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月夜霊
作:小夜



60、決意


「おいっ!ジャン、クレアっ!やったぞっ!」
 そう叫びながら、アレンが駆け寄って来たのは、マーブルを出てから二日目の朝の事だった。
 子供のようにはしゃぐアレンを、クレアはいつものように、大して興味を引かれた風でもなく淡々と、ジャンは唖然としたようにして見ていた。
「悪いね、ジャン。言いくるめられてしまった」
 言ったのはアレンの後ろから歩いて来たアレンの父親、ウィリアム・コールダーだった。
「本当に良いんですか?」
「仕方ないね。息子の生き方まで親が決める訳にはいかないからね…」
 全く、困った息子だよ、とウィリアムは頭を振りながら言う。
「ジャン、待ったはなしだからな」
 自分に向き直ったジャンを見てアレンはそう言った。
「そうじゃないよ。ただ…」
「覚悟も出来てる。俺だって子供じゃないんだ。自分が決めた事の責任から逃れたりはしない。ちゃんと、真剣に考えたんだ」
 一瞬の沈黙の後、ジャンが微かに笑って頷いた。
「分かった。もうこれ以上言わない」
 その言葉にアレンは満足そうに笑うと、急に表情を引き締める。
「それじゃあ、これからよろしくお願いします」
 言って頭を下げるアレンに、ジャンは軽く驚いたように瞬いた。
「…あれ?変、だった?」
 ジャンの反応にアレンも急に気恥ずかしくなったのか、言って頬を掻く。
「あ、いや、そうじゃないけど…」
 人に頭を下げられる経験があまりになく、戸惑っていたジャンが、ただちょっと慣れないだけ、とアレンに伝えようとした時だった。
「…ねぇ、もしかして一緒に来るの?」
「そのつもり、だけど…ねぇ?」
 アレンと顔を見合わせてジャンは言う。
「ああ。長い付き合いになりそうだし、よろしくな」
 笑って言うアレンを一瞥し、クレアはすぐに興味をなくしたように視線をそらした。
 ジャンは少し困ったようにアレンを見ると、クレアには聞こえないようにごめん、と囁いた。
 それにアレンは笑って良いよ、と口だけ動かして答えた。
「じゃあ、アレンにも教えていかないとなぁ」
「おう。もう今日から良いのか?」
 ジャンはそれに一つ頷く。
「ああ。いつからでも。今日からが良いなら今からでも良いし」
「本当に!?今からでも良いのか?」
 急き込んで聞くアレンにジャンは苦笑を浮かべる。
 そんな二人の会話を背中に受けながらクレアは溜息をつく。
 自分でも良く分からない程に気持ちが落ち着かない。
 苛々してどうしようもなかった。
「う〜ん…今からでも良いけど、そうだな、夜になって落ち着いてからが良いかな」
「分かった」
 どうしてアレンと一緒に行かなければならないのだろうか。
 誰とも関わりたくはない。
 誰にも自分の領域に軽々しく入り込んで来て欲しくはない。
 苛々する、落ち着かない。
 力の練習をしようと思っても、気持ちを集中できず、更にそれに苛々する。
「クレア?大丈夫?」
 様子がいつもと違うのに気付いてか、ジャンが後ろからそう声をかけてきた。
 クレアは僅かに振り返ったが、それに答える事はせずにまた前を見て、二人から少し距離をとるようにしる。
「…どうしたんだ?」
 アレンも訝しげにクレアを見ながら言う。
「さあ…苛々してるみたいだけど…」
 ジャンもまた首を傾げる。
「俺、か?」
 原因が自分が一緒に行く、と言った事だろうか、とアレンが言えば、ジャンもそうかもね、と同意する。
「でも、クレア少し良くなってきたのかも」
「何が?」
「あんまり感情を表にださなかったから、クレアは。こんな風にはっきり分かる程感情を表に出すなんて、本当になかったんだ」
 言われてアレンも、感情の起伏を全く表さないクレアの表情を思い出した。
 良くも悪くも、人と関わる事がクレアに変化をもたらしたのだろう。












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