通るような目で、その低い声で、その単語で、その場にいたリーダーを除いた面々が見惚れていた。


「どうする?」


「……」


「どうする、ジン」


「どうするも何も、この状況は楽しくて仕方がないな」


 最初は目の前のリーダーに、次は神内を見ながらの質問。緊張も怯えもない明日奈が面白くて仕方がない。

信頼しているのか、それとも単に鈍感だったのか。


「第一、逃げようと思えば逃げられるの分かってるよね。力入れてないしさ」


「まあな。捕まえる気ないの分かる」


「でも、一度は本気で君が負ける姿を見てみたいとは思うよ」


 それは間違いなく周りも同じく思っていたことだろう。明日奈、いや明日也がひれ伏すところを見たいと……。そのことに関してなら明日奈も見てみたいと思う。


「それは無理だと思うよ。負けることが何よりも嫌うし」


「他人事だね」


「他人事だからさ」


 自分のことじゃないからこそ、そう思える。ただ他人ではなく兄妹のことなんだと全く分かっていないほど頭が弱い。




「で? いつまで掴んでるんだ」


「んー、まだかな」


「もう、イイ」


「あ?」


「周りの評価だろーが、情けねぇだろーが、どうでもイイ! 俺が勝ちさえすりゃイイ!!」


(うわぁ、頭がおかしいよこの人)

 金色の短髪の男、陽はコメカミの血管を浮かせてキレていた。度を越した彼は明日奈の服を掴み、殴ろうと手を上げていた。


「ふふ」


「なに笑ってる。イカれたか?」


(あーぁ、もし私がボロボロになったら誰がキレるんだろう)

 自分がボコボコになった姿を想像すると笑えてきた。簡単に負けたと分かると間違いなく宇城は怒る。明日也も是非もなく、京也も怒りそうで、志波は乗り込んでくるだろう。


 陽が手を上げた瞬間、神内が膝を蹴りカックンと崩れた。子どもの頃にイタズラで良くやるような膝カックンだった。

前のめりに倒れた陽にぶつからないように、明日奈を後ろに下げた。


「な、何しやがる神内! テメー裏切る気か!?」


「裏切るも何も、協力するなんて一言も話してないけどな」


「何だと!?」


「なんか、スムーズな手練れだな。鮮やかな勝ち方だ」


「それは光栄だ」


 隙のない行動に誉めていた。神内は明日奈から手を離すと自分の胸元に手を当てて軽く頭を下げた。紳士なその行為は似合いすぎていて、そこだけ別の世界だった。


「……俺の明日奈に手を上げたのは、どこのどいつだぁ!?」


「うわ、キョーヤ」


 扉の枠に手を当てながら、何度も肩で呼吸をしながら京也は現れた。明日奈も明日也も聞き間違えられる言葉で誰も違和感を持たなかった。


「相変わらず声が大きい」


「おまえか!」


「きっ、京也!?」


 チンケな学校内だけしかイビれない不良よりも、もっと範囲が広いとこを支配している京也の方が名前が知れ渡っている。そしてどれだけの危険人物かも、だ。


 京也はドタドタと近付いてくると、地面に倒れて情けなく尻餅を付いてる陽の服を掴む。京也が持ち上げるせいで、背が低めな陽は味が地面から離れてバタバタを動かす。



「俺の姫に手を出すんじゃねぇ!」


「姫って言うなし。つーか、手は出されてないから殴んなよ」


「あ? けど、大丈夫なのか!」


「大丈夫だから、手は出すなよ。それでこそ、別の問題が出てくるし」


「……そうか、怪我がないなら問題はないが。けどな! 怪我をしてからじゃ遅いんだぞ!」


「分かってる。そんなことないように、するつもりだしね」


 京也はきちんと女だと分かっている上、明日也の妹という大事に思っている相手だからこそ怪我をすることを避ける。


「ありがとう、キョーヤ」


 京也にだけ聞こえるようにこっこそりと話せば、陽を下ろして彼は顔を真っ赤にさせて頭を掻いていた。


「太陽くん、もう俺に手を出すのは止めた方が良い。死にたくなければ、ね?」


「イーヤ! ゼッテー、勝ってやる! 何をしてでもな」


「それで構わない。だから俺も負けるつもりはない」


 諦めが悪い陽に明日奈は止める気はなくなり、もう掛かってこい状態として考えた。そう話せば陽はニヤリッと笑い、容赦しないという風にドヤ顔をする。

明日奈のライバルが望まずして誕生してしまった。

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