66、神器
「クレア!」
意識を失ったクレアに驚いて、アレンは声を大きくする。
それを、静止して、ジャンはゆっくりと立ち上がる。
「大丈夫。きっと力を使いすぎて、疲れているだけだから」
それでもまだ、幾分心配そうな表情を浮かべているアレンに、クレアを運んでくれるように頼むと、ジャンは後ろで、まだ腰を抜かしたようにして座り込んでいる男達を振り向いた。
ジャンと視線があうと、男達が小さく息を飲むのが聞こえた。
哀れな程に、怯えきった彼らは、今まで大勢で同じように圧倒的な強さを見せ付けては、追剥のような事を繰り返していたとは思えない。
結局は、群れる者ほど、独りになり、圧倒的な強さを見せ付けられる事に弱いのだろう。
「早く立ち去れ。……もし、また同じ事を繰り返してみろ、今度は俺が許さない」
低く吐き捨てるように言うと、男達は立ち上がる事すら忘れたように尻をついたまま、じりじりと後退さると、何とも言い難い叫びを上げると、先を争うようにして我先にと、その場を逃げ出した。
それを黙って見送り、男達の姿が角を曲がって見えなくなると、急にそれまでの緊張の糸が切れたのか、体から力が抜けた。
後ろに倒れそうになるのを、踏ん張るのも面倒で、そのまま倒れるに任せる。
どん、と地面にぶつかり、突き上げるような衝撃が駆け抜けた。
「おい、ジャン!大丈夫か!?」
「何だ。まだ居たんだ」
てっきり、クレアを連れて先に行ったものだと思っていた。
「いや、それよりお前……」
「燃料切れ。ちょっと動けないみたい」
苦笑を浮かべながら言うジャンに、困惑したようにアレンは視線を向ける。
「大丈夫……、なのか?」
「うん。ちょっと……いや大分疲れただけ。力使い過ぎた」
アレンはそれに曖昧な返事を返すと、先ずは意識を失ったままのクレアを抱え上げようと、屈みこむ。
「ちょっと待ってろよ。すぐに戻ってくるから」
その言葉通り、アレンはすぐにジャンのもとへと戻ってきた。
隊商ではあまり目立った混乱はないらしく、馬車の中にクレアは寝かせてきたという。
「とりあえず、使い手がいる盗賊に出くわした、って言っておいたから、お前も口裏合わせてくれよ」
ジャンに肩を貸しながら、言うと、すぐにアレンは歩き出した。
「あ、アレン悪いけど、あれ拾って」
その言葉に、ジャンの視線を追うと、地面に無造作に転がった神器に行き着いた。
「?何だ、これ」
見た目ですでに不思議なのだが、手に取ろうとすると、目に見えない膜で遮られたようにして神器本体には触れられず、その周囲の球状に囲まれた透明な目に見えない部分を触る事になる。
それにアレンは更に不思議そうに神器を見る。
「これ…さっき光ってたのか?」
いまだに内から、仄かな光を放つ神器に、アレンはぽつりと呟いた。
「うん。クレアのだから、後で返しておくよ」
同時に伸ばされた手に、神器を渡すと、再び二人はゆっくりと歩き出した。
今のものが何であったのか、気にならない訳ではなかったが、ジャンの雰囲気に、聞くに聞けずに、アレンは黙って隊商まで戻った。
ジャンはよっぽど疲れていたようで、馬車に乗せると、すぐに寝入ってしまった。
それを見届けてから、アレンは久し振りに、護衛の指揮を執った。
すくなくとも、今日と明日くらいは、ジャンは護衛の仕事をこなせないだろう、と思い気を引き締めた。 |