54、信頼
言い終わってから、やっとジャンは視線をアレンに向けた。
アレンは少し前から気にかかって仕方がない事を問おうか、と口を開いたが、返答が恐くなりそれを思い止どまり、再び口を閉じた。
こんな話をする、って事は俺は信用されてるって事だろう、とそう思うが、不安は消えなかった。
信用したように見せるとは、こういった事を意味するのか、普段の人懐っこい様子を指すのか、あるいはその両方か…アレンには判断がつかなかった。
アレンにとって、ジャンは初めて、とも言える友達だった。
豪商の息子…それは、人を寄せ付ける半面、人を遠ざける肩書きでもあった。
寄ってくる友人の大半は金目当て。
アレンの人間性は見ようともしない。
ただ気に入られて側にいて、甘い汁が吸えればそれで良い、そう言った連中だった。
名を隠そうにもそこは閉鎖的な街の中、ある程度有名な豪商の一人息子、顔は知られていた。
商人の息子同士仲良くしようにも利害関係が絡んでくる。
いつも周りに人は居た。
しかし、アレンには本当に友達と呼べる存在はいなかった。
確かに店の使用人達は慕ってくれていた。
新参も古参も関係なく、使用人も含めみな家族、と言う思いはあったが、やはり家族なのだ。
雇う者が保護者であり、雇われる者が被保護者なのだ。
親子の関係とは違う、そんな中に生まれる保護者と被保護者の関係。
それがどれ程親密な関係であったとしても、その構図から極わずかにしろ上下関係が消え去る事はない。
そのほんの微かな境界線が事あるごとにその存在をちらつかせるのだ。
理解を持ってくれる人も、愛情を注いでくれる人もいた。
それこそ不満を言うのは罰当たりのような環境だった。
しかし、何にも縛られる事がなく、対等な関係で何も気にかけずに一緒にいられる友達はいなかった。
どれ程心地良い環境であろうとも、そういった友達を求めてしまうのは当然の事だったのだろう。
アレンはジャンの様子を窺い見る。
ジャンはアレンが考えているであろう事の予想はついているのであろうが、それを否定する事はしない。
それがまたアレンの不安を煽り、直接尋ねる事を更に躊躇わせるのだった。
「…ジャン、それは…」
それ以上なんと言って良いか分からずにアレンは口をつぐむ。
「ん?…あぁ、アレンの事は信用してる」
突然、そう言ったジャンにアレンは驚いて顔をあげた。
ニコニコと笑うジャンの顔を見て、アレンは拍子抜けしたように息を吐いた。
「…何だよ…それならそうと早く言えよ……今の言葉信じるからな」
気が抜けたようにしてそう言ったアレンであったが、最後には真剣な表情で念を押した。
「ああ。アレンは…友達だからな」
恥ずかし気もなくそう言うジャンにアレンは妙に気恥ずかしくなり、頭を掻く。
特に恥ずかしがるような事ではないのかもしれないが、嬉しい反面恥ずかしいのも確かでアレンは目を逸らす。
「ああ…良かったよ」
照れ隠しなのか、少しぶっきらぼうな口調でそう言う。
それにジャンも笑顔を返す。
「そういえば、クレア遅いね」
ふとジャンがクレアの部屋の方へ頭を向けてそう言った。
話し込んでいたため時間を忘れていたが、既に太陽は高くなり朝というよりは昼に近い。
「部屋覗いてみるか?」
「うーん…多分もう起きてはいると思うんだけど…まぁ、声かけてみる?」
そう言ってクレアの部屋を見たジャンは、立ち上がり、ドアに近づいていった。 |