53、人間不信
「本当に俺がクレアを救えるのかも、力になれているのかも分からない…だけど、それでも俺は絶対にクレアを裏切ったりはしない。それしか俺に出来る事はないから」
その言葉にアレンは妙に納得した。
クレアがジャンは特別だ、と言った意味も分かるような気がした。
同じ闇を知る者なのだ。
同じ闇を知ってなお、もう一度人を信じた。
何か同調する物を感じるのだろう。
「クレアは、人を信じない、って言うけど、本当は違うと思うんだ。信じたいんだ…だけど、裏切られるのが恐くて信じる事が出来ない…今考えると俺もそうだった…」
裏切られないために、人を信じない。
最後の砦なのかもしれない、そうアレンは思った。
クレアにとってジャンは人は信じるにたる生き物なのかを確かめる、最後の賭けなのかもしれない。
もしも、ジャンがクレアを裏切るような行為をすれば、クレアはおそらくそれ以降、人を信じる事は絶対に出来ないだろう。
そんな事を考えていると、ふと言葉が口をついて出てきた。
「ジャンは…裏切られる事は怖くないのか…?」
一度闇を知った、それでも裏切られる事は怖くないのだろうか。
「…怖いよ。でも、もう一度人を信じて、その輪の中に入っていった時に、あの闇の恐ろしさにやっと気付いた。今、あの頃を思うと、その頃に戻る事の方がよっぽど怖いよ。それに、人間捨てたもんじゃない、そう思いたいだろ?」
「…ああ」
クレアや、ジャンの話しを聞くと、裕福な商人の息子をやっているとなかなか目に付かない、人の醜さを思い知らされるようだった。
「それに、俺だってすぐに人を信用する訳じゃないさ。ちゃんと人となりを見て信用に値するかどうか確かめるさ。多分、普通の人よりは相当用心してると思う」
ジャンの言葉にアレンは小さく首を傾げる。
その様子にジャンは軽く笑った。
「そうは見えない、って思っただろ?」
見透かされて、アレンは苦笑いを浮かべながら頷いた。
「それは俺が使い手の力を手に入れたから、だろうな…」
そう言ってジャンは小さく笑った。
その笑みは、普段浮かべている人好きのするものではなく、どこか自嘲めいたものだった。
「ジャン?」
思わず声をかけると、ジャンは少し困ったようにもう一度笑った。
「ある意味一番質が悪いかもね。…俺は一応使い手だから、ちょっとやそっとじゃ何かあっても危害は加えられないだろ?」
その言葉にアレンは頷く。
危害を加えようにも、すぐに返り討ちにあうだろう。
「だから、気を許したようにしながら、内心は疑ってたりもする…」
その言葉に、はっとしてアレンは顔をあげる。
ジャンは、アレンが思っているであろう事の、想像はついているのだろうが、それにも薄く笑むばかりであった。
「…信用していない、そう意思表示するだけでも自分の身をある程度守れる。でも、それをしなくて良いだけの力を手に入れたから、今の俺がいるんだ。この力がなければ、またあの闇に逆戻りしてたかもしれない…」
ジャンはそう言って目を伏せた。
「別に全く人を信用しない訳じゃないし、回りの人を全員利用してるつもりでもないよ。ただ、信用するには時間をかけてしっかりと見極めるだけ。ただそれまでは、どこかで利用しあってる、って思ってるけどね…。裏切られた時って、実質的な損害と心を傷付けられるのと二種類あるだろ?実質的な損害のリスクは、俺にはほとんどないから、あとは気持ちの問題。もし、何か親切にされて、裏があるんじゃないかと思っても、信用したように見せかけとけば、何も裏がなかった時に相手も傷付かないだろうしさ。裏があったって俺は傷付かないし。信用したように見せてただけだからさ。…もしそれで、信用を置く人を見誤ったらそれは俺の目が悪かっただけの事だし」 |