61、親子
「…使い手って、単なる魔法使いとは違ったんだなぁ…」
簡単に、ジャンから使い手についての説明を聞いたアレンが漏らした感想に、ジャンは笑う。
「まあね。皆使い手って言うと、不思議な力を使って何でも出来る、って思ってるみたいだけど、実際はそうじゃない。ちゃんと出来る事には理由があってそれを越える事は出来ない」
隊商の人々から少し離れた所に二人は座っていた。
そこまでは炎の光もあまり届かない。
聞こえるのは周囲の草むらに潜む虫の声のみで、隊商の者達の話し声も時々思い出したように聞こえるだけだった。
「まぁ、それで、使い手と力の説明については終わり。何か質問は?」
「ん〜…今のとこは平気かな。でも、何となくでしか分からないけどなぁ」
心許無さ気に言うアレンにジャンは笑う。
「そりゃそうさ。今まで感じた事もない、元々言葉に表せないような感覚の事を口で説明する方が無茶なんだから。とにかく、やってみるしかないよ。…まぁ、アレンもどっちかと言えば使い手向きだしな」
「そうなのか?」
嬉しそうに聞き返すアレンに苦笑しながらジャンは頷く。
「力は誰でも持ってるけど、その量は違う。使い手ならある程度相手の力の大きさが分かるんだけど、アレンは結構その力の量が多い方だから。…まぁ、力が多いからと言って力を扱う能力に長けているとは限らないみたいだけど、少ないよりは使い手向きだと思うよ」
ふ〜ん、と呟いてアレンは自分の体を眺める。
「良く分からない気もするけど…とにかくやってみれば分かるんだろ?」
「ああ。じゃあ、早速やってみる?って言っても俺は練習方を教える事しか出来ないけど」
言ってジャンはクレアの時と同じように説明を繰り返す。
まずは腕を力のみで持ち上げる事。
「…それだけ?」
何をするかだけ告げ、それ以上何も言わないジャンにアレンはそう尋ねる。
「ああ」
「もっとこう、やり方とか有益な言葉とか…」
「…そんな感覚的な事言葉に出来ないって…それにやってみれば何とかなるよ。まずは集中して自分の体の中の力の感覚を探る事。それぐらいしか俺は言えないって」
「…案外ジャンって厳しいのな…」
肩を落とすとアレンは溜息をつく。
「クレアだってちゃんと出来たって。何とかなるよ」
「…クレアはな…」
小さく呟いたアレンの言葉はジャンには届かなかったようで、アレンは分からないまでも、とにかく自分の体の中にあるという力とやらの存在を感じようと、目を閉じた。
それを見てジャンはアレンのすぐ側で横になる。
マーブルを出て二日。
マーブルが宝石などの装飾品の加工などで有名である為か、それを狙った盗賊が異様に多かった。
そのためジャンもこの二日は力を使う事が多く、疲れも溜まっていた。
夜は夜で襲撃があるので、中々気を抜けない。
そのため眠りも浅くなる。
もうしばらくすれば盗賊も少なくなるのだろうが、まだ暫くは多いだろう。
寝れる時に寝ておかなければ、さすがに体力がついていかない。
今夜も起こされては堪らない、と思っていたが、その夜に襲撃はないまま夜が明けた。
「どう?」
朝目を覚ますとすぐに、ジャンは眠そうに欠伸をするアレンにそう声をかけた。
「どうもこうも…何が感覚何だかさっぱりだ」
疲れたように言ってアレンはもう一度欠伸をする。
何が力の感覚なのか分からないが、分からないなりに必死になって集中していたアレンは、つい夜遅くまで熱中してしまい、完全に寝不足のまま翌朝を迎えていた。
眠い目を擦りながら、ぼんやりと朝食をとり、周りが動きだしたのを見て自分も立ち上がり、出発の準備をする。
動き出した隊商の後から付いて歩きながら、アレンは更に後方にクレアの姿を認め、歩みを緩める。
「おはよう」
声をかければ、ちらと視線を向けるだけで、クレアは全く言葉を返さない。
そんな事に頓着していては身が持たない、と既にアレンは諦めていたため、気にした風も見せずに横に並ぶ。
それにクレアは表情一つ変えずに前だけを見て歩く。
「なあなあ」
「……」
「お〜い、クレアもさあ、ジャンに習ってるんだろ?力の感覚ってどんな感じ?」
「……」
「何かさぁ、良く分からないんだよなぁ。今こうやって歩いてる時にも力使ってるんだろ?どこをどう探れば良いのか…さっぱりだな」
アレンは一人で話しながらクレアの表情を窺う。
クレアは無表情のままで、アレンには何を考えているのか全く窺い知れない。
「でも、きっと一回分かれば目から鱗って感じなんだろうなぁ…」
「…話したいんだったら、他に行けば?」
尚も話し続けるアレンに痺れを切らし、クレアはとうとう口を開いた。
「だって、力の事はやっぱ一番近い先輩のクレアかなぁ、ってさ」
ニヤッ、と笑って気を悪くした風もなくアレンは言う。
掴めない、とクレアは思う。
突き放すような言葉を言っても、一向に気にせずにアレンは話しかけてくる。
更に何か言おうと口を開いたが、クレアの言葉はアレンの耳に届く事はなかった。
クレアの声を遮ったのは、甲高い悲鳴だった。
声は後方から響いてきた。
一番後ろを歩いていたクレアとアレンが振り返ると、ちょうど一人の女が少し前に一行が曲がった急な曲がり道を走って来る所だった。
女は何かを胸に抱え込むようにして走っていた。
「…子供か?」
呟くように言ったアレンの言葉に、クレアもようやくそれが幼子である事に気付いた。
隊商の者達も悲鳴に気付いてはいたが、その原因はまだ分かっていない様子だった。
隊商の前の方を歩いていたジャンも、連日の盗賊の襲撃から力を使う範囲は最小限に止めていたため、隊商より少し離れている親子には気付いていなかった。
位置的に親子に気付いているのは、まだ、クレアとアレンのみ。 |