64、傍観者
『熱い。体が、熱い』
力が湧き上がる。
否、湧き上がるのでは、ない。
吸い取られるようにして、引きずり出される。
『何が、起きているの…?』
意識が朦朧とするようで、クレアには分からない。
自分の力が、まるでクレアとは全く関係のない何かのようで、それだけで、意思を持っているかのように動く。
実際クレア自身、力の動きを把握できていない。
暴れ狂う馬に跨っているかのように、僅かに力の先に引っかかっているのみで、力に振り回される。
『何が起こっているのだろう…』
無理矢理に引きずり出される今までに感じた事もないような力の大きさに、疲労し、苦しかった。
しかし、どこかが、妙に冷静で、心も体も苦痛を訴え、叫んでいたが、そんな自分をどこか冷静に見ている自分もいた。
けれどもそれは傍観者としての自分で、何の力も持ってはいない。
憎く憎くて苦しむ自分をただ、見るだけ。
力の感覚に限界を訴えようとする苦痛を、冷静に受け止める。
それだけで、冷静なのにどこかぼんやりとしていて、状況が良く分からない事は分かっても、その状況を把握する事は出来なかった。
不思議な感覚だった。
感情も力も、全く抑えられず、苦しんでいる自分と分離してしまったかのような、冷静だが、状況をぼんやりと見るのみで思考が働かない自分。
また、体の奥底から力が引きずり出される。
その苦痛にまた体が悲鳴を上げるが、それ以上に心が苦しかった。
引きずり出された力が、膨れ上がり、押さえが利かなくなり、体から放たれる―…。
そう、思った瞬間、視界の端で何かが動いた気がした。
何か…いや、誰かが、自分の前に立っている。
『誰―…?』
冷静な自分が一瞬そう思った。
けれども、それが誰なのか、はっきりと見えない。
『もう、間に合わない…力が、放たれる…。―力が、放たれる…?さっき、私の前に立っていた人は、どう、なるの…?誰が、立っていたの…?』
霞んだように白くにごっていた視界に、微かに黒い人影が見えた。
目を凝らせば、それが少しずつ色合いを帯びていく。
『ジャン?ジャンが、立っている…?どう、なるの…?』
やっと、そこに思考が至る。
そう思った瞬間、す、と体が冷えたような感覚が走った。
今まで、完全にクレアの手から離れていた力が、その動きを僅かに緩める。
それと同時に、今まで荒れ狂っていた感情も僅かに収まる。
何か、叫び声が耳に届いた。
耳元で唸る風に掻き消されて、何と言っているのか定かではないが、必死の叫びであるのだけは分かった。
とにかく、それを聞き取ろう、と力を抑えようとするが、思い通りにはいかない。
『駄目…放たれる…』
「クレアーっ!!止めろーっ!!」 |