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月夜霊
作:小夜



74、束の間の休息


 思わず絶句したアレンに、涼しい笑顔を向けて、タチアナは溜息をついた。
「とにかく、たまには、顔を見せに帰ってきなさいね。ジャン、これから宜しくお願いね。やるからには、しっかり、一人前にしてやってちょうだい」
「はい、それは勿論」
 ジャンもまた、それに笑顔で返す。
「お兄ちゃんって、本当に勝手よ」
 急に今まで黙っていたエレナが、大きな声を上げた。
「いっつもそう。一番上なのに、自分の好きなことやって、みんなそれを仕方ない、って目で見るの。何でそうなの?私だって、やりたい事もあるし、夢だってあるわ。それなのに、お兄ちゃんは、いっつもやらなきゃいけない事を見ないで、他の事を追いかけてばっかり。お陰で私は、いっつもお兄ちゃんがやらなかった事をしなきゃいけなくなる」
 一息にまくし立てて、エレナはそこで一度黙った。
「エレナ…」
 何か言いかけたアレンを遮って、エレナは再び口を開いた。
「だから、良い?ちゃんと時々は帰ってきて、私に珍しいお土産持ってきなさいよ。そうじゃなきゃ許さないんだから」
 憮然とした表情で言うエレナの頭を、黙ってアレンはニ、三度叩いた。
「ああ、絶対買ってくるよ」
 それに、ようやくエレナは表情を緩ませ、くるりと後ろを向く。
「あーあ。私だって、外の世界も見てみたいし、物を作るのにも興味がある。それに、もっともっとやってみたい事はあるんだけどなぁ。でもね、私商いも好きよ。だから、本当は、家を継ぐのも、ちっとも嫌じゃない。みんな優しいし、良い人達だもの。でも、時々私みたいに周りに縛られないで、自由に生きてるお兄ちゃんが羨ましくなる」
 言って、エレナは両親に視線を向けた。
「だいたい、親が甘い顔ばっかりするからこんなのに育っちゃうのよ」
 エレナの言い様に、タチアナとウィリアムは顔を見合わせると、弾かれたように笑い出した。
 不機嫌な顔のままそれを見るエレナと両親に挟まれて、アレンは困ったように曖昧に笑うと頭をかいて、助けを求めるようにジャンを見る。
 それに穏やかな笑みを向けてから、ジャンは黙って後ろに立っているクレアと視線を合わせた。


 一週間程、レルリナのアレン宅に滞在する事になり、その間に、ジャン達三人は、長旅に必要な物を取り揃えた。
 クレアとジャンにとっては、今まで体験した事もないような、贅沢な生活だった。
 アレンは外に出る度に、人に声をかけられ、家の中では中でも、それなりに頼りにされているらしく、様々な仕事を半ば押し付けられるようにして頼まれている。
 周りが忙しく働く中、特にする事もないクレアとジャンは、のんびりとした時間を送っていた。
 街の中では、守護使いの司に気付かれる可能性がないわけではないので、力の練習も出来ず、クレアはやや不満そうだったが、これから、長く続く旅を思うと、レルリナでのゆったりとした暮らしは、夢のような一時であった。














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