月夜霊(52/74)縦書き表示RDF


月夜霊
作:小夜



51、初めの出会い


 次の日の朝、昨日、夜中に目を覚ましたのと、疲れのためか、クレアはなかなか起きてこなかった。
 先に朝食をジャンとアレンの二人でとり、昨夜のクレアの話をゆっくりと話した。
 ジャンもその話しは知らなかったようで、黙ってアレンの話しを聞いていた。
「そう、か…クレアがそんなに話すのは珍しいな…」
 聞き終わった後にジャンはそう言った。
「俺はずっとクレアと一緒にいたけど、あんまりその時の事や自分の気持ちは話してくれないな…」
 そう言ってジャンはアレンに視線を向ける。
「昔はクレアも今みたいじゃなかったんだ。どちらかと言うと俺の方が今のクレアみたいだったかな…」
「え?」
 一瞬ジャンの言う意味が良く分からずに、アレンは顔を上げる。
 それにジャンは笑みを返して話し出した。
「ほら、俺も父さんを亡くしたって言っただろ?その時父さんと一緒に泊まってた宿屋を放り出されて、セレサを彷徨い歩いて…。やっぱ孤児ってみんな人間不信なとこはあるからさ。親切にしてくれる人なんてそうそういない訳だし、どっちかと言うと邪魔者だろ?目障りな役立たず、みたいなさ。何か仕事があれば良いけど、孤児だというとなかなか雇ってはくれないし、食べ物を盗んだりする訳。そうすると、また嫌な目で見られるだろ?そんな感じで何とか生き抜いて、クレアとクレアのお母さんに会ったんだ」
 今のジャンからでは想像もつかないが、街にいる孤児達は皆、人を疑った目をして、出し抜かれないように、騙されないように、と抜け目のない視線を人に向ける。
 ぶっきらぼうな口調で人と話し、もらえた仕事を淡々とこなし、仕事のない孤児は市場で食べ物を掠め、狭い路地に逃げ込んでいく。
 そのような目をして、そのような口調で人と話していたんだろうか。
 今のジャンからはそのような雰囲気は微塵も感じられはしない。
「その頃は、人を信じてはいなかったよ。クレア程じゃないけどね…。何となく周りは全て敵だ、って思ってた。他の孤児は稼ぎを奪っていくし、大人達は孤児を目の敵にする。だから、目につく人は全て自分に害をなすんじゃないか、と疑ってかかった。そんな時にクレア達に会った」
 そこでジャンは少し言葉を切る。
 続きを話し出そうとジャンは息を吸い込み、再び口を開いた。
「クレア達も流れ者で、どこかから少し前にセレサに来たみたいだった。クレアはお母さんがいたから、何とか小さな家に住んでたし、どうにか暮らしていけるような感じだったかな―…」
 そう言ってジャンはクレアとの出会いを話し出した。

 六歳になる少し前の秋、Bloody Dayの半年前の事だった―…

 ジャンの父が亡くなってから、一年と少し。
 何とか生き抜いていた。
 小さすぎて、仕事はもらえず、食べ物をなんとか掠め取れば、年長の孤児に奪われた。
 そんな中でも、なんとか生き延びた五歳の秋の事だった。
 
  †††††††††

 ここ一週間まともに食べ物を口にしておらず、さすがに、体力の限界がきていた。
 道端にうずくまるようにして座り込む。
 市場に行こうか、とも思うが食べ物を盗んで、そこから逃げ出すだけの体力があるかすら自信がなかった。
 結局動く気もせずに、そのまま座り込んでいた。
 そうやって、どのくらいたったのだろうか。
 行き交う雑踏は、ジャンには全く目もくれずに、忙し気に自分の用事を済ませようと通り過ぎて行く。
 そんな様子を見るともなくぼんやりと眺めていた時だった。
 急に日の光が遮られるのを感じ、ゆっくりと顔を上げた。
「大丈夫?」
 少し身を屈めてそう聞いてきたのは、ジャンと同い年位の女の子の手を引いた女の人だった。
 身なりから裕福でない事も、おそらく流れ者であろう事も見て取れる。
「一人なの?」
 黙って疑うような視線を向けるジャンに、女はもう一度声をかける。
「そこに家があるんだけど、来ない?」
 これにはジャンは黙って首を横に振った。
 女はちょっと困ったように首を傾げると、自分の娘を見る。
「クレア、ちょっと待っててね」
 そう言って女は納屋か何かのような、小さく、今にもつぶれるのではないかと言うような家へと入っていった。
 おそらく、隣に立つ家の物置か何かだったのを貸してもらったのだろう。
 クレアと呼ばれた少女は心得たように頷き、ジャンの側に座り込んだ。
「私ね、クレアって言うの」
 クレアは、ジャンの顔を覗きこむようにして、そう言った。
 何故返事をしようと思ったのかは分からない。
 もしかしたら、同い年位の子供が始めて友好的に接してきたからかもしれない。
 どこかで、仲良くできる友達が欲しいと思っていたのかもしれない、もしくは、ただその時の気まぐれだったのかもしれない。
 はっきりした事は覚えていないが、とにかく何を思ったのかジャンは返事を返した。 
「僕はジャン」
 言葉を交わしたのはそれだけで、しばらくは黙ったままだった。
 クレアは何をする訳でもなく黙って座っていたが、やがて近くに転がっていた石で地面に絵を描き始めた。
「…何描いてるの?」
 そう尋ねるとクレアは手を止め、顔を上げてジャンを見た。
「何だと思う?」
 楽しそうに笑いながらそう尋ね返してきた。
 クレアはころころと表情を変え、良く笑った。
 その為なのかは分からないが、すぐに仲良くなった。
 ジャンにとってもクレアにとっても初めての友達だった。
 ジャンだけでなく、クレアとて流れ者。
 なんとか暮らしてはいけるにしろ、人は冷たい目で見る。
 当然それは子供達にも伝わり、誰も友達になろうとはしなかった。
 クレアもそれが分かってか、あえて街の子供達に近付こうとはしなかった。
 そんな中で初めて出会った友達と呼べる存在だった。
「クレア、ご飯出来たわよ」
 そうクレアの母が声をかけてきた時には、二人は完全に打ち解けて遊んでいた。
 しかし、その一声で現実に引き戻されたジャンは、弾かれたように立ち上がった。
 それをクレアは不思議そうに見上げ、クレアの母は急に動けば、ジャンが逃げ出してしまうとでも思っているかのような、ゆっくりとした動作でジャンに視線を向けた。
「あのね、晩ご飯少し多く作り過ぎちゃったみたいなの。良かったら一緒に食べていかない?」
 逃げ出そうと、ゆっくりと後退りをしていたジャンは、その言葉に一瞬動きを止めた。
「ジャンも一緒に食べよ、ね」
 すかさずクレアがそう言ってジャンを引き止める。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう