58、練習3
「でも、ちょっと感覚分かってきた?力の配分さえ分かるようになれば、こう言った動きは割りと楽だからさ。ただ、瞬時に使えるようにならないと危ないけどね」
そう言ってジャンは笑む。
あ、それと、とジャンはクレアを見る。
「ああやって下りる時にはまだ意識するんだけど、これからどんどん力使った動きしていくけど、簡単に地面に降りるのだって相当な速さだから、ちゃんと地面に着く前に動きを緩めないと怪我するから、忘れないでね」
それにクレアは一度頷く。
確かに、場合によっては怪我どころでは済まないだろう。
「でも、初めのうちは特に忘れやすいんだよな」
苦笑するジャンにそんなものなのだろうか、とクレアは思う。
まぁ、問題はすぐに力を使って早さを緩められるか、なのだが…。
「よし、じゃあ、もう少し、他の木でも練習してみて。いろんな高さの木にすぐに飛び乗れるようになったら次の練習にするから」
言われてクレアは辺りを見回す。
何となくではあるが、もう大分分かってきたような気がする。
適当に近くにあった木に近づくと見上げて高さを測る。
一つ深呼吸をすると先程と同じようにする。
今度は直感的に感覚が分かった。
階段を上る時にどれだけ足を上げたら良いのか考えなくても分かるように、どれだけ力を使えば良いのかも何となくだが分かる。
何だか、とクレアは思う。
昔から知っていた感覚のようだった。
慣れ親しんで忘れていたものにもう一度出会ったかのような。
「ジャン?」
どうかしたのか、とアレンは問いかける。
先ほどから全く喋らずにクレアの動きを眺めている。
「ん…何だか早いな、と思って。俺はもうちょっとかかったし」
「ふ〜ん」
早いんだ、と呟いてアレンもクレアを見る。
もう失敗する事もほとんどない。
時々着地には失敗していたが、それもほとんどなくなっていた。
一時間ほどもすると、ジャンが手助けする事もほぼなくなった。
時々危なっかしい動きはあっても、ジャンが助けるほどではない。
それを見てジャンは声を上げる。
「クレア〜、ごめん。今日はもうそろそろ街に戻らないと閉門になりそうだから、これまでね」
ここに来たのが既に昼頃だったので、実質的にはあまり長時間は力の練習が出来なかった。
「…もう?」
怪訝そうにクレアが聞き返すのもそのはず、日没までにはまだ時間があり、ゆっくり帰っても十分閉門には間に合うだろう。
「ああ。ちょっと普通に帰る訳じゃないから」
ジャンの言葉にクレアも枝から下りてこちらへと歩いてきた。
「帰りは道を行かない。木の枝に飛び乗ったり下りたり、今みたいな事をしながら行く」
「え…」
少し不安気なクレアの声にジャンは軽く笑む。
「大丈夫。力を使いこなせてたなら、本当は歩くよりも早いんだけど、多分時間かかるだろうからね。俺が先に行くからクレアは後をついてきて。あ、ちゃんと危なかったら助けるからさ」
言ってジャンはアレンを見る。
「あ、えっと…俺はどう…」
頭を掻きながらアレンが言うとジャンは少し考えるようにする。
「そうだなぁ、街に近いとはいえ、一人で歩くのは危ないよな〜…まぁ、良いや」
「…は?」
良い、と言う意味を図りかねてアレンは間の抜けた声を上げる。
「あ、いや、俺が運ぶよ」
「運ぶ…?」
アレンはジャンを見る。
どう見てもアレンの方がジャンよりも背が高い。
運ぶ、とは負ぶる、と言う意味だろうか?
だとすれば、かなり無理がある気もする。
「いや、俺が背負う、とかそんな意味じゃなくて…」
アレンの表情を見て察したのか、ジャンはそう言う。
「ええっと、何て言えば良いんだろう?…つまり、こう言う事」
説明に困っていたジャンが急に思いついたようにしてそう言ったかと思うと、アレンはふわり、と体が浮くのを感じた。
「え?うわっ!?」
完全に足が地面から離れふわり、と宙に浮くのは想像していた以上に不思議な感覚だった。
「これなら平気だろ?」
言って笑うジャンにアレンは頷く。
「すげぇ〜」
感心して、アレンはくるくると体を捻りながらそう言う。
「良し、じゃあクレア、良い?」
「うん、ちょっと待って」
言ってクレアは少し目を閉じ集中する。
そうして、クレアが次ぎに目を開いたのを合図にジャンは手近の木の枝に飛び乗った。 |