57、練習2
ジャンが飛び乗った木の枝まで、下から見上げるとすぐそこのようにも見える。
だが、自分がそこまで飛び上がるのだ、と考えると急に枝が遠くなったように感じるのだから不思議だ。
言われたようにクレアは腕を持ち上げた時のように、力を意識する。
繋がった、と感じると膝を曲げ屈み込む。
足に意識を集中し、力を集める。
ためる、と言うのだろうか。
力を集め、そこで止める。
それを、動きに合わせて一気に放つ。
と、思いの他高く飛び上がり、気がついた時には木の枝など通り越し、木と同じ程の高さまで来ていた。
それに思考がついていく前に上に向かっていっていた体がゆっくりな動きに変わり、一瞬空中で静止した。
落ちる、と思ってからの長い一瞬。
静止した体が急に重さを持って、地面に向かって落ち始める。
それは加速度的に早くなり、みるみるうちに地面が迫ってくる。
ぶつかる、と思い反射的に目を閉じた。
しかし、急にふわり、と体が浮く感覚が広がり、クレア、とジャンが呼ぶ声が耳に届いた。
その声に誘われるように目を開くと地面から少し上で浮遊する自分と、驚いて目を見開いているアレン、そしてこちらへと歩いてくるジャンの姿が目に入った。
「大丈夫?だから加減には気をつけて、って言ったのに」
ジャンの言葉とともにゆっくりと体が下がり、着地した。
ああ、ジャンが助けてくれたのか、とそれでやっと思い至る。
「ありがとう」
見上げるとジャンは苦笑を浮かべている。
「まぁ、普段の感覚だとそうなるんだけどね」
言ってジャンはクレアの元から離れ、アレンの隣りに座り込む。
「まぁ、危なくなったらちゃんと助けるからさ」
言いながらジャンは笑みを浮かべる。
それを見てクレアは視線を戻す。
何となく感覚は分かった。
力は基本的には空気や水といったものと変わらない。
例えば、人は呼吸をするが、吸った息を一息に吐けば、それは勢い良く出る。
蝋燭を吹き消す時の息は細くするどい。
かじかんだ手を暖めるために吹きかける息はゆっくりと広がる。
そう言った事が同じように出来る。
それは水も同じ。
今の感覚は水の方が解りやすいかもしれない、とクレアは思う。
例えば水鉄砲。
多くの水をためて、一気に放てば勢い良く水は飛び出す。
力もそれと同じだ。
出口の大きさを小さくしたり大きくしたりする事によって水の出方が変わる。
空気や水の性質。
同質の何かを力も持っている。
クレアは再び力の感覚を探り、自分と繋げる。
あまり多くの力を割きすぎないように気を配りながら屈む。
しかし、飛び上がるまでは良いのだが、まだ力配分の感覚が掴めず、飛びすぎたり、逆に届かなかったりを繰り返した。
届かなかった時はまだ良いのだが、問題は飛びすぎた時だった。
飛びすぎた時には相当な高さから落ちてくる訳で、地面につく頃にはかなりの早さになっている。
クレアはまだ力を瞬時に思う通りに、細かく使う事が出来ないため、その度にジャンに助けられる。
そんな事を幾度となく繰り返すうちに少しづつ力配分が分かってきた。
「出来た…」
幾度目かの挑戦でか、クレアは小さく呟いた。
「おっ!すげぇ〜」
下からアレンの声が聞こえてきた。
「クレア〜、降りてきて〜」
ジャンの声にクレアは下を見る。
案外離れて見える地面に、ちゃんと飛び降りられるのか、不安を感じて見下ろしていると再びジャンの声を耳が拾った。
「大丈夫だって。一度自分でやってみなよ。危なかったらちゃんと助けるからさ」
もう一度地面を見下ろしてからクレアは目を閉じた。
集中してもう一度力を探る。
繋がったのを確認してクレアは枝から足を放した。
思いの他落ちる早さは早かった。
しかし、実際の速さとは裏腹にまるで何かどろっとした物に絡めたられたかのように全てがゆっくりと見える。
そんな中、焦る自分と、落ちて行く様が手に取るように分かる。
何とか力を使おうと必死になればなる程にそれは不可能な事のように感じられる。
地面につく寸前、僅かに浮遊感を感じたが、結局自分の力ではどうする事も出来ず、ジャンに助けられる結果となった。
「惜しかったね」
ジャンはそう言ってクレアの元へと歩いてきた。
「…うん…」
表情はほとんど変わらないものの、悔しがっている事を感じ取ってか、ジャンは小さく笑みを零す。
「惜しかったよ。初めてであれだけタイミング合わせられたら十分だって」
う〜ん、とクレアは首を傾げる。 |