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月夜霊
作:小夜



50、戒め


 ベッドにうつ伏せに横たわりクレアはネックレスをぼんやりと見つめていた。
 しかし、実際はネックレスを見ていたのではなく、それを通して見える過去を見ていたのかもしれない。
 手にネックレスを握り締めたままクレアは枕に顔を埋めた。
『私はあの場を逃げ出した…。怖くてお母さんを見捨てて逃げ出してしまった…』
 あの時を思い出して思う事は二つ。
 母を殺した者達への憎しみと、見捨てて逃げた自分への憎しみ。
 どうしてこれ程憎んでいるのに、迷うのかは、クレア自身にも良く分からない。
 どうしてセレサを殺す事を迷う必要があったのだろうか。
 誰も彼らに罰を与えてなどくれはしないのだ。
 ならば、クレア自身の手で罰を与えて、復讐するしかないのだ。
 自業自得。
 しかし、それは母を見捨てた自身の罪から目をそらしているだけなのだろうか。
『分からない―…』
 考えても答えは出ない。
 クレアは知っている。
 彼女が復讐をすれば、彼女と同じ思いをする子供が出来る事を。
 いつまでも憎しみは断ち切れずに修羅の道に落ちていく事えお。
 だが、人間など汚い生き物。
 綺麗な生き方なんてないのだ。
 どうせ、罪人の子供。
 人間は穢れた生き物。
 何を迷う必要があるのだろうか、と言い聞かせる。
 それでも、迷いは断ち切れない。
 そうやって何年も過ごしてきたのだ。

 結局は、まだ人を信じたいのかもしれない。
 信じて裏切られる事が怖くて、誰とも関わりたくないと思うのかもしれない。
 そう思うからこそ、人を殺す事に迷いを覚えるのかもしれない。
 自分の気持ちなのに、分からなかった。
 ただ、感情は復讐する事を望み、頭が止めてしまうのだ。
 自分でも分からない。
 どちらが正しいのかも、どちらが間違っているのかも。
 この先答えが出る事はあるのだろうか。
 それでも、自分が使い手としての強さを手に入れれば、どちらの道を選ぶにしろ十分な力を手にすることが出来る。
 生かすも殺すも、それをクレアの思い一つで叶える力を彼女は手に入れてしまったのだから。
 どちらにしろ、自分が使い手としての力を手にすることが出来た時には、しっかりと自分に答えを出そう、とクレアは心に決めた。
 誰に対しての誓いでもない。
 ただ、彼女自身の心に対しての誓い。
 このまま、答えを出す事なく、母の敵討ちをするでもなく、ただ無意味に過ごさないために。
 敵討ちをする訳でもなく、何の答えも出さずに生きていく事、それが母に対する一番の裏切りになるような気がした。
『私は一度お母さんを裏切った―…もう、裏切る事は絶対に、しない…』
 あの時、人間は汚い生き物だと知った。
 人を信じてはいけないと知った。
 自分以外誰も信じられないと知った。
 こんなにも穢れた人間で溢れた世界だと、始めて悟った。

 信じられる訳がなかった。

 自分自身ですらあんなにも汚い生き物だったのだから。

 母が殺される瞬間を目の前にしながら、何の行動もとらなかった。
 母の後ろから刃物をかざした男が近づいて来た時に、彼女が感じた気持ちは恐怖ばかりであった。
 自分は死にたくない、と言う気持ち。
 自分は助かりたい。
 母の事を考える余裕もなかった。
 ただ自分の命の事ばかりが、クレアの頭を埋め尽くしていた。
 その場を逃げ出して、街中を引きずり回される母を見ても取り戻す事は出来なかった。
 六歳の子供が出て行ってどうなった訳でもなかっただろう。
 だが、目にした瞬間に思った遺体を取り戻したい、という思いは次の瞬間には人々の前に出て行った時の自分の危険へと変わっていた。
 結局は自分の事ばかりだった。
 人間は所詮自分が大事。
 クレア自身の感情がそれを嫌でも思い知らせた。
 助けたいと思っても恐怖で体は動かなかった。
 助けたいと思っても次の瞬間には自分の心配をしていた。
 ギリギリの恐怖の中で思った事は自分の心配ばかりだった。
『私は、こんなに醜い―…』
 人間は汚い生き物だと知った。
 信じられるのは自分だけだと知った。
 唯一信じられると思った自分から人間が醜い生き物だとさらに実感させられた。
『私は、こんなに醜い―…。でも、今度は裏切らない。ちゃんと答えを見つけるから…。だから―…』
 また結局それか、とクレアは唇を噛んでさらに深く枕に顔を押し付ける。
『許して…、裏切った私を…』
 思ってはいけないと思っていた事をまた思ってしまった。
 過去だけではない、今だってやはり自分の事ばかりだ。
 復讐にしろ何にしろ、母に対しての裏切りの償い、それはしなければならない。
 絶対に。
 そう思う。
 だが、償いは償いであって、それをするから許して、とその相手に乞う事は誠意の欠片もない。
 唯々、自分が許されたいが為だけの行為になってしまう。
 クレアはゆっくりと体を起こし、少しの間ネックレスを見ると、首にかけた。
 それをもう一度眺めると服の下にしまい込んだ。
「そういえば、お母さんもこうやって隠してたっけ…」
 そう一人ごちると小さく笑みを漏らす。
 
 これは、戒め。
 母を忘れない為に、再び裏切る事がないように。
 クレアを縛る、戒め―…それとも…。

 服の上からそれを握り締め、ベッドに身を横たえると、ゆっくりと目を閉じた。
 今夜は何も夢を見る事のないように祈りながら、クレアは深い眠りへと落ちていった。


こんにちわ、小夜です。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
終了は地平線の先で、作者にすらまだ見えてきませんが、お付き合いいただければ幸いです。
まだ、移動は完了してはいないので、暫くは更新が滞る事はない、と思われます。
暗いし、シリアス一直線だし、文字数多いし、PCや携帯で読むのは苦痛だし、暗いし、暗いし、暗いし、暗いし……以下省略。
ほんっとうに重くてすいません。
一応、反省の気持ちはあるんですが、治りそうには、全くありません…。











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