5、闇
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クレアとジャンが表通りに出ると、そこにはまだ広場から家へと向かう人々が多く歩いていた。しかしすぐに、人通りもまばらになり、消えた司の捜索のために相当数の人々が狩り出されたらしく、捜索隊の持つ松明の光が街のあちらこちらで見られるようになった。その様な状況では、表通りを悠長に歩いている訳にもいかず、二人は裏通りへと滑り込んだ。
それでも暫くは、捜索隊の目を掠めて行動する事は、さほど難しくはなかった。捜索隊の者たちは、それこそ血眼でクレアを捜していたが、二人はその中を小走りに裏通りから、更に細い裏通りへと、縫うように進んでいった。
セレサの人々は孤児や流れ者を嫌う。流れ者の孤児である二人への風当たりは当然強く、仕事ももらえずに食うに困り、止むを得ず市場などで食べ物を掠める事もあった。そのため、追っ手や、こそ泥を捜す人々の目に留まらないように逃げる事は、二人とも嫌でも上手くならざるを得なかった。さらに、夜の闇も二人に見方している。いくら松明を持っているとはいえ、松明の光は逆に遠くから見えるだけでなく、松明を手にしている側は、光が近くにある分、光が届く範囲ならば良く見えるであろうが、少し離れた光の届かない場所は闇が深まり見えなくなってしまう。その為、捜索隊を避けるのは造作もない事であった。
普段ならば、二人が捜索隊に見つかる事などあり得ない事である。しかし、事が事だけに捜す側も必死だ。隊を組んで行動していた捜索隊も、いつの間にか二人一組に変わったらしく、幾度も鉢合わせしそうになり、二人は来た道を引き返しては、また別の道へと進む事を繰り返していた
「ねぇ、ジャン、城門は閉まってる…よね?どこに向かってるの?それにセレサを出ようにも、城門はもう見張られてるんじゃ…」
クレアを先導するジャンに、どこに向かおうとしているのかも分からず、ただ付いて行く事に耐えられなくなり、何組目かの捜索隊をやり過ごした後、クレアはそう尋ねた。
「あぁ…心配ないよ」
ジャンはそう言ってクレアを振り返った。
「付いて来れば分かるよ」
それだけ言うと、ジャンはまた前に進み始めた。そんな答えでは、クレアの問いへの何の回答にもなってはいなかったが、このような状況では、これ以上問い返すのは気が引けて、クレアは仕方なくまた足を踏み出した。
ジャンはさらに細く、隠れる事のできる様な物影もない一本道に入っていった。石畳の道路は舗装が悪くなっていき、ところどころ石が剥がれていたりする。
セレサは今まで、守護使いの司が途切れた事が百年以上なく安定した治世が続いていたため、それなりに街は豊かだった。道も敷石でしっかりと舗装されていて、この道の様に整備されていない道は珍しかった。
しばらくまっすぐな道が続いたが、道は急に曲がり角を作りさらに細くなっていった。
「!クレア、戻って!」
角を曲がった途端、ジャンが緊張した声音でクレアに囁いた。見ると、角を曲がってすぐの脇道から、ちらちらと揺れる明かりが漏れていた。慌てて踵を返し、足音を立てずに出来る限りの速さでその場を離れようと角を再び曲がった。
しばらく、枝道のない一本道を歩いてきた。もし、こちらに来れば二人の姿は目につくだろう。
鼓動が高まり、全身に血が駆け巡った。耳に痛い程の自分の心音を聞きながら、頭は妙にはっきりとし、時間が普段の数倍遅く流れているように感じる。
舗装がしっかりしていない道では、どうしても足音が立ってしまう。街中が静まり返っているだけに、それがやけに大きく聞こえ、足音だけでなく、自分の呼吸音や心音まで追っ手に聞こえてしまうのではないか、という考えが頭をよぎった。 |