7、静かなる炎
少女の言葉に足を止め、男はどうしたものか、といった表情で周りを見る。
それにエーミルが無言で頷き、少女の言う通りにしろ、との意を伝える。
「何故そのような事を言われるのです?」
エーミルはゆっくりとそう言った。
少女は黙ってエーミルを見たが、口を開く様子はなかった。
「何でそんな事、答えなきゃいけない」
何も言葉を発さない少女の変わりに隣に寄り添うように立つ少年がそう答えた。
その言葉に、エーミルの隣にいた男の一人が、少年をにらみつけながら口を開いた。
「お前は関係ない…それとも、お前が良からぬ事を司様に吹き込んだのか?」
「俺が?ハッ…馬鹿じゃねーの?自業自得だろ」
少年は、そう言って男の言葉を鼻で笑う。
さらに少年に言い返そうとした男を、エーミルは目で黙らせる。
「どうすれば、戻ってくださるのですか?」
エーミルは冷静に、説得を続けようと言葉を続けた。
だが、少女は何も答えずにエーミルをにらみつける様に見るばかりである。
「…では、この街の住民を…見殺しにするお積もりですか?」
何も答えようとしない少女に痺れを切らし、エーミルは再び口を開いたが、今度ばかりはかすかに声が震えていた。
その言葉に、カイも他の三人もはっとしてエーミルを見た。
一番聞きたかったが、一番恐ろしい質問だった。
「そんな事、知らない」
少女は搾り出すように、そう呟いた。
何かに頭をおもいっきり殴られたような衝撃が走り、次の瞬間には全身の感覚が麻痺したような感覚に襲われた。
身じろぎする者もない静寂の中、半拍おいて怒りが込み上げてくる。
今まで、あれ程冷静に説得をしようと努めていたのも忘れて、気がつけばカイは大声で怒鳴っていた。
「ふざけるな!人の命を何だと思ってる!?この街には友が…家族がいるんだ!この街の外に居場所なんかない、ここが故郷なんだ!全てがここにあるんだ!それを…」
「だから何?」
怒りに任せて吐き出されるカイの言葉を、静かだが強い言葉で少女はさえぎる。
あまりの事に、一瞬反応できずに呆然とするカイの代わりに、エーミルが後を引き継いだ。
「分からないのか?あなたの、たった一人の勝手な行動のせいでどれだけの人が命を失うか…何が起こるのか」
「そんな事、わかってる」
あくまでも切って捨てるような、冷たい物言いだった。
「それが分かっているなら何故そんな事が言える。みんな死ぬんだぞ」
「…何人かは生き残るんじゃない?…あなた達が毛嫌いする流れ者になって」
かすかに、冷笑ともとれるような表情を浮かべながら、少女はその言葉を言う。
「こいつっ…!!」
相手が少女だと言う事も、司に選ばれたと言う事も忘れ殴りかかろうとしたカイだったが、何とか踏みとどまり堅く握り締めていた拳を開いた。
「何で…何で、人を人とも思わないような…こんな奴が…」
少女から目を背けカイはそうはき捨てる。
「…こっちだって、こんな最低な街を護るくらいなら死んだ方がまし」
その言葉に、後から合流した男のうちの一人が腰にさしていた短剣を抜いた。
「止めろ」
男の行動に気付き、カイは制止をかける。
「でも…何で…」
「セレサの守護使いの司が、この方だからだ」
「でも、こんな奴…いっそ殺してしまった方が街の為じゃないのか?こいつが、死ねば新しい司がきっと選ばれる…そうすれば、誰も死の恐怖に怯える事も大切な者を失う事もない…」
そう言いながら、男はゆっくりと少女に近づいていく。
男の顔は青白く、追い詰められた者特有の表情を浮かべ、妙にギラギラと光る目は、死への恐怖を映し出していた。
エーミルが男を止めようと駆け寄ったが、“それ”の方が早かった。
あまりに一瞬で、そして突然“それ”は起こり終わっていた。
その場に居た誰もが、ただ一人を除いては、“それ”を理解できずに、男の短剣をただただ凝視する。
「これ以上何かするなら容赦しないよ?」
状況を理解できずに立ち尽くす男に向かって、少年はそう言った。
「…何を…した…」
男はそうつぶやき少年を見る。
男が見たのは、明るい光が走った事だけだった。
いつの間にか、手に持っていた短剣の刀身は熔け、使い物にならなくなっていた。
あまりに一瞬すぎて、何が起きたのかすら分からなかった。
それはカイやエーミルだけでなく、少女もまた同じようで、驚いたような表情を浮かべて少年と男が持つ短剣を見比べている。 |