8、風
「ごめん、クレア。結局力を使う事になるんだったら、すぐに使って逃げれば良かったのに…」
そう少女に向かって少年は言うと、カイ達に向き直る。
「止める事は無理だって分かった?道を空けて」
誰も動こうとしないのを見て少年は肩をすくめると、少女を促がしてカイ達の間をすり抜けて歩いていく。
少年の言葉に少女も我に返ったようにして、少年の後に付いて歩きだす。
「ま…待て!!」
そのまま立ち去ろうとする二人を止めようと、カイは、少女に向かって腕を伸ばした。
ここで止めれなければ、この街は終わりだ、そう思った。
何があってもここで止めなければ…全てを失う。
少年が振り返ってカイを見た。
敵わない事ぐらい分かっていた。
殺されるかもしれないとも思った。
だが、何もせずに二人をこのまま行かせる事などカイにはできなかった。
「カイ!!」
エーミルは慌ててカイを引き止めようと、足を踏み出す。
熔けた短剣がエーミルの脳裏にちらついた。
鉄があのようになってしまうのならば、生身の人間などひとたまりもないだろう。
「無理だって言ったのに」
少年はそうつぶやきカイを見る。
次の瞬間、カイは風が吹き付けるのを感じた。
何が起きたのか分からなかった。
何かに叩き付けられるような衝撃が走り、気が付くと背中には、石造りの家の壁があった。
すぐ近くにいたはずの少女が、離れた所に立っている。
皆驚いた顔でカイを見、駆け寄ってくる。
「俺は平気だ!それより、司様を止めてくれ!」
半分喘ぐ様な声を上げたカイの言葉に、皆一様に顔を見合わせる。
カイは声を上げるまで気づかなかった、鈍い体の痛みに気づき顔をしかめる。
その様子を一瞥し、少年と少女は闇の中へ吸い込まれるように消えていった。
二人が歩いて行った方向を見つめていたエーミルだったが、軽く息を吐くとカイに向き直った。
「…大丈夫か?」
そう言いながら、手を差し延べる。
その手を握りカイは立ち上がる。
「大丈夫だ」
「…仕方ないだろ。あの二人を止める事なんか、普通の人間には不可能なんだ…」
カイの表情を見て、エーミルはそう言った。
「とにかく…使い手に連絡しろ」
エーミルのその言葉に慌てたように一人が暗闇の中へと走って行った。
「お前達二人は、司様がこの辺りに現れた事を捜索隊に伝えて、この辺りに人を集めてこい」
エーミルは次々と、冷静に的確な指示を与える。
残りの二人が走って行くのを確認すると、エーミルはカイに改めて向き直った。
「大分強くぶつかったみたいだけど…本当に大丈夫か?」
もう一度確認をとるエーミルにカイは頷いてみせた。
まだ、突風の吹きつけた時の感覚と、体が宙に浮き壁に叩きつけられた感覚が残っている。
しかし、あの勢いで飛ばされたにしては、衝撃も痛みも少なかった。
「よし、じゃあ俺達はこの辺りの捜索だ。まあ、見つけた所でどうしようもないが、時間稼ぎぐらいにはなるだろ…」
エーミルはそう言いながら、二人が消えた方へと足を向ける。
普段はただのお調子者のようなエーミルだが、実際は頭も切れ、緊急時には一変して頼れる奴になる。
それを知る者は少ないが、カイは昔からエーミルと行動を共にする事が多かったため、友人のそんな一面も良く知っていた。
「…使い手が来たら、連れ戻せるかな…」
心許なげにカイがそうつぶやく。
「さぁな…」
エーミルは、心ここに在らずといった様子で返事を返す。
「…どうかしたのか?」
その様子を不思議に思い、カイは声をかける。 |