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月夜霊
作:小夜



73、親と子


 静かだった。
 ただ静寂ばかりが、その場を支配し、その原因であるアレンは、少しばかり気まずそうに佇んでいた。
 ウィリアムが、行商の旅の間にアレンが決めた、今後の事について話してから、誰も言葉を発しない。
「全く…お兄ちゃんって、いつまでたっても子供よね」
 呆れた、と言うよりも今にも怒り出しそうな表情でようやくエレナはそう言った。
「だいたい、お父さんもお父さんよ。何で、黙って説得されちゃうの?」
 勝ち気そうな瞳で、エレナは父と兄を見比べた。
「…信じ、られない」
 少しの沈黙の後に、発せられた声は、打って変わって静かで、どうかすると、そのまま泣き出してしまうのではないか、と言うほど細い声であった。
「エレナ」
 困ったように名を呼ぶアレンを睨みつけてから、エレナは、そっぽを向く。
「アレン、あなたが、この家を継ぐ事はないかもしれない、と私はずっと思って来たわ」
 そっぽを向いたエレナを抱き締めるようにして、タチアナは、ゆっくりと話し出した。
「でもね、これは、それでも私達の予想を超えているのよ。それに、話しを詳しく聞けば聞くほど、使い手は、街で安住するには、程遠いみたいじゃない。少なくとも、この家を継がないまでも、穏やかに、あなたの好きな道で街の中で生きて行く事を望んでいたのに…」
 タチアナは、まっすぐとアレンを見て言うと、寂しげな表情を浮かべた。
「あなたも、どうして許したりしたの」
 ウィリアムに向けられた言葉に非難の調子を聞き、困ったようにアレンはウィリアムを見る。
「…でも、アレン。あなたが本当に使い手になると言う事を理解していて、そして全てを捨ててでも使い手として生きていくというのなら、私は止めないわ」
 だって、あなたの人生だものね、と言ってタチアナは、笑った。
 今にも壊れてしまいそうな、儚げな笑顔だったが、それでもアレンに向けて笑った。
「たった一度の人生だ。私も、昔店を立ち上げようとした時には、親に反対された」
 ウィリアムは、アレンを見て、静かにそう言った。
「それでも、自分のやりたい事だ、と、後悔はしないと、商いを始めた」
「それが、こんなに大きな店になっちゃったのよね」
 タチアナも言って、柔らかく微笑んだ。
「だから、そこまで言うのなら、私は止めないよ、アレン。それがお前の道だと、お前自身が確信しているのなら、きっとそうなんだろう。失敗するにしろ、成功するにしろ、自分の気持ちを裏切った、後悔する生き方だけはしてはいけない」
「親も親なら、子も子なのよね。結局は似た者親子なのね。…そう言う私だって、両方の親の反対を聞きもせずに、ウィリアムと一緒になったのだし」
「…ま、許してもらえたようで良かったよ」
 話しがまとまってきたのを見て、言ったアレンの言葉に、タチアナは笑った。
「あら、私達が許さなくても、あなたはジャンを言いくるめて、どうにかして使い手になるつもりだったんじゃなくて?」












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